遠隔ボードゲーム 1
今日はキングの家で遊ぶ約束をしていたのだが、急遽、中止となった。
その理由は台風が接近しているからだ。宇宙人の天気予報は正確で、僕たちの住むエリアは昼過ぎには強風圏に入る予定になっている。
テレビのニュースを見ながら朝食を食べていると、姉ちゃんがこんな事を聞いてきた。
「弟ちゃん、今日は遊ばないの?」
「うん、台風が来ているからね。本当はキングの家でボードゲームをやる予定だったんだけど……」
「ボードゲームって『すごろく』みたいなヤツよね?」
「もっとルールは複雑だけど、まあ確かに『すごろく』みたいな物だよ」
「それなら、それぞれ自宅に居てもゲームが出来ると思うよ。良いアプリがあるのよ、本当は遠隔の会議をする時に使うアプリなんだけどね」
遠隔の会議で使うアプリと言うと、カメラとマイクを使ってやる『Zooom』やマクロソフト社の『Teamers』や、ビデオ通話が出来る『skyper』みたいな物だろうか?
確かに、ボードゲームをやろうと思えば出来なくはないが、色々と辛そうな気がする。
僕が素直な意見を言う。
「うーん。ビデオ通話とかでやるんだよね? 出来なくないかもしれないけど、面倒くさいと思うよ」
僕がそう反論をすると、姉ちゃんはこう答える。
「そうかな? 宇宙人の技術を使っているから、そんなに面倒じゃないと思うわよ。やり方はレオ吉くんが知っているから、試しにやってみたらどう?」
「宇宙人の技術かぁ…… まあ、それならとりあえずやってみるよ」
やってみて、あまりにも面倒くさければ、途中でゲームを止めれば良い話だ。とりあえず試してみても良いだろう。
「ところで姉ちゃんは今日も仕事に行くの?」
台風が来ると言うのに、姉ちゃんは白いYシャツとグレーのスーツのスカートを着ている。時々、叩きつけるような雨が降っているこの雨空の中、どうやら会社に行くようだ。
「ああ、今日はちょっと外せないのよね、チーフと一緒にニューヨークの国連本部で会議なの。天気の事は気にしないで、あっちは晴れているみたいだから」
「いや、でも会社までの道があるでしょ?」
家から駅前の会社までは、徒歩で約15分。電車を使う訳ではないので、たとえ鉄道が止まっても平気だが、おそらく移動中にずぶ濡れにはなるだろう。
「ああ、それなら大丈夫よ。手配をしておいたから」
姉ちゃんがそう言うと、ピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。
「時間どおりね、じゃあ、ちょっと仕事に行ってくるわ」
タクシーでも手配したのかと思ったが、玄関のドアを空けるとロボットが中へ入ってくる。ロボットは高さ1.5メートル、幅70センチくらいの、小さなピンク色のドアを持っていた。
ロボットが玄関の中にこのドアを地面に置くと、姉ちゃんはガチャリとドアを空ける。ドアの向こう側には青空が広がっていて、世界各国の国旗が掲揚されている場所に繋がった。写真でしか見たことがないが、おそらく国連本部の前だろう。
「じゃあ、おみやげにアメリカのドーナッツをかってくるね。帰りもこの方法で帰ってくるから、心配しなくてもいいわよ」
姉ちゃんはそう言い残すとドアの向こう側に消えていった。確かにこれなら外の天気を気にしなくても移動が出来る。しかし、まさかうちの玄関がニューヨークに繋がるとは考えもしなかった。
この後、みんなにメッセージアプリのLnieで連絡をして、午後から会議アプリでボードゲームを試してみる事になった。
午後になり、自分の部屋で連絡が来るのを待っていると、Lnieの音声通話のコール音が聞えてきた。ボタンを押し、通話を開始すると、レオ吉くんの声が聞えてくる。
「ええと、みなさん会話が聞えますか?」
「聞えるわ」「聞えるぜ」「OK」「はい」「大丈夫だよ」
全員が一斉に返事をすると、レオ吉くんが少し混乱しながら答える。
「ええと、音声通話だと、誰が誰だかよく分りませんが、どうやら大丈夫らしいので話を進めます。会議アプリの名前は『Dooom』と言って、プレアデス・スクリーンを使ったアプリですね。擬似的な会議部屋を作り、その中に入ると会議ができるようになります」
この説明に対して、ミサキが質問をする。
「どういう事? 私がどこかへ移動するの?」
「いえ、どちらかと言うと逆ですね。それぞれの部屋に、参加者全員の立体映像が表示されます。その場に居て、全員が集まっているような感じになりますね」
説明を受けて、ジミ子が更にミサキに解説をする。
「つまりミサキの部屋に、私、ツカサ、ヤン太、キング、レオ吉くんのホログラムが表示されて、一緒に居るように会話やゲームが出来るって事よね?」
「そうです。その通りです」
レオ吉くんから確認の返事が聞えてきた。
なるほど、これならカメラを使ったやり取りとは違い、一緒に集まっているかのように遊ぶ事ができそうだ。




