表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

448/567

月面旅行 4

 カレーをたくさん食べて、月面の観光スポットを巡るという話になると、レオ吉くんは苦笑いを浮かべながら僕らに言う。


「月面は、あまり観光施設が無いんですよね。本当はこの後、月面のスポーツ施設に行く予定だったのですが、これだけ食べると無理ですよね」


 その問いかけにヤン太が返事をする。


「俺たちは大丈夫だと思うが、ミサキが食い過ぎてるな。運動はちょっと無理かも」


「そんな事はないと思うわ、できるわよ」


 反論するミサキに、レオ吉くんが確認をする。


「せっかくなので、月面での重力を体験してもらおうと思っているのですが、地球の6分の1なので、逆さになったり宙返りしたりと、かなりアクロバットな動きになると思います。それでも大丈夫ですか?」


「それは厳しいかもしれないわね。口から何か飛び出すかも……」


「では、運動は明日の予定にしましょう」


 ミサキは素直に無理だと言った。まあ、下手な事をして、大惨事になるよりは良いだろう。



「そうなると、どうしますかね。公園くらいしか場所が思い浮かばないのですが……」


 困っているレオ吉くんに、ジミ子がこんな事を言う。


「別に、無理して珍しい場所に行く必要は無いわ。行き先は普段使っているスーパーとかでも良いわよ、日常的な場所でも、月面というだけで私たちには珍しいと思うから」


「そうですか、では公園に行って、時間が余ったらスーパーマーケットにでも寄ってみましょうか」


 こうして僕たちの今日の予定が決まった。確かにジミ子の言うとおりだ、火星のスーパーマーケットとか、どんな様子か見てみたい。



「では、公園に向います。ボクの後についてきて下さい」


 僕らはレオ吉くんの後を追いかける。

 居住区のドアを出て、ピンク色のどこだってドアを抜ける。そこは僕たちが来た、『どこだってドア』が並ぶ、円形のホールのような場所だった。レオ吉くんがそのうちの一つのドアに入り、僕らもそれに続く。

 その先もまた同じようなホールで、もう一度、扉をくぐると、公園前のゲートにたどり着いた。



 ゲートを抜け、公園の遊歩道を歩き始めると、まず、広大などこまでも続く緑の絨毯(じゅうたん)が目に入る。ほとんどが芝生のようだが、まばらにピンク色や黄色といった、色が違うエリアが見られる。おそらく何かの花が咲いているからだろう。

 芝生と遊歩道の境目には、木が植えられていて、所々の木陰にベンチがいくつか置いてあった。


「とても広いな、どのくらいあるんだ?」


 キングがレオ吉くんに聞くと、こう答える。


「だいたい縦横が約1.6キロで、面積にすると2.5平方キロメートルですね。東京ドゥームに換算すると53個分になります」


「滅茶苦茶広いな」


「ええ、月面では非常に珍しい人工湖もあって、そこで泳いだり、釣りができたりしますよ」



 絵に描いたような理想的な公園なのだが、僕はひとつ気になる事がある。


「公園が広すぎるせいか、ほとんど人や動物が見当たらないんだけど……」


 芝生がメインなので、かなり視界が広いのだが、目に見える範囲でみえる人や動物は、僕たちを除くと6~7人くらいしか見当たらない。

 すると、レオ吉くんがため息交じりに答えてくれる。


「ええ、この公園、人気が無いんですよね。ご覧の通り、ほとんど人が居ないんです」



「なんで? こんな素敵な公園なのに?」


 ミサキがレオ吉くんに聞くと、こう答える。


「住宅街を見てもらったから分ると思うんですが、住宅も森の中にあるような感じゃないですか。すでに公園の中に住んでいるようなものなので、わざわざこの場所に出てくる人が少ないんですよ」


「……そうね。住宅も素敵な場所にあったものね」


 ミサキが納得したように返事をする。確かにレオ吉くんの言うとおりだ、あそこに住んでいれば、近所を散歩するだけで十分だろう。わざわざ緑を見に、ここまで出てこようという気分にはなれないかもしれない。



「とりあえず、公園をグルッと一週してみましょう。軽く見てまわるだけで1時間くらいは掛かると思いますから」


 レオ吉くんに言われて、僕らはのどかな公園の遊歩道を、時には道を外れて芝生の上を、のんびりと歩いて行く。

 住宅街は森といったイメージだったが、ここは草原に近いような感じがする。

 遠くから見えていた色違いの場所は、近くに寄るとやはり花が咲いていて、それは白いシロツメクサだったり、赤いレンゲだったり、青いネモフィラだったりした。どの花も見事で、地面が見えないくらい、花がひしめいている。



 花に見とれながら歩いていると、僕たちはいつの間にか湖の前まで来ていた。


「この湖では泳いだり、釣りができたりします。休みがてら、釣りでもしますか?」


 すると、ジミ子が足を押さえながら言う。


「そうね、けっこう歩いてきたから足が疲れたわ。そうしましょう」


 ここで僕はふと思った。この公園の人気のない理由は、もしかしたら、公園がデカすぎて、みんな歩くのが嫌なだけなんじゃないだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 完璧すぎて公園が意味をなさないっていうのは 面白いですね まあいざというときの避難所も兼ねていそうだけど… [気になる点] そういやここ服関係の法律どうなつていいるんだろう 元動物だし環境…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ