月面旅行 6
僕らは、湖のほとりのベンチで休憩をする。釣りをしながら休む予定だったが、魚が釣れすぎて、全く休めなかったからだ。
ベンチで湖の水面をのんびりと眺めていると、釣った魚の配送手続きを終えた、レオ吉くんが戻ってきた。
「とりあえず魚は3枚におろしてもらって、僕の家に配送してもらうようにしました」
レオ吉くんの発言に、ジミ子が驚いた様子で言う。
「配送だけでなく、3枚おろしとか、釣った魚の加工までしてもらえるの?」
「ええ、動物ノ王国では魚をさばける人は少ないですからね。スーパーでも無料でさばいてもらえますよ」
ここの釣りの小屋では、どうやら魚をさばいてくれるらしい。至れり尽くせりのサービスのようだ。
ヤン太が遠くをみながら、つぶやく様に言う。
「すげぇサービスだな。良い環境に、良いサービス、でもこの公園に人はほとんど居ないな……」
周りを見渡すと、湖で泳いでいる人が10人ほど、遠くのベンチで休んでいる人が4~5人、見える範囲にはそれしか居ない。
「もう少しこの公園を活用して欲しいのですが…… 皆さんはどうすれば人が来ると思いますか?」
レオ吉くんが僕たちに問いかける。さて、どうすれば人が来てくれるだろうか。
「スイーツね、人を惹きつけるにはスイーツが一番だわ!」
ミサキが真っ先に自分の欲望を言う。昼にあれほどカレーを食べたというのに、さらにスイーツを食べたいらしい。
このミサキの意見を、レオ吉くんは真剣に考える。
「そうですね。ちょっと特別な感じのする食べ物があれば、人が来てくれるかもしれませんね」
レオ吉くんがそう言うと、ヤン太がこんな質問をする。
「特別って言うけど、動物ノ王国の住人にとって、特別な食べ物ってどんな物だ?」
「一般的な人間の食べ物は、ほとんどが特別な食べ物になってしまうかもしれません。国民は食事に対して、とにかく保守的なんです。ペットや牧場の動物たちを考えてもらえば分ると思いますが、同じ食事が毎日続きますからね。それに慣れていて、ある程度の味と量さえあれば、食事はあまり気にしないという人がほとんどですね……」
ヤン太が腕組みをしながら考える。しばらくして口を開く。
「保守的か…… それなら屋台とかでできる簡単な料理を出してみて、様子を見るのが良いかもしれないな」
「そうですね。それならすぐに出来そうですね」
レオ吉くんとヤン太の話にミサキが割り込んできた。
「私、クレープが良いと思うの。簡単にできるし、この風景を見ながら食べるクレープは最高だと思うわ!」
「良いですね。では、クレープの屋台を手配しましょう」
そう言いながら、レオ吉くんはどこかに電話をかけ、話をまとめてしまった。
その様子を見て、キングがこう言った。
「スイーツが認められるなら、俺はゲーセンが欲しいぜ! こういった寂れた場所にあるゲーセンは、掘り出し物のレトロゲームがあるからな」
「ゲームですか? 動物ノ王国の国民は、あまりゲームをしないと思うので、どうですかね?」
「それだったら少し体を動かすヤツならどうだ? ハンマーでワニやウニを叩く『ワニウニパニック』。制限時間内にどれだけバスケットのシュートが成功するかを競う『シュートの鉄人』。他にもエアーホッケーや、射撃系のゲーム、ピンボールくらいのルールが単純なヤツなら、行けるかもしれないな」
「なるほど、簡単なレジャー施設ですか。中古品で揃えれば安く済みそうですね。子供でも出来そうな簡単な物を、いくつか揃えてみます」
レオ吉くんはそう言って、どこかにメールを投げた。どうやらキングの案は採用されたらしい。
ジミ子がレオ吉くんに聞く。
「泳いでいる人もいるんだけど、この気温だと厳しくない?」
「月面の夏の最高気温は24度ですからね、ちょっと厳しいかもしれません」
24度と言うと、5月から6月くらいの気温だろうか。湖で泳いでいる人をよく見ると、寒さに強い犬系の人だけみたいだ。
「それなら体を温められる温泉を用意すれば良いんじゃないの?」
「温泉は、地下をしらべないと分りませんが、ぬるめのジャグジーを用意するのはありかもしれませんね。熱いお湯は苦手な人も多そうなので」
「それなら泳ぐ人が増えるかもね。海の家みたいに更衣室を用意したり、レンタル水着を貸し出したりすれば儲かるかも?」
「無料でサービスをしたいと思います。とにかく不満を取り除き、公園に来る人を増やしたいんです」
不満という言葉にヤン太が反応をする。
「そう言えば俺も不満な点があるな。釣りの事なんだが、あれは簡単すぎないか?」
「えっ? 簡単で手軽な方が良いんじゃないでしょうか?」
レオ吉くんがちょっと驚いた様子を見せるが、ヤン太は話を続ける。
「あれはいくらなんでも簡単すぎる。もっと釣るのが難しい魚とか増やした方が良いと思う」
「分りました。網でいくつか区画を分けて、魚の種類を増やしてみたいと思います」
「私はエビが良いと思うな。魚だけじゃ飽きると思うのよね」
「分りました、食べて美味しい種類とか、色々と試してみたいと思います」
ミサキが食欲の観点からアドバイスをする。まあ、種類はできるだけ多い方が良いかもしれない。
「ツカサくんは、何かアイデアがありますか?」
レオ吉くんが僕に話を振ってきた。大した事はないが、僕もいちおう提案してみる。
「僕が気になったのは、この公園が大きすぎる事かな。公園内を移動できる循環バスとか、レンタル自転車とかあれば助かるかも」
「それは良いアイデアですね。月面の移動は、基本的に『どこだってドア』で行なうので、ほとんど徒歩での移動になります。乗り物自体が珍しいので、これだけで人が呼べるかもしれません。早速、手配してみましょう」
レオ吉くんは電話をして、しばらくして会話が終わると、僕らに向ってこう言った。
「みなさんのアイデアはすぐに実行させて頂きます。明日に工事が入り、あさってから運用して行きたいとおもいます」
「は、早いね」
僕はそう言葉を返すのが精一杯だった、レオ吉くんは仕事が早すぎる。でも、これで人がくるようになるのだろうか?




