スパイス・シミュレータ 2
月面の世界では、『スパイス・シミュレータ』という謎の機械があるらしい。
この機械を取りに行ったレオ吉くんは、10分もすると帰ってきた。手には小さな段ボールを抱えている。
「ふう、外はやっぱり暑いですね」
「麦茶でも飲みながら、説明してよ」
僕が麦茶をレオ吉くんに渡すと、コップの半分ほどを一気に飲んだ。
一息ついたら落ち着いたらしく、レオ吉くんは段ボールを開けながら、説明をし始めた。
「ええと、『スパイス・シミュレータ』の操作の方法はいくつかありますが、慣れているスマフォで操作するのが良いですかね。まずはこのアプリを入れて下さい」
レオ吉くんが段ボールから本を1冊取り出す。それは、厚みが結構ある、大きな雑誌サイズの本だった。
ペラペラとページをめくり、QRコードが書かれたページを開いて僕たちに見せる。僕たちはQRコードを読み取り、アプリを入れた。このアプリは、『スパイス・シミュレータ』という機械と同じ名前だった。
「みなさん、アプリを入れましたか?」
「うん」「入れたぜ」「入れたわよ」
レオ吉くんが確認をすると、いよいよ『スパイス・シミュレータ』の装置の本体が出てくる。
それはUSBのコードの先に、直径10センチ、厚さ5ミリくらいの、ゼラチンっぽい塊の様な物が付いている変な装置だった。ゼラチンはかなり柔らかいらしく、グミのようにプルンプルンしている。
「なにこれ?」
ミサキが訳の分らない機械を前に、ポカンとしている。
確かに何だか全く分らない。これは、機械かどうかも怪しい物体だ。
「これは舌の上に乗せて使うんです。匂いに関しては、こちらを使って下さい」
そういってレオ吉くんは、鼻の部分を覆う、小さなマスクを箱の中から取りだして来た。このマスクにもUSBケーブルがついていて、接続できるようになっている。これらの機械は僕らの人数分が用意してあった。
どういう機械か、おおよそ予想がついたので、僕が確認をする。
「もしかして、これを装備すれば、味と匂いが分るの?」
「ええ、まあ、大体ですが、味と匂いが分ります。実物と違う場合もありますが、とりあえず試してみますか」
「もちろん、試してみるわ!」
ミサキが大喜びで返事をした。僕はミサキほどの反応をしなかったが、確かにこれは面白そうな装置だ。
ゼラチンを舌の上に乗せ、小さなマスクで鼻を覆う。USBケーブルをスマフォに繋げて、準備は完了だ。
レオ吉くんが本のページを開くと、様々な国の料理が写真とQRコード付きで載っていた。これは料理のカタログのような本らしい。パラパラとめくり、シミュレートする料理を探す。
「うーん、とりあえず、これで良いですかね、『鶏もも肉のレモングラス焼き』。みなさんQRコードを読み取って下さい」
レオ吉くんに言われて、ページに表示されているQRコードをスマフォで読み取る。
すると『鶏もも肉のレモングラス焼き、を読み取りますか?』と表示され、『はい』を選択すると、データーが表示される。
『レモングラス』『ショウガ』『ニンニク』などといった、香草やスパイスの名前と分量が表示され、さらに、これらの名前の下には『スパイスを追加』さらに下に『味と匂いを確認』というボタンが付いていた。
画面を見てジミ子が聞く。
「『味と匂いを確認』を押せばいいのよね?」
「ええ、そうですね。アレンジしたい場合は、量を増やしたり減らしたり、他のスパイスを追加したりと、色々とイジれますが、まずは基本のレシピで味を確認してみましょう」
僕らが確認ボタンを押すと、レモングラスの爽やかな匂いと、ニンニク特有の匂いが鼻を刺激し、ショウガのあっさりとした味が口に広がった。
ヤン太が驚いた様子で言う。
「本当に味と匂いがするな。ちょっとあっさりとしすぎてる気がするけど」
「そうですね。このシミュレーターだと、肉の脂とかは再現できないですから、ずいぶんサッパリとした感じになると思います」
レオ吉くんが詳しく説明をする。確かに実物と違う部分もあるが、おおよその味と香りが分るのは凄い機械だ。
「ねえ、もっと試してみましょうよ」
ミサキが催促をすると、レオ吉くんは、本をミサキに差し出しながら言う。
「この本を見てみます? ミサキさんの好みの料理が何か載っていればいいのですけど」
「うん、見せて見せて」
そう言って本がミサキの手に渡った。これは面倒くさい事になりそうだ。




