半重力ブラ 2
翌日、僕らはハンバーガーチェーンのメェクドナルドゥに集まった。いつもバイトの話はLnieなどのメッセージツールで伝えているが、今日は直接会って伝える事にした。
わざわざ会って話すその理由は、この話題がとてもデリケートだからだ。特にジミ子に対しては、細心の注意を払う必要がある。
メニューを頼み、いつもの席に座ると、僕は話を切り出す。
「姉ちゃんから、宇宙人の技術を使った、ブラジャーのモデルを頼まれたんだ。とりあえず、どんなバイトだか話を聞いてくれる?」
「いいわよ。どんな技術をつかったブラジャーなの?」
ミサキが真っ先に話に食いついてきた。このままミサキに説明しても良いが、その前に、レオ吉くんにお断りを入れておかないといけない。
「姉ちゃんから聞いたんだけど、レオ吉くんは下着のモデルはNGらしいんだ。国の象徴として、問題が出るといけないんだって」
「そうですか、それは残念ですが、しかたありませんね」
そう言いながらレオ吉くんは、幸せそうに2段重ねのビックメックバーガーにかぶりつく。
親しく付き合っているので、ついつい忘れがちだが、レオ吉くんは動物ノ王国の国王という重要な立場だ。
「それで、どんなブラジャーなの?」
ミサキがまた聞いてきたので、話を本題に戻す。姉ちゃんにもらったパンフレットを見せながら、説明はを始める。
「ええと、『半重力ブラ』って商品名で、胸の重さが半分くらいに感じるブラジャーなんだ。運動しても負担が軽いし、痛くならないんだ」
すると、ヤン太とキングが話に乗ってきた。
「運動して痛くならないのは、すげぇな」
「良いな、軽く感じられるようなヤツが欲しかったんだ」
二人はカタログを食い入るように見始めた。
その一方、ミサキとジミ子は、あまり興味がなさそうだ。
「へぇ、ブラジャーにそんな機能は要らないんじゃない?」
「むしろ、胸の重さが倍くらいに感じられる方が、私は欲しいわ……」
生気が無く、虚ろな目をしているミサキとジミ子に、僕は違うタイプのブラジャーのカタログを見せる。
「姉ちゃんがこんなブラジャーも開発したらしいよ。『空間歪曲ブラ』と言う商品で、空間をねじ曲げて、胸を大きく見せるみたい。胸のパットとか使わないから、姉ちゃんはセーフとか言っていたけど……」
すると、ミサキとジミ子は即答をする。
「も、もちろんセーフよ」
「そ、そうね。たまたま空間が歪んでしまったら、しょうがないわよね」
ミサキとジミ子はそう言うと、このブラジャーのカタログを隅から隅まで見始めた。
いや、空間は『たまたま』ではなく、意図的に曲げていると思うのだが……
ちなみにこのブラジャーの値段は半重力ブラが2万5千円、空間歪曲ブラが3万2千円の予定だ。
「あっ、そうそう。今回のバイト代は2千円らしいんだけど、撮影に使ったブラジャーをオマケでくれるってさ」
「やる!」「やるわ!」「おう」「引き受けるぜ」
全員参加の返事をしたので、僕は姉ちゃんに伝えておく。
「ボクもそのうち買ってみましょうかね」
レオ吉くんが半重力ブラのカタログを見ながら言った。確かにレオ吉くんもかなりデカいので、色々と大変そうだ。
後日、僕らは撮影の為に姉ちゃんの会社の前に集まった。
時刻が来ると、会社の中に招かれる。中に入ると、男女に分かれて着替えをする。
上半身は裸になり、身につける物は、用意されていたブラジャーのみ。ちなみに下半身はズボンとかスカートを穿いたままだ。今回は、ブラジャーのみの撮影なので、下はどうでも良いらしい。
着替えが終わると、僕らは会議室で合流する。会議室には撮影用の白い布で覆われているコーナーがあった、特に移動はせず、この場で撮影を行なうようだ。
しかし、元男性陣は、上半身を晒す事にあまり抵抗はないが、ミサキとジミ子は恥ずかしくないのだろうか?
そう思っていたら、ジミ子が大声ではしゃぎながら、こんな事を言う。
「ほら、見てよ。ツカサ級よ、ツカサ級」
どうやら空間歪曲ブラには、大きさを調整するツマミが付いているようだ。肥大化させた胸のサイズは小玉スイカほどあり、さすがにその大きさは不自然だろう。いくら僕でもあそこまでは大きくない。
「それじゃあ、撮影をはじめましょうか、すぐ終わるわよ。まずは弟ちゃんね」
姉ちゃんに言われて、僕が撮影コーナーに入る。
ちなみにレオ吉くんはカメラを持っていて、今回は撮影スタッフの一員だ。
「はい、腕を上げてください。下ろしてください。今度は軽くジャンプして。はいOKです」
撮影は1分くらいで終わった。続いて、ヤン太とキングの撮影も、同じ様に終わる。
「これだけで、時給をもらうのは気が引けるな」
ヤン太が遠慮がちに言うと、姉ちゃんは、こう言った。
「気にしないでいいわよ。ちゃんと写真は使わせてもらうんだから」
「それじゃあ、もらっときます」
そんな会話をしながら、撮影は続く。
元男性陣は1回で撮影が終わり、こんどは女子の番だ。
ミサキとジミ子は、何パターンかサイズを変えて撮影をする。途中でジミ子が大きくしすぎて、問題になったが、それでも30分もしないうちに撮影は無事に終わった。
バイト代と高いブラジャーを貰い、僕たちはひとまず会社を出る。
「ありがとう、また何かあったらよろしくね」
「「「はい、よろしくお願いします」」」
姉ちゃんと別れを告げて、ひとまず休憩するために、メェクドナルドゥによる。
移動中もジミ子は空間を曲げて、大きくしたままだった。
『空間歪曲ブラ』の歪曲は完璧で、バランスの悪さを覗けば、どこからどう見ても本物だと思ったが、僕はひとつ、決定的な違いを見つけてしまった。
それは、歩いていたりして運動をしても、大きさの割に全く揺れないのだ。おそらく歪曲元の肉体が揺れていないから、歪曲した先の像も動かないんだろう。
この点をジミ子に指摘しても良かったが、あまりにも嬉しそうだったので、僕は言わないでおく事に決めた。そのうち自分で気がつくはずだ。
後日、テレビを見ていると、胸の大きさの割に揺れてない人が多いのに気がついた。
胸にパットなどを入れた場合も、あまり揺れないらしいが、これはどういう事だろうか……




