最新バーベキュー事情 3
冷房の効いた屋外で、僕たちはバーベキューを始める。
レオ吉くんがクーラーボックスを空けながら、みんなに聞く。
「飽きないように、味付けをいくつか用意して来ました。まずは、あっさりとした鳥の肉豆の、香草焼きでもいかがでしょう?」
ジッパー付きのビニールに入った肉豆を僕らに見せると、ミサキが食い入るように見つめる。
「いいわね、とっても美味しそう。すぐに焼きましょうよ」
管理人さんが持ってきてくれた大型の七輪からは、パチパチと炭が音を立てている。
レオ吉くんはビニールから肉豆を取り出すと、適当な大きさに切り分けて、網の上に置いた。
肉豆に火が通り始めると、やがて肉汁が出てきて香ばしい匂いが漂ってくる。
「もう食べられるわよね」
いつの間にか、1人だけ箸を持っているミサキが、早くも肉に手を出そうとする。
「いや、まだ早い、中は生だろう」
ヤン太が止めようとするが、レオ吉くんはこう言ってしまった。
「肉の味がしますけど、まあ野菜ですから、生でも食べられるはずですよ」
「いただきます! うん、半生だと、ちょっと青くさいわね、野菜っぽさが少し残っているのかも? でもおいしいわ」
ミサキはあっという間に3切れほどを口に放り込み、モグモグと食べながら話す。ちゃんと焼けてないので、噛みごたえが凄そうだ。ガムのように、長い間をずっと噛み続けて、やっと飲み込んだ。
しばらくして、ちゃんと焼けると、僕たちも香草焼きの肉を口に頬張る。
レモン汁をかけたような、あっさりとした味付けと、香草の爽やかな香りが口の中に広がった。焼きたてなのもあるだろうけど、これは美味しい。プロ並みの完成度と言っても良いだろう。
「すごくおいしいよ」
「うん、これは美味い」
「爽やかさと旨みが、うまく調和しているな」
「お店を出したら売れるんじゃないの」
僕に続き、ヤン太、キング、ジミ子とべた褒めをすると、レオ吉くんは照れながら答える。
「そんな、大した事はありませんよ。おかわりは要りますか?」
「食べる!」
ミサキが即答で返事をする。レオ吉くんはクーラーボックスから肉豆を取り出すと、再び焼き始めた。
牛の肉豆の黒胡椒焼き、ガーリックバターソース添え。
つけだれに一晩漬け込んだ羊の肉豆、ジンギスカン風。
鳥肉豆のタンドリーチキンと、焼き肉料理のフルコースが続いて行く。どれも非常に美味しく、レオ吉くんはプロ級の腕前と言って良いだろう。
4品目が食べ終わると、レオ吉くんは次の肉豆を出そうとする。すると、ミサキがストップをかけた。
「ちょっとまって、次は何味のお肉なの?」
「次は豚バラ風の肉豆を、朴葉味噌に漬け込んだものですね」
「もしかして、少しずつ味つけを濃くしていってる?」
「ええ、段々と濃いものにしています」
「そう…… もう私、我慢できない! ご飯が食べたい!」
ミサキに僕が言い聞かせるように言う。
「ご飯もないし、鍋とか、飯ごうとか、そういった調理器具は持ってきてないよ」
「分っている、でも私はあきらめないわ! そうね、近くにお弁当屋さんかコンビニがないかしら?」
バーベキュー場で他からご飯を買ってくるという発想はなかった。さすがミサキだ、食べ物に関しては頭が働く。
キングがスマフォを見ながら、こう言った。
「駐輪場の向かい側に、コンビニのポプリがあるな。このコンビニはご飯にこだわりがあるみたいで、店ごとにわざわざ炊飯器で炊いているらしいぜ」
「ちょうどいいわね、買いに行ってくるわ。他の人の分もついでに買って来るけど、どうする?」
全員に注文を聞き、ヤン太が大盛り、ジミ子が普通サイズ、キングと僕とレオ吉くんが小さいサイズを頼むことにした。
「じゃあ、行ってくるわ。ちょっと待っててね」
そう言い残すと、ミサキはダッシュで買いに行った。
ミサキが居なくなると、ゆっくりとした時間が流れる。
真夏の青い空と白い雲。屋外にいるのに冷房が効いていて、流れてくる風が心地よい。
害虫を退治してくれるバグバスターのおかげで、虫を心配する事も無いし、ここは理想のバーベキュー場かもしれない。
冷たい麦茶を優雅に飲んでいると、両手にビニール袋をぶら下げたミサキが、汗だくになって戻ってきた。
僕がミサキに声を掛ける。
「お、お帰り。外は暑そうだね」
「ええ、外は地獄よ! 走って行くんじゃなかったわ……」
とりあえずクーラーボックスから、スポーツドリンクを渡す。水分補給にはこちらの方が良いだろう。
「ぷはぁ、じゃあ、買ってきたご飯を配るね」
ミサキはスポーツドリンクを一気に飲み干すと、ビニール袋からご飯を取り出して配り始める。
「まずは小サイズのツカサとキングとレオ吉くん」
そういって普通サイズのご飯のパックを配る。
「これ間違えてないか? 普通サイズはあるぞ」
ご飯のパックを受け取ったキングは、ミサキに確認をすると、こう答えた。
「間違えてないわよ。このコンビニでは、小でお茶碗1.3杯分ですって。はい、これが1.7杯分の普通サイズね」
そういってかなり大盛りのご飯をジミ子に渡す。
「お、多いわね。明らかに普通サイズじゃないわ」
ぼうぜんとするジミ子をよそに、ミサキはヤン太に大盛りのご飯を渡す。
「はい、これが大盛りよ。2.3杯分らしいわ」
渡されたご飯のパックは、かなりギチギチで、はみ出しそうな勢いだ。ヤン太はつぶやくように言う。
「どうするんだよ、こんな量……」
「私はカレー弁当を特盛りで注文しちゃった。ご飯3杯分で、重さは450グラムみたい。このコンビニは良いお店ね、家の近くにも出来ないかしら」
ミサキはご飯の塊を取り出して来た。その量はもはや暴力的だ。
この後、レオ吉くんは『豚バラ風の肉豆の朴葉味噌漬け』、『関西風、照り焼き風味の山賊焼き』、そして家庭でもおなじみの『豚肉の肉豆の、ニンニク生姜焼き』と肉のフルコースが続いた。
渡された時には、攻略不可能に思えたご飯の量だったが、肉料理の味が良いのでご飯が進み、意外とあっけなく完食ができた。もちろん、大盛りを頼んでしまったヤン太は、かなり苦戦をしていたが……
「これで、持ってきた肉豆は無くなりました。クーラーボックスがあるので、食べきれなければ持ち帰ってもよかったのですが……」
レオ吉くんが空になったクーラーボックスを見せながら言う。
「食べきらないともったいないわ。青空の下で、みんなで焼いて食べるから美味しいんじゃない」
ミサキが珍しく良い事を言った。確かにその意見には納得せざるを得ない。
「そうだね、ただでさえ美味しい料理が、さらに美味しくなった気がするね」
「またまた、おだてても何もでてきませんよ」
僕が褒めると、レオ吉くんが照れながらも嬉しそうに答える。
「そういえば、私はカレー弁当を食べたけど、今度はレオ吉くんのカレーも食べてみたいな」
ミサキは食べ終わったばかりだと言うのに、次の食事の話を振ってきた。
「カレーは使い慣れた道具がないと、作るのがつらいですね。そうだ、家に来て食べますか?」
「うん、食べて見たい」
そう言うと、ヤン太が突っ込みを入れる。
「おいおい、レオ吉くんは月面に住んでいるんだぜ、俺らが移動するだけでも、色々と手配とか大変だろ?」
「大丈夫です、以前、この話が出たときに、アヤカさんにツカサくん達の旅行計画を立ててもらいましたから」
「姉ちゃんか…… とりあえず、計画がどこまで出来ているか聞いてみるね」
僕が姉ちゃんにメッセージを投げると、こんな答えが返ってきた。
『日付を決めてちょうだい。宿泊する場所は何とかするから、あとはレオ吉くんに任せた』
僕はスマフォを見せながら、レオ吉くんに言う。
「だってさ、どうしよう?」
「……わかりました。ボクの方で計画を立てるので、まずは日付だけ決めましょう。あと、行きたい場所とかありますか?」
こうして、食後のひとときは、急遽、次の旅行の話し合いへと変った。
はたして月面旅行では何が待ち受けているのだろうか。




