僕たちとトゥイッター
みんなで集まっている時に、ミサキが突然、こんな事を言い出す。
「私、トゥイッターを始めてみたの」
トゥイッターとは、短いメッセージをインターネットで発信するSNSのサービスだ。
別名『つぶやき』と呼ばれるこの情報発信ツールは誰でも使えて、一般人から、一流の芸能人や、アメリカの大統領まで、ありとあらゆる人達が使っている。
ちなみに僕たちの中で、このサービスを利用しているのはキングしかいない。
ミサキが急に始めたので不思議に思い、僕は聞いてみる。
「なんで急に使い始めたの?」
「その理由はね、これよ!」
ミサキはそう言ってスマフォを見せる。そこにはメェクドナルドゥのトゥイッターキャンペーンの画面があった。
スマフォの画面を読んでいくと、こう書いてある。
『トゥイッターでメェクドナルドゥのアカウントをフォローすると、抽選で100名に1万円分の商品券をプレゼント』
どうやら1万円分の商品券に釣られて、トゥイッターを初めたみたいだ。ミサキが使い方をキングに聞く。
「ねえキング、フォローってこれで良いの?」
「ああ、それで大丈夫だ、キャンペーンに応募した事になっているぜ」
「一万円分かぁ、何をたべようかな?」
すでに当った気分のミサキに、ジミ子が水を差す。
「そんなに簡単に当る訳がないじゃない」
キングがスマフォで調べながら言う。
「まあ、そうだな。もう応募数が20万近く行ってるから、当選確率は2千分の1だな」
その結果を聞いて、ヤン太が言う。
「2千分の1だと、うちの高校の全員が応募しても、1人も当らない可能性の方が高いな」
うちの高校は3学年合わせても、生徒が500人くらいなので、全員が応募しても1人も当らない確率の方が、遙かに高い。かなり絶望的な数字だと思う。
ほとんど当らない事に気がついたミサキは、次にこんなページを見せてきた。
「ほ、他にもキャンペーンはたくさんあるんだから、ほら、見てよ」
それはトゥイッターを使ったキャンペーンの特集ページで、20以上のキャンペーンが取り上げられていた。
これを見て、ジミ子が言う。
「まあ、これだけ応募すれば、何かに当るかもね。応募するのは無料だし、私もやってみるわ」
そう言って、ミサキから特集ページのURLを教えてもらう。
ジミ子が参加した事によって、ミサキが得意気になって言う。
「みんなでキャンペーンに参加しましょうよ」
「俺はいいよ」「僕もいらないかな」
ヤン太と僕が断ると、その矛先はレオ吉くんへと向った。
「レオ吉くんはトゥイッターをやらないの?」
「ボクはフェスイブックをやっているので、トゥイッターの方はちょっと…… もしアカウントを取るとなると、色々な場所にお伺いを立てた後でないと、大変な事になりそうです」
レオ吉くんは動物ノ王国の国王という立場がある。気軽にトゥイートを流してしまうと、後でとんでもない事になるかもしれない。まあ、どこかの大国の大統領は、無責任にポンポンとトゥイートをしているので、そこまで気にしなくても良いかもしれないけど。
「ああ、じゃあ、ヤン太とツカサ、お願い、もう一度だけ考えて」
レオ吉くんが無理だと分ると、再び僕らがターゲットとなった。するとヤン太が折れる。
「しょうがないな。応募するキャンペーンは『メェクドナルドゥ』だけだぜ」
「やった、ツカサはどうする?」
「分ったよ。じゃあ僕も『メェクドナルドゥ』だけに応募するね」
こうして僕らはトゥイッターのアカウントを作った。
レオ吉くんを除く全員がアカウントを作り、それぞれをフォローする。
フォローとは追跡という意味らしく、その人が発言をすると、自分のページに表示されるらしい。
ヤン太がこれを見て、キングに聞く。
「これ、友人でメッセージを交わす時は、今まで通りメッセージツールのLnieでも良くないか?」
「ああ、むしろ友人同士のメッセージのやり取りはLnieの方が良いぜ。トゥイートだとインターネットで公開されて、見ず知らずの第三者でも見られるから、注意が必要だ」
これを聞いてジミ子がキングに言う。
「それじゃあ、使い道が無いじゃない」
「まあ、そうなると思う。トゥイッターを使う時は、外に向けてメッセージを送りたい時や、トゥイッターで知り合った相手に、何かメッセージを送りたい時だけだな」
「うーん。それだと本当に使わないわね。キャンペーンに応募するくらいしか、使い道がないわ」
これは僕やヤン太も同じ意見だろう。アカウントを作ったものの、おそらく使わないと思う。ミサキは、初めのうちはトゥイートをするかもしれないが、飽きっぽいのですぐにやらなくなると思う。
アカウントを作って、数日後。僕の推測は正しかったようだ。仲間うちのメッセージは相変わらずLnieを使い、ミサキは何度か食事とおやつの写真をアップして、それ以上はトゥイートしなくなった。
ただ一つ、予想外の事が起きる。ジミ子からLnieでメッセージが飛んできた。
『懸賞、当ったわ。メェクドナルドゥじゃないけど食べ物よ。明日、家に来て。みんなに振る舞うわ』
そのメッセージを見て、ミサキがすぐに返事を書く。
『行くわ! でも、みんなで食べられるほど、量があるの?』
『心配しなくていいわよ。60個入りが届いたから、おかわり自由よ』
『じゃあ、お腹を空かせて行くわね!』
どうやら何かに当ったらしい。翌日のお昼過ぎに、ジミ子の家に集まる事になった。
そして翌日。ジミ子の家に集まった。ミサキは「グルゥー」と腹の虫を鳴らしている。
「お昼、抜いて来ちゃった。何が当ったのかな?」
僕らはジミ子の部屋に通され、やがて懸賞品がお盆に乗ってやってきた。
「はい、『緑汁』。懸賞で当って嫌というほど余っているの。いくらでも飲んでね」
『緑汁』とは、葉っぱをすりつぶしたような、ドロドロとした飲み物だ。
昔、コマーシャルで「マズい! もう一杯も飲みたくない!」という、変なコマーシャルで話題になった事がある。
その『緑汁』が、コップに並々とつがれ、人数分が用意されていた。
「あっ、これが当ったんだ……」
僕がジミ子に聞くと、こう答えた。
「応募数が少なかったらしくて、当ったみたい。さあ、飲んでね」
ジミ子は、なぜか飲まなくてはならない雰囲気を出す。
コマーシャルでは、大げさにマズそうにしていた。
しかし、テレビでは何事も大げさに表現するものだ。
そう思い込んで『緑汁』を口にすると、コマシャルの表現は大げさでは無いと思い知らされる。それほど青臭く、苦く、エグく、マズかった。




