表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

429/567

マッドネス・タクシー 3

 午前中の練習走行が終わり、昼食を食べた後、いよいよゲームのテストプレイに入る。

 ちなみに運転する順番は、午前中と変わらず、レオ吉くん、僕、ミサキ、ヤン太、キング、ジミ子となっている。


『キャ・ディラック』に全員が乗り込むと、自動運転で空中にふわりと浮かぶ。


 ある程度、上昇すると、僕たちはアメリカの街の中に居た。


「おお、すげぇ。サンフランシスコの街だ」


「ドリーヌキャストだとグラフィックが荒かったけど、これだと本物の街と変わらないな」


 ヤン太とキングが声を上げる。


「ねえ、あそこのメェクドナルドゥでハンバーガーを食べてみない? 本場のハンバーガーと、どう違うか試してみたいでしょ」


 ミサキが窓の外のおなじみの看板を指して言う。すると姉ちゃんから突っ込みが入った。


「ミサキちゃん、それは空中に映し出した映像だから無理よ。本場のハンバーガーはこんど取り寄せてあげるから、今は我慢して」


「はい、わかりました」


 元気よく返事をするミサキ。しかし、ここでハンバーガーを食べたがるとは…… 先ほどまで食べていた昼食は、いったい何だったのだろう。



 ミサキが勘違いを起こすほど、この街はよくできている。建物だけでなく、人々も車も行き交い、何も知らない人を連れてきたら、これが映像だとはとても思えないだろう。


 ただ一つ、現実とは大きく違う点があった。


「あの、頭の上に(ドル)マークを浮かべている人達は何かしら?」


 ジミ子が道路沿いに立っている人達をの事を言うと、キングが答えてくれる。


「あの人達が客だぜ、頭の上の$マークには違う色が付いてるだろ?」


「何色かあるわね」


「赤、オレンジ、緑色と、段階があって、目的地が近いのは赤、そこそこの距離はオレンジ、遠いのは緑色に分けられているんだ」


「へえ、近距離のお客さんと、遠距離のお客さんが分るのね」


「そういう事だな」



 姉ちゃんからアナウンスが入る。


「ゲームの時間は10分、重力の最大負荷は1.6Gに設定するわ。アメリカだから右側通行なんで注意してね」


「それじゃあ行きますよ」


 レオ吉が気合いを入れてハンドルを握ると、カウントダウンの数字が現われゼロになる。ゲームが始まった。


「ええと『右見て、左見て、右』。いや、違いました、右側通行なんで『左見て、右見て、左』ですかね」


 バイクの免許を取ったばかりのレオ吉は、交通規則に従って慎重に発進する。ゲームなので、そこまで丁寧(ていねい)にやらなくてもいい気がするが、まあ、人のプレイなので、黙って見ていよう。



「お客さんがたくさん居ますね。とりあえず一番近い場所の、お客さんのところで止まります」


 レオ吉くんが、サラリーマン風のお客さんの前で、ゆっくりと車を止めると、お客さんはすぐに車に乗り込んできた。

 これはゲームなので、実際にドアが開く事はなかったが、バタンという効果音がスピーカーから流れると、僕たちの服が、乗り込んできたお客さんの着ていた、ビジネススーツの服に変った。


「あれ、服が替わった?」


 僕が思わず声を上げると、姉ちゃんが解説してくれる。


「乗って来たお客さんの服装を、搭乗者(とうじょうしゃ)に反映するようにしてみたの、どう? それっぽいでしょ?」


「面白いね、これだけでも楽しめそう」


 通りを見てみると、カジュアルな格好、ドレス、アフロのダンサーと、色々な格好をしたお客さんがいる。

 このゲームはタクシーのドライバーという、地味で退屈なゲームなので、こういった遊び心があった方が良いだろう。



「ええと、行き先は…… 公園のようですが、どこにあるんですか?」


 一方、レオ吉は運転で服装どころではない。行き先の地名が表示されたのだが、サンフランシスコの街など分るハズもなく、軽く混乱をしてる。

 するとキングが、前方の少し上を指さしながら言う。


「あの矢印の方向に目的地があるぜ」


 前方の上空5メートルほどの場所に、緑色の大きな矢印が浮いている。なるほど、あれがナビゲーターの代りらしい。


「おっ、分りました。では発進します。『左見て、右見て、左』」


 レオ吉くんは必要に周りを確認してから、タクシーを出発させる。



 夏の青い空の下、サンフランシスコの街の中を、観光気分でドライブをする。

 大きなガソリンスタンド、お洒落な喫茶店、広大な駐車場のスーパーマーケット。色々な建物がちゃんと作り込まれている。


 走っている途中に現われた坂道はかなり急で、レトロな路面電車が走っていた。この風景は、写真か何かで見たような気がする。


「目の前にサンフランシスコ湾が広がっているでしょう。その中に島が見えると思うけど、それがアルカトラズ島よ」


 走っている途中で、姉ちゃんからアナウンスがあった。坂からは海が見え、そこに島が浮かんでいる。島の中央には、無骨(ぶこつ)な要塞の様なビルが建っていて、あれが刑務所の跡なのだろう。


 マルオカートとは全く違う景色を楽しんでいると、あっという間に目的地の公園へとたどり着いた。



 キングが目の前を指さしながら言う。


「あそこら辺の、地面が緑色に光っているエリアの中に停車するんだ。それで客を降ろした事になるハズだ」


「はい、わかりました」


 レオ吉くんが言われた通りに道路脇に停車すると、僕たちの服が元にもどり、「サンキュー」という音と共に、チャリン、チャリンと、お金の入る音がした。


「ふう、無事にお客さんを運べましたよ」


 安心するレオ吉くんに、ヤン太が急かすように言う。


「まだまだ時間があるぜ、次のお客さんを乗せないと」


 周りを見渡すと、頭の上に$マークが浮かんでいる人が5人は見える。


「ええと、次はこの人にします」


 カジュアルな服装の人を乗せると、今度の行き先はシーフードレストランだった。



 次の行き先はシーフードレストランは、海沿いにあるらしく、椰子(やし)の木が植えてある海岸線の道を走っていく。

 窓の外を見ると、ビーチで波と(たわむ)れる人や、釣りを楽しんでいる人がいる。


 タクシーのドライバーはつまらないと思っていたが、このような美しい景色の観光地なら、普通にドライブするだけでも充分に楽しめそうだ。



 海岸線の道を走ること2分。二人目を無事にシーフードレストランに運び届け、三人目をひろうと、次の目的地はショッピングモールを示した。


 こんどは街中を走り抜け、ショッピングモールに送り届けると、10分がすぎたようだ。姉ちゃんからアナウンスが入った。


「はい、レオ吉くんはここまで。次は誰だったっけ?」


「次は僕だよ。姉ちゃん」


「じゃあ、運転手の席替えをする為に、一端、地上に降ろすわね」


「いや、車が広いから大丈夫だと思うよ、ちょっと待ってね」


 みんなで車内をゴソゴソと動き、席順を変える。広いアメリカの車だったので、体の大きいレオ吉くんでも難なく移動が出来た。



 移動が終わると、僕は姉ちゃんに催促(さいそく)をする。


「準備ができたから、はじめて良いよ」


「じゃあ行くわよ。サンフランシスコの街並みを楽しんでね」


 いよいよ僕の運転が始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] クレタクはハマりました。 このシステムを使えば教習所も、マシな教習するでしょうね
[一言] 地元の人間って観光するようなところがあっても逆に行かないってありますね。 というか、余所見運転は危険だし風景楽しめるのは客役のみかな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ