最新バーベキュー事情 2
僕たちは食材を準備して、僕の家の前に集まった。
バーベキューをする公園までは、電車で4駅ほど。そこそこの距離があるのだが、レオ吉のバイクで牽引してもらうと、空飛ぶ自転車で30分もかからず行けるらしい。電車代を浮かせられるのと、荷物を自転車に積めるので、僕たちは自転車で行くことになった。
「では、全員そろったので、出かけますか?」
「少し早いけどそうしようか」
レオ吉くんがみんなに聞くと、僕が返事をする。
みんなは自転車に乗り込み、空に向けて出発をする。
30分近く空中サイクリングを楽しむと、目当ての公園が見えてきた。
公園が見えると、ヤン太が何かを見つけたようだ。
「おっ、公園のバーベキューコーナーに、円形の屋根の新しい建物があるな」
ヤン太の言われて見てみると、壁などは無く、柱と屋根だけの車のガレージのような建築物が、いくつも建っていた。
「ここからだとよく分らないな、もしかしたらバーベキューとは違う施設かもしれないし……」
キングが目を凝らしながら言うと、ミサキはけだるそうに答える。
「行けば分るはずよ、早く行きましょう。日陰に入りたいわ」
「そうですね。熱いので、なるべく早く降りましょう」
レオ吉くんに引っ張られて、僕たちは公園の駐輪場へと降り立った。
駐輪場に自転車を止めて、大きな荷物をかついてバーベキューコーナーへと向う。
公園の中は木がたくさん植えてあり、まるで雑木林の中を散歩しているようだ。
案内板に従って200メートルほど進むと、開けた芝生のエリアに到着する。この辺りがバーベキュー場のはずだ。
周りを見渡すと管理所の小屋があった。僕たちはそこまで歩いて行き、まずは受付を行なう。
受付の窓を開け、キングが係の人にスマフォを見せながら言った。
「すいません、昨日予約したんですが」
「あっ、はい。6名様、冷暖房完備のご予約ですね。うけたまわっております。場所は『F』とかかれたブースをお使い下さい。あちらですね」
そう言って、屋根のついている場所を指さす。どうやら上空から見えた施設で間違いないようだ。
僕らは利用料金を払うと、指定された場所へと移動をする。
「これが冷房付きのバーベキュー場なのかしら? 意外と立派ね」
指定された場所に行くと、そこはやはり空から見えていた円形の屋根だけの建物だった。近寄ると意外と大きい事が分る。
屋根の直径は7~8メートルくらいあり、8本の鉄柱でしっかり支えられている。中央にはバーベキューのコンロを置くスペースがあり、その周りに4人席のテーブルが3つあった。この場所だけで12人が余裕をもって使えるスペースのようだ。
「とりあえず、テーブルに荷物を置こうよ」
僕はそう言って、もってきたクーラーボックスをテーブルに置く。
道具は借りられるので、僕たちが持ち込んだのは食材だけだが、ミサキが居るせいで、やたらと大荷物だ。
荷物を置いて、バーベキューの準備をしていると、管理人さんが火の付いた炭を、長細い大きな七輪に入れて持ってきてくれて、それを中央の場所に置いてくれる。
「中央に七輪を置きました。熱いので気をつけて下さいね。炭が無くなってきたら、管理小屋の方へ連絡を下さい、新しく炭を持ってきますんで。お時間は夕方の4時までとなっております」
「冷暖房完備という話なんですけど、スイッチかリモコンはどこにありますか?」
僕が管理人さんに聞くと、柱の一本を指さしながら説明してくれる。
「あそこにボリュームを調整するようなつまみがありますよね。左に回すと冷房、右に回すと暖房です」
温度調整のスイッチを見てから、僕は改めて天井を見上げる。僕は、天井に空調のような装置があると思ったのだが、そんな物は無くLEDの照明があるだけだった。
なんの装置も無いので、管理人さんに聞こうとしたら、レオ吉くんがこんな返事をする。
「分りました、このタイプの空調は使った事があるので知っています」
「知っているのなら助かります、何せこの空調の説明が大変ですので…… では、私は管理小屋に戻ります。もし、何か用事があったら来て下さい」
そういって管理人さんは去って行った。
「どういう仕組みで冷暖房をするんだ?」
ヤン太が興味津々でレオ吉くんに聞く、するとレオ吉くんはこう答える。
「そうですね。冷房より暖房の方がイメージが沸きやすいと思います。『ハロゲンヒーター』って知ってますか?」
その質問にはジミ子が答える。
「コタツみたいな温かい光が出る、扇風機みたいな形のヤツよね」
「ええそうです。この装置の暖房はその光ですね」
レオ吉くんは空調のスイッチを右に回した。すると、天井がオレンジ色に光り、肌がジリジリと焼かれるような感じになる。
「あっつい」「あちい」「あづい、やめて」
レオ吉くんはすぐにスイッチを切る、すると天井の光も消えた。
「暖房は分ったけど、冷房はどうするの?」
僕の質問に、レオ吉くんは、さも当然に答えた。
「同じですよ。先ほどは光で温めましたが、今度は光で冷やすんです」
そういってスイッチを左に回した。天井からは青白い光が降り注ぎ、なぜか空気が冷えてきた。
ジミ子が不思議そうに言う。
「冷たいように感じるけど、これは気のせいじゃないわよね?」
「ええ、気のせいではないです。レーザーに近い光線を使って、皆さんの周りから熱を奪っています。『レーザー冷却』という技術らしいです」
光で冷却する技術を体験して、ミサキが感心する。
「さすが宇宙人の技術ね」
「いえ、宇宙人が来る前から、地球でも実現していた技術みたいですね」
レオ吉くんがそう言うと、キングがすぐにスマフォで調べる。
「おっ、あったぜ、なんかこの理論で、ノーベノレ物理学賞を貰っているな」
キングが見せてくれた論文をチラッと見てから、ミサキは開き直る。
「さあ、バーベキューをやりましょう! たくさん食べるわよ!」
どうやら論文を見て、考えるのをやめたらしい。まあ、ノーベノレ賞を取るような論文は、僕らには分るハズも無いだろう。
とても涼しい環境の中で、僕たちはバーベキューを始める。




