月面旅行 12
SF映画に出てくるような、未来的なドアを通り抜けると、従来の月面の重力、地球の6分の1になる。
ドアを抜けた所は、渡り廊下のような通路が続いていた。レオ吉くんが僕らに警告をする。
「力を入れて歩くと、天井に頭をぶつけてしまうので注意して下さい。あと、あの窓から外が見えますよ」
大きな窓があり。外には黒い空と灰色の大地が続いて居た。全員が窓に近づいて、外を眺める。
「ここは、本当に月の上なのね」
「ああ、そうだな。環境が最高良い、地球の住居ってかんじだからな」
ミサキとヤン太が感想を言う。とレオ吉くんがこう言った。
「ここは月面ですよ、その証拠にほら」
レオ吉くんの指さした先には、青い地球がそこにあった。
僕らはしばらく地球を眺めてから、スポーツ施設の中へと移動する。
少し歩くと、ロビーのようなスペースに出た。レオ吉くんが案内板を指さしながら説明してくれる。
「この施設では、いくつもの種目が楽しめますが、ボクのオススメは『スカッシュ』ですね」
ジミ子が質問をする。
「『スカッシュ』って、テニスの壁打ちを競技にしたような種目よね?」
「そうですね。比較的、狭い部屋に入り、ボールを壁に打ち合う競技です。テニスと違うのは、側面も壁なので、コートの外にボールが飛んで行かないのと、少し弾みにくいボールを使っている事くらいですかね」
するとキングがこんな質問をする。
「テニスじゃダメなのか? テニスだったら、体育の授業で何度かやって、ルールは知っているぜ」
「テニスは極めて難しいのですが…… まあ、説明するより、やってみましょうか。審判やボール拾いなどは、全てロボットがやってくれます。ボールは軟式でいいですか?」
「いいぜ」「いいわよ」「いいよ」
僕らはとりあえずテニスをやってみる事になった。
案内板通りに進み、僕たちはテニスコートに到着する。ラケットを借りて、配置につくのだが、レオ吉くんがこんな提案をする。
「本当にテニスは難しいです。運動神経の良いヤン太くんと、ミサキさんが二人で打ち合って、残りの4人でダブルスをするというのはどうでしょう?」
ヤン太が返事をする。
「それで良いぜ。コートは…… 誰も使ってないから近くの場所のを使うか」
テニスコートは8面あるが、僕ら以外は誰も使っていない。コートはいずれも新品のような感じで、僕はもったいないと思ってしまった。
ダブルスのチームは、キングと僕、ジミ子とレオ吉くんに別れた。始めようとすると、レオ吉くんがこう言った。
「始める前に、ヤン太くんとミサキさんの打ち合いを見てみませんか? 月面でのテニスがいかに難しいか分りますよ」
「そんなに難しいかな? あの二人は運動神経が良いから、凄い試合をすると思うよ」
僕は反論しつつも、二人の様子が気になったので、しばらく様子を見る事にした。
「俺からサーブで良いか?」
「良いわよ」
「じゃあ、行くぜ!」
ヤン太がサーブをすると、その球は大きく、ミサキの頭の上を通過していった。
「フォルト、サーブミス、デス」
「何やってるのよ」
「すまん、重力が違うから、かなり上に行ったわ」
ヤン太に新しいボールが渡されて、再びサーブをするが、これも勢いが強く、コートに入らなかった。
「ダフルフォルト、サーブミス、失点デス」
「嘘だろ、今のでも強すぎるのかよ! じゃあ、今度はもっと弱く」
今度は弱すぎて入らない。その後もサーブの様子を見ていると、大体7割くらい外している。
「何をやってるのよ、今度は私の番ね!」
ミサキのサーブも見ていたが、やはり難しいらしく、ほとんど入らないようだ。
この様子を見ていた僕たちは、話し合う。
「とりあえず、僕らはラリーを続ける事を目標にしようか」
「そうね。難しそうだし、そうしましょう」
僕の提案をジミ子が受け入れ、ぎこちないダブルスが始まった。
この後、僕らは慎重にボールを扱う。それは、豆腐かシャボン玉を扱うような慎重なものだった。
何とかボールを繋いで、ラリーを続けていると、ミサキから声をかけてきた。
「レオ吉くんのオススメのスカッシュに行かない? これは競技にならないわ」
もう飽きたらしい。まあ、その理由は分る。これはテニスとは呼べない、別の球技だ。
テニスを引き上げ、スカッシュのコートに移動する。
移動の途中にレオ吉くんがスマフォを見ながら説明してくれる。
「スカッシュは、奥行き9.8メートル、幅6.4メートル、高さ5.6メートル以上の部屋の中で行ないます。壁に向ってボールを打って、ツーバウンドする前に打ち返せばOKですね。本当は天井にボールが当ってはダメなのですが、天井もOKの月面ルールで良いでしょうか?」
「いいと思うよ、チーム戦でやるのかな?」
「本当はダブルスまでなのですが、ダブルス用の大きな部屋にみんなで入って、3体3でやりましょう」
全員で一つの部屋に入り、チーム分けをする。
チームは、僕、ミサキ、レオ吉くん。ヤン太、ジミ子、キングのチームに分かれた。
「このボール、テニスと違って弾みにくいので、けっこう強めに打っても大丈夫です。行きますよ」
レオ吉くんのサーブから、初めてのスカッシュが始まった。
バシィン。かなり大きい音がして、ボールが壁にぶつかる。ぶつかったボールは跳ね返り、ジミ子の前に飛んできた。
「えっ、私?」
ジミ子は慌てて打ち返すが、かなり弱めに打ち返す。
ペシィ。壁に当ったボールはあまり弾ます、壁際にゆっくりと落ちていく。
そこにミサキが走り込み、スライディングをしながら打ち返した。
「あぶない。重力が強かったら、私が打ち返す前に落ちてたわ」
ミサキの打ったボールは、ちょうどヤン太の目の前に飛んで行った。
「おらぁ!」
バアァン! ヤン太が思いっきりボールを打つと、前の壁に辺り、凄い勢いで後ろの壁まで飛んで行く。
バァン、そして後ろの壁に跳ね返っても勢いは衰えず。
バン、また前の壁に当って跳ね返ってきた。
僕の前に来たので、ボールを打ち返しながら、レオ吉くんに聞く。
「打ち返したけど、これってルール的に大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ。ツーバウンドしなければ、どの壁に、何回、跳ね返っても良いんです。ボールは生きてます」
キングが感想を言いながら打ち返す。
「面白いルールだな。これはどうだ?」
キングが打ったボールは、壁に当ると、天井近くに届くほど高く跳ね上がった。
「甘いわね、こうよ!」
ミサキは3メートル以上のジャンプをして、高さ5メートルくらいのボールを強打する。このジャンプの高さは、月の重力でしかできないだろう。
この強打は、かなりの角度がついていたので、バンバンバンと、天井と床を勢いよく往復する。2バウンドしたので、僕らのチームに点数が入った。
「はぁ、はぁ、はぁ、これはなかなか楽しいわね」
息を切らしながらミサキが言う。
「そうね。ちゃんとした球技になってるわね」
ジミ子が冷静に答える。ちなみに他の人は、ボールを拾うため、前後左右と激しく移動しているが、ジミ子はあまり動いていない。
「つづけようぜ、これは面白い」
今度はヤン太のサーブから始まった。
確かに面白い。テニスと違って、月の重力が上手くマッチしている。
この後、僕らはチーム分けを変えたり、1対1のシングル戦をしたりと、何試合もして、この競技を楽しんだ。




