ロボット上司 2
テレビ都京で放送されている、『ガロアの夜明け』という番組を見ている。
姉ちゃんが新しく作った会社は、ロボットが経営や管理を行ない、その下で人間が働く形になるらしい。
いままでは、人の下にロボットが働く事はあったが、ロボットが上司の立場にくる事は無かった。
ロボットに従うのはどうかと思ったが、番組の前半を見た感じでは、意外と上手く行っているようだ。
CMが流れて、番組の後半に入る。
後半は、こんなナレーションから始まった。
「このホームセンターの経営陣、創業者一族には大きな問題があったのです」
テレビ画面は、ある新聞の記事を写し出す。続いてナレーションが解説をする。
「このホームセンターの親会社は、トイレ、キッチンなど、水回りでおなじみのLUXILが経営母体です。LUXILは、住宅設備建材の業界では、ペナソニックに続く業界2位、年間売上高1兆8000億円を誇る大企業です。その大企業の創業者が5年ほど前に亡くなりました、企業の経営権などは息子の瀬田汗一郎氏に受け継がれたのですが、そのの際に相続資産の申告漏れがあり、60億円の追徴課税を請求されました」
画面は別の新聞の記事を写す。
「追徴課税を請求されたのは今回が初めてではありません。およそ27年前、瀬田汗一郎氏の叔父が亡くなった時も、申告漏れで33億円もの追徴課税が請求されています」
どうやらこの社長さんは、あまり法律を守らないタイプらしい。
テレビは更に週刊誌の記事を写しだす。
「問題はそれだけではありません。瀬田氏のある発言を、週刊誌がスクープします。それは『日本で納税はしない。国債は暴落し、日本は破綻するからだ!』という発言でした。これは悪ふざけのジョークなどではなく、翌年には『会社をシソガポールに移転する』という発表をします。この発表を受け、株価は大暴落。会社役員から猛反発を受け、瀬田氏は経営陣から外される事に。この人事異動に関して、瀬田氏は部下に『身分をわきまえなさい。何様か!』と、パワハラのメールを送りつけ、これも問題になりました」
税金を払わないと言ったり、本当にそれを実行しようとしたり、さらにパワハラをしたりと、なんでこんな人が経営者をやっていたのだろうか……
「瀬田氏を追い出しても、LUXILの苦難は続きます。瀬田氏の息の掛かった役員が経営陣の中にまだ残っていたからです。そこで、会社を完全に売却し、経営陣をロボットに委ねる事にしました。落ち込んでいた業績は改善し、一時は絶望的だった株価は、高値で安定するようになりました」
カメラは再びスタジオを映し出す。
司会の人が話を切り出した。
「笹吹アヤカさん、経営者がロボットになってから、評判はどうですか?」
「とても良いですね。以前の経営者のように脱税はしませんし、もちろん法律は厳守します。ロボット店長も従業員に親しまれています。在庫数の管理から、従業員の休日の管理まで、全てを完璧にこなします。おかげで人間の従業員は、お客様の対応に集中できるようになりました」
「では、どのように好転したのか、VTRで見てみましょう」
テレビはVTRに切り替わる。映し出されたのは、もちろんホームセンターの中だ。
映像がしばらく流れた後に、ナレーションが入る。
「このホームセンターでは、広い店内で効率的なやり取りをする為、無線のインカムを使って通話を行ないます。以前は無線を対応する担当が居たのですが、現在は店長に直接、通話が繋がるように変ったようです」
店員さんが映し出されて、インカムでこんなやり取りをしている。
「すいません、店長。かなり特殊な工具の問い合わせがありして、在庫管理をお願いします。品番は『XX-123456』です」
「店頭に2つ、倉庫に4つありマス」
「8個必要らしいんですが、どうにかなりますか?」
「メーカーに発注する場合3~5日かかりマス。隣町のワレワレのチェーン店に在庫があるようなので、そちらから取り寄せマスか? 最寄りのチェーン店からの取り寄せなら、17分後にお渡しが可能デス」
「ではチェーン店からお願い出来ますか?」
「連絡しまシタ。17分後に到着しマス」
「ありがとうございます。お客様にお知らせしますね」
そう言って店員さんがお客さんとやり取りをする。
お客さんと話した後、店員さんに番組のスタッフがインタビューをする。
「店長さんの在庫管理、凄いですね」
「ええ、完璧です。全ての商品を把握していて、即答できるんですよ。それに、スタッフからの問い合わせだけでなく、店に掛かってくる電話やFAXも、全て受け取ってくれます」
「それだと通話しようとしても、他の人と話していて通話中という事も、けっこうありますよね?」
「いいえ、うちの店長は、無線を直接読み取って、1000人くらいは同時通話が出来るみたいなんで大丈夫ですね。従業員は全員でも30名くらいしか居ないので」
「ああ、はい。1000人ですか、それなら平気ですよね」
あのロボットの1000人も同時対応ができるらしい。在庫管理も完璧らしいし、これらの点は人間には敵わないだろう。
スタッフと店員さんのインタビューが続いて行く、すると、突然、怒鳴り声が聞えてくる。
「俺の買った工具が壊れたぞ! 店長を呼べ!」
クレーマーのような声が聞えて、しばらくするとロボットがやって来た。
「ハイ、ワタクシが店長デス」
「え? あ? ロボットだと…… まあ、いい、このノコギリを見ろ!」
そういって、壊れたノコギリを取り出して来た、ノコギリは歯が何本か欠けている。
ロボット店長はこのノコギリを見て、こう言った。
「このノコギリは木工用デス。折れた歯の断面にコンクリートが付着していマス。このノコギリでコンクリートを切断しようとしましたネ?」
「……あ、いや、台にしておいたブロックに当ったのかな? うん、まあ、壊れた原因が分ればいいや、じゃあ俺は帰るぜ」
そう言い残すと、店から去って行った。
帰った後に店員さんが、こっそりと言う。
「あの人、この店では有名なクレーマーなんです。他にもクレーマーの方々が居るんですが、店長がロボットに変わってから、全て撃退してますね」
クレーマーの対応は大変だ。人間だったら対応をするだけで精神的に削られそうだけど、ロボットだったら何てことはないだろう。
この後、店長の活躍するシーンが流れて、カメラはスタジオに戻る。
スタジオに戻ると、司会の人がまとめに入った。
「始め、ロボットの下で人間が働く事になると聞いた時。悪夢だと思いました。ロボットの下で馬車馬のごとく働かされる人間を想像したのです。ところが、蓋を開けてみると、ロボットの下で働いている人は、とてもしあわせそうです。これは新たな労働の形として、可能性を感じずにはいられません」
良い感じで番組が終わろうとすると、姉ちゃんが余計な一言を言う。
「ロボットの経営化のお問い合わせ、いつでも相談を受け付けています。連絡、お待ちしておりますね」
最後に雰囲気をぶち壊して、番組は終わった。
色々と問題もありそうだが、業種によってはロボットが人間の上についた方が良いのかもしれない。




