月面旅行 13
僕たちはスカッシュを楽しんだ後、ベンチに座りながら、少し休憩をする。
ミサキがタオルで汗を拭きながら言う。
「楽しかったわね、スカッシュ」
「そうだな。初体験だったけど、これは面白いな」
ヤン太がミネラルウォーターを飲みながら答える。確かに面白かった。キングも感想を言う。
「重力が6分の1しかないのに、けっこう良い運動になったな」
「そうね。かなり動き回っていたからかしら」
ジミ子がメガネについた汗を拭きながら答える。
しばらく休んでいて、息が整ってくると、ミサキが何か思いついたらしい。
「こんなに楽しいスポーツがあったなんて知らなかったわ。今日はこの重力で出来る、全てのスポーツを楽しみましょう」
その発言を聞いて、レオ吉くんが慌てて止める。
「まあまあ、全ては無理かもしれませんが、出来るだけ遊びましょうか」
こうして僕らは色々なスポーツに手を出す事になった。
「レオ吉くんのオススメは、他に何があるの?」
僕がレオ吉くんに話を振ると、こんな答えが返ってくる。
「そうですね。バスケットボールが面白いと思います。ルールは同じですが、地球上でやるのと、だいぶ違ってきますよ。どうでしょうか?」
「じゃあ、バスケをやってみようか」
僕らは適当な方法でチーム分けをする。
今回は、ヤン太、僕、ジミ子。ミサキ、キング、レオ吉くん。というチームに分かれた。
バスケットボール場に着くと、レオ吉くんがロボットに指示を出す。
「ここに居る全員に『耐衝撃』の防具をお願いします。あと、チームがわかるように、色違いのチョッキを3着ずつ」
「了解しまシタ。色はどうしマスか?」
「じゃあ、赤と青でお願いします。あと、最初は練習をするので、人数分のボールを貸して下さい」
「了解しまシタ」
しばらくするとロボットが指示通りの物を持ってきた。
ヤン太が『耐衝撃』の防具を着ながら言う。
「この『耐衝撃』の服って、前にミサキが買ったヤツだよな。確かトラックに跳ねられても平気だったよな?」
すると、ミサキが得意気に話す。
「ええ、そうよ。衝撃だけでなく、高温にだって強い無敵の服よ。とっても凄いんだから」
「その割に、最近は着てないよね」
僕が指摘をすると、ミサキは慌てて言い訳をする。
「しょうがないじゃない。あの服は風を通さなくて、夏だと熱いんだもの」
この服はダウンジャケットのような感じで、緩衝材が入っている。夏場に着たくないは当然だろう。
服を着て、その上にチームカラーのチョッキをつける。キングがみんなの服を見ながら言った。
「この服はオーバーじゃないか? バスケだろ? そんな強い衝突はしないと思うぞ」
「まあ、そうかもしれませんが、念の為です。重力が弱いので、色々と勝手が違いますからね。まずは重力の違いを実感してもらおうと思います。その場でドリブルをしてみて下さい」
そう言って、レオ吉くんはみんなにボールを配る。
ボールを受け取り、みんなは言われたとおりにドリブルを始めるが、これが地球上とは大きく違った。地球と同じ感じで地面に叩きつけると、もの凄い勢いで跳ね返ってくる。あまりの勢いに、跳ね返りのキャッチを失敗すると、ボールは高さ3メートルくらいまで跳ね上がった。
地球と同じようにやると、どうやら力が強すぎるらしい。かなり加減をしてドリブルをやると、ドリブルは出来たのだが、ボールがスローモーションのように異様に遅い。月面では重力が6分の1だが、それは落ちる速度も6分の1という事で、時間は6倍もかかってしまう。
「これ、難しいな」
ヤン太は地球と同じ速度でドリブルをやろうとするが、制御が難しいらしく、頻繁にミスをしてあまり続けられない。ジミ子は遅い速度でのドリブルをマスターしつつあるが、こう言った。
「これだけ遅いと、敵チームのプレイヤーに横から奪われるわね」
確かに、あれだけ遅いと簡単にボールを盗めそうだ。
この困難な状況に、レオ吉くんがさらに難題を持ち込む。
「では、走りながらドリブルをやって下さい。かなり難しいと思いますよ」
重力が低いので、走ろうとすると、体がふわふわと空中に跳ね上がってしまう。そこに風船のように扱いにくいボールのドリブルが要求された。
「いや、これ無理だろ」
「絶対に無理よ」
運動神経のあまり良く無いキングとジミ子は、完全にお手上げだ。運動神経の良いミサキとヤン太も苦戦をしていて、ほとんど出来ていない。
ドリブルが出来ない状態だが、レオ吉くんは次の練習に移る。
「では、シュートの練習をしましょう。これもかなり難しいと思いますよ」
赤チーム、青チームとそれぞれが両側のゴールに別れ、練習を開始した。
このシュートも走りながらドリブルをするくらい難しい。地球の感覚にシュートすると、ボールは放物線を描かず真っ直ぐ飛んで行く。かなり上の方に行ってしまい、後ろの板の部分にさえ当らない。
板に当ててから入れようとしても、勢いが強すぎるらしく、もの凄い勢いで跳ね返ってきて、戻ってきた。重力によって下に向ってボールが落ちてくれない。かなり弱い勢いで板に当てるようにして、僕はようやくゴールを決める事ができた。
「これ、難しすぎるぞ」
「3ポイントシュートなんて、奇跡が起こらないと入らないわね」
同じチームのヤン太とジミ子も、ほぼシュートは入らない。こんな状態でバスケが出来るのだろうか?
5分ほどシュートの練習をした後、僕らはまた集合する。レオ吉くんがみんなに向って言う。
「どうです。地球上と同じようにやろうとすると、かなり難しいでしょう?」
「そうね。これじゃあ試合なんて無理じゃないかしら」
ミサキがそう言うと、レオ吉くんはこんな事を言い出す。
「ええ、ですから、これから月面で行なうバスケットボールのコツを教えます」
月面だと、月面ならではのバスケのやり方があるらしい。




