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遠隔ボードゲーム 3

 立体映像で会議が出来るアプリをインストールすると、僕の部屋にホログラムのテーブルと、ヤン太、キング、レオ吉くんが現われる。そして、少し遅れてジミ子とミサキが現われた。

 ジミ子はいつもと変らない姿で、何の問題も無いのだが、ミサキはパジャマの格好で現われた。思わず僕が突っ込みを入れる。


「ミサキ、なんでパジャマ姿のまま入ってくるの?」


「良いじゃない自分の部屋なんだから。みんなももっと楽な格好をすれば」


 その発言を聞いて、ジミ子も突っ込まざるをえなくなる。


「楽な格好と言っても、限度ってものがあるでしょう」


 みんながあきれていると、レオ吉くんがこんな事を言い出した。


「まあ、その格好でも大丈夫ですよ。ボクの方でミサキさんは『ビジネスモード』にしておきます」



『ビジネスモード』という謎の機能が出てきた。どんな機能なのかレオ吉くんに説明してもらおうと思ったが、その効果はすぐに分った。

 突然、ミサキの服がビジネススーツへと切り替わる。寝ぐせが付いたままの髪は、ピシッとワックスでセットされた髪形に変り、顔は軽くファンデーションを塗り、(ひか)え目の口紅をさした感じになった。


 ヤン太が感心した様子で言う。


「ミサキもやれば出来るじゃん」


「そうだな。しゃべらなければ仕事が出来る人みたいだぜ」


 キングもヤン太の意見に同意する。確かに格好がキチンとしていると、頭がよさそうに見える。


「えっ? なに? 私、何か変ったの?」


 ミサキのホログラムは変ったが、本人はだらしない格好のままだろう。訳がまったく分らないようだ。


「しょうがないわね。写真を撮って送ってあげるわよ」


 ジミ子が写真を撮って、Lnieで公開すると、ミサキは「別人みたい」と感心していた。これで身だしなみの大切さが少しは分ってくれたと思いたい。



「さあ、それではゲームを始めましょう。ゲームに使う所持金は、デジタル表示にしますね」


 ボードゲームには、ゲーム専用の紙幣やコインなどが付いている場合がある。

 これで所持金を管理する訳だが、これがまた面倒くさい。支払いに小銭が足りなくて大きな通貨を崩したり、逆に小銭だらけで数えるのが大変になったりと、とにかく手が掛かる。


 通行料金を徴収(ちょうしゅう)するモソポリーでは、頻繁(ひんぱん)にお金のやり取りがあるので、特に面倒だ。だが、金額をデジタル表示にする事で、一気に解決する。お金のやり取りが自動になるからだ。



 席順をクジで入れ替えて、ジャンケンをして誰からゲームを始めるかを決める。

 ジャンケンに勝ったのはキングだ、キングはレオ吉くんに質問をする。


「サイコロを振るには、どうしたら良いんだ?」


「目の前の空中に2つサイコロが現われるので、つかんで振って下さい。サイコロの動きはシミュレーターが再現をします」


「おう、こうすれば良いんだな」


 キングが空中のサイコロをつかみ、テーブルの中央に投げ入れると、それは本物のように弾みながら転がり、やがて静止してサイコロの目が決まる。


「2と5で7マス進むぜ」


 キングがそう言うと、コマが自動的に7マス進んだ。どうやら面倒な処理は、全部自動でやってくれるらしい。これだと、サクサクとゲームが進む、かなり時間の短縮になりそうだ。



 前半戦、それぞれみんなが所有者のいない土地を買いあさり、順調に空き地が減っていく。


 空き地が無くなると、中盤戦に入る。交渉で土地や金が動き、より高額な通行料金を取り立てる建物が出来てくる。


 ポツポツと盤面(ばんめん)に建物が出来てきた頃だ、ミサキが全財産をつぎ込み、ヤバい建物が建った。それは、止まれば全財産の半分くらいが持って行かれるという、現実ではありえないような土地が出来上がった。


 この土地のマスは、僕のコマのすぐ先で、次に止まる可能性もある。


「止まってもいいのよ、というか止まってちょうだい」


 ミサキが僕に向って言う。


「いや、ちょっと遠慮(えんりょ)しておくよ」


 そう言いながら、僕は力強くサイコロを振った。すると、想像以上に力が入っていたのか、テーブルの外へと転がっていく。


「おっと、これは落ちるな」


 ヤン太がそう言って手でブロックしようとした時だ、サイコロはヤン太の手をすり抜けて転がり続け、テーブルの(ふち)の外に飛び出ても、まるでテーブルがどこまでも続いているかのように動き続ける。

 しばらくして止まると、そのサイコロの数字はかなり大きく、僕は無事にミサキの土地を通り過ぎたマスに止まった。


「ふう、助かった」


「残念だわ。でも、テーブルの外に行っても、問題ないのね」


 ミサキがそう言うと、レオ吉くんが答えてくれる。


「ええ、シミュレーターですからね。仮想空間なので、どこまでだって広げられますよ」


「そうなんだ。良い事を聞いたわ」


 ミサキはそう返事をしてニヤリと笑う。何か余計な事を思いついたようだ。



 ゲームは進み、終盤へと突入した。不思議とミサキの土地には誰も止まらず、気がつけばジミ子が盤面を支配していた。ジミ子はとんでもなく高い通行料金の土地は無いものの、そこそこ収益があがる土地を広範囲に展開し、プレイヤー全員から金を(しぼ)り取っていく。そして、収入の無いミサキは破産寸前へと追い込まれた。


「ああ、ええと、とりあえず、サイコロ二つとも6を出せば大丈夫ね。よし、気合いを入れて振れば、理想の数字が出るはずよ! うりゃあ!」


 ミサキはそう言うと、大きく振りかぶり、力一杯、サイコロをテーブルに叩きつけた。

 プラスチックのサイコロだったら砕けてしまってもおかしくない勢いだったが、これは立体映像のシミュレーターなので、その心配も必要ない。



 テーブルに叩きつけたサイコロは、大きく弾み、一つは真上に高く上がった。天井を突き抜け、しばらくすると落ちてきた。

 もう一つは、当たり所が悪かったのか、あらぬ方向へ大きく飛んで行く、部屋の壁を突き抜けて、どこか外へと飛んでいった。


「あっ、窓の外に飛んでいった。サイコロの数字を確認しないと」


 僕の家だと壁を突き抜けたが、ミサキの家だと窓の方向に飛んで行ったらしい。

「ガラッ」と窓を開ける音が聞えたかと思うと、ザーというもの凄い雨と、ビュオオォーという風の音が聞える。時間的には、ちょうど今、この辺りを台風が通過が通過している頃だろう。



 ものすごい音を聞いて、レオ吉くんが慌ててミサキに言う。


「サイコロの数字を無理に確認しなくても、コマは自動で進みますから平気ですよ」


 レオ吉くんの言った通り、コマは自動で進み、ジミ子の支配している土地へと止まる。そしてミサキは所持金をすべて巻き上げられて破産した。



 ピシャリと窓の閉まる音が聞え、ミサキが僕らに向って言う。


「破産したから、温かいシャワーを浴びてくるね。外はすごい雨よ」


「あっ、うん。浴びてきた方が良いかもね」


「そうだな。風邪を引かないように行ってきた方が良いな」


 僕とヤン太がそんな返事した。

 ホログラムのミサキの服は全く濡れていないが、髪の先からは水がしたたり落ちている。外は叩きつけるような雨と風だ、少しの時間でずぶ濡れになってもおかしくない。


 この後、ジミ子がミサキから巻き上げた金を元に、更に建物を増やして、圧勝してゲームが終わる。



 トイレに行ったり、飲み物を飲みながら雑談をしていると、ミサキが戻ってきた。


「もう一度、やりましょう。今度は私が勝つわ!」


「いいぜ」


「今度も私が勝たせてもらうわ」


 僕らは新しいゲームを始めて、ボードゲームを楽しんだ。



 何度か遊んだ後に、ミサキがポツリと言う。


「これなら実際に集まる必要は無いわね。自宅の方が楽だわ」


 そう言いながら、腕を上げて大きな伸びをする。

 確かに自宅の方がリラックスできるかもしれない。



 そんな話をしていると、玄関から姉ちゃんの声が聞えてきた。


「弟ちゃん、会議が終わったから早めに上がって来たわ。お土産でニューヨークのドーナツ、たくさん買ってきたわよ」


 この声は、スピーカーを通じてみんなに聞えたようだ。

 ヤン太がちょっと意地悪く言う。


「集まる必要は無いんだよな。じゃあ、俺たちは明日にでもツカサの家に集まって、ドーナツ食べちまおうぜ」


 さらにジミ子が悪乗(わるの)りをする。


「そうね。そうしましょう。ミサキの分も残らずね」


「ちょ、ちょっと待ってよ、私ももちろん行くわよ。実際に集まった方が良いに決まってるじゃない!」


 先ほどの発言をあっという間に覆した。まあ、ミサキらしいと言えばミサキらしいだろう。



 翌日、ニューヨークのドーナツをみんなで食べたが、砂糖の(かたまり)のような甘さだった。

 姉ちゃんの買ってきた量はかなりあり、やはり僕らのメンバーにミサキは欠かせない。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] この技術、TCGに使ったらどうなんる? アニメのように遊○王プレイできるではないか?
[一言] これで物語の始めの方で乙女を語っていたという。 ま、まあみんなそんなものなのかもな……。
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