遠隔ボードゲーム 2
僕たちは、遠隔会議を行なうアプリ、『Dooom』を使って、それぞれの自宅からボードゲームをやろうとしている。
このアプリに詳しいレオ吉くんに従って、これから設定をする所だ。
「まずはプレアデス・スクリーンを開いて下さい。ボクの送った、『会議へのお誘い』のメールが届いているはずです」
「プレアデス・スクリーン、オン」
画面を表示すると『メールが来ています』と、メッセージが表示されたので、さっそく中身を開いてみる。
中身はもちろん会議のお誘いで、文章の最後に『会議に使うアプリをインストールしますか? はい・いいえ』と、メッセージが書いてあった。
「最後の一文の『はい』を選択して、会議アプリを入れて、起動して下さい」
レオ吉くんに言われるままに、アプリをインストールして起動をする。
アプリを起動すると、使用する前の、お決まりの『利用規約』が表示される。
『このサービスを利用するに辺り、弊社は個人情報を……』
相変わらず、この手の文章はかなり長い。宇宙人のアプリなので、念のため、変な事が書かれていないか、ざっと斜め読みをして確認していると、ミサキからこんな声が聞えてくる。
「アプリの起動が終わって待機状態になったよ。これからどうすれば良いの?」
「えっ? もう『利用規約』を読み終わって、『同意』をしたんですか?」
レオ吉くんが驚いた声をあげると、ミサキは、さも当然のように言い放つ。
「読んでないけど『同意』はしたわよ」
まあ、これはよくある話だ。『利用規約』の文章は、とてつもなく長くそして読みにくい。ゲームだと、特に読まずに同意するパターンがほとんどだ。
「お、おぉぅ、文章を読まずに『同意』するなんて……」
レオ吉くんはかなりショックを受けている、確かに国王や会社の役員をやっていれば、文面を読まずに同意するなんて事は考えられないのだろう。とんでもない契約書に同意してしまうと、それが致命傷になりかねない。
ショックを受けているレオ吉くんに、ジミ子が話しかける。
「私も『利用規約』は読むのが面倒だから、レオ吉くんから『利用規約』の内容を説明してよ」
「あっ、はい。ええとですね、簡単に言うと『このアプリのデータは、他に使ったりしません』という内容ですね。それを詳しく書いています」
「それならそう書けば良いんじゃないの? わざわざ長く書かなくても良いんじゃない?」
「……まあ、そうかもしれません。概要や要点だけ書き出して、詳細は別ページに用意するよう、アヤカさんに提案してみます」
利用規約は読みづらいものがほとんどだが、これから読みやすい文章に変るらしい。これならちゃんと読む人も増えると思う。
しばらくして、レオ吉くんが確認をする。
「みなさん、アプリは入れ終わってますか?」
「おう」「入れたわ」「終わったわ」「OK」「終わったよ」
それぞれが返事を返すと、レオ吉くんが何やら設定をしている。
「テーブルの形は…… ボードゲームなので円卓が良いですかね。お誘いのメッセージを飛ばすので、『参加する』を選択して下さい」
空中に『レオ吉さんから、会議のお誘いが来ました。参加しますか? 参加する・参加しない』とメッセージが表示され、『参加する』を選択すると、部屋の真ん中にホログラムの円卓が現われた。
部屋の真ん中に、直径1メートルくらいの円卓が現われ、その周りにレオ吉くん、ヤン太、キングが座っている。テーブルの上には、土地を買って通行料を取るボードゲーム、モソポリーが乗っていた。
これらの映し出された画像は、ちょっとだけ光っていて、向こう側がほんの少しだけ透けて見える。
この間プレイした『マルオカート』や『マッドネス・タクシー』では、実物と全く変らない映像だったのだが、これは明らかにホログラムと分る画質だった。
「あれ? もっと実物と変らない映像だと思ったけど、そうじゃないんだ?」
僕がそう言うと、レオ吉くんが答えてくれる。
「ええ、実物と同じレベルで投影すると、問題が色々と起こってしまいまして…… 明らかにホログラムと分る画質に落としています」
「その問題って何なんだ?」
ヤン太が聞くと、レオ吉くんは苦笑いをしながら答える。
「自宅で仕事、いわゆるリモートワークですね。リモートワークをしている人が、このアプリを使って職場の人と会議をしている時に、たまたま部屋に入ってきた家族が、軽いパニックを起こしたらしいです。『部屋の中に知らない人達がたくさん居る』と」
「まあ、それはビビるかもしれないな」
「これはまだ良い方で、中には浮気だと勘違いされて、離婚寸前にまで話がこじれた例もありますね」
「……それは大変だな」
「ですから、ホログラム画像だと一目でわかるレベルに落とす事になりました」
そんな話をしていると、ジミ子とミサキも会議室の中に入って来た。
ジミ子はいつもと変らない姿だったが、ミサキはパジャマ姿だった。




