半重力ブラ 1
夜になり、ダイニングのソファーでスマフォをイジって遊んでいると、姉ちゃんが帰ってきた。手には小さな紙袋を持っている。
「弟ちゃん、はいこれ。この間のバイトのお詫び」
「お詫び? 何かあったっけ?」
「マルオカートの時のお詫びね。まあ、とりあえず開けてみて」
「あっ、うん。分った」
何の事か分らなかったが、紙袋を開けると、そこにはブラジャーが入っていた。
これを見て、僕は一つ思い出す。おそらくカートで大ジャンプをした時に、紐が切れたブラジャーのかわりだろう。
「こんな高そうなの僕にはもったいないよ、姉ちゃんが使ったら?」
「それは弟ちゃんに合わせたサイズだから、私には合わないわ。宇宙人の技術を使った新製品だから、つかってみてよ」
「どんな技術が使われているの?」
「それはね。とりあえず、このパンフレットを見てちょうだい」
そういって姉ちゃんは、鞄からパンフレットを取り出して来た。
パンフレットを見てみると、表紙には『宇宙人の技術の結晶。半重力ブラ』と大きく書かれている。
「姉ちゃん、何が『半重力』なの?」
「着けごこちが『半重力』なのよ。まあ、実際に重力を軽減したりもしているんだけどね。ちょっとページを開いてみて」
姉ちゃんに言われてページをめくる。パンフレットの中を覗いてみると、こんな内容が書いてあった。
『絶対にズレない素材を使用!』
『通気性は抜群。夏は涼しく、冬は暖かい』
『重力軽減装置を採用、重量はおよそ半分に!』
ブラジャーごときに最新技術を使いすぎている気がする。機能を付けすぎたせいか、値段は2万5千円もするようだ。
僕は姉ちゃんに素直な感想を言う。
「これはちょっと、やり過ぎじゃない?」
「そうかしら? まあ、試しに着けてみてよ」
「うん、じゃあ着けてくるね」
僕は洗面所に行き、ブラジャーを付け替える。すると、肌に吸い付くようにフィットする。今まで安物しか使った事がなかったが、高級品はこんなにも違うものだろうか。
僕はさっそく姉ちゃんにお礼を言いに行く。
「コレはすごいよ、ありがとう」
「そのブラが最も効果を発揮するのは、運動の時なの、ちょっと飛び跳ねてみて」
「こんな感じかな?」
僕は軽く垂直跳びをする。いつもだと、この軽い運動でも、かなり暴れるが、今回はゆっくりと僕の動きに合わせてついてくる、まるで胸だけ水の中にあるようだ。
「あっ、これ本当にすごいね。ヤン太とキングにも教えよう。でもちょっと買うには高いな」
僕がつぶやくように言うと、姉ちゃんはこう言った。
「それなら、いつものようにバイトしてみる。そうね、今回のバイトの内容は、下着のモデルでどうかな?」
「いや、モデルだとキングは良いかもしれないけど、僕たちには無理だよ」
「大丈夫よ。下着のモデルなんで、顔は写さないわ。バスト周りだけだから」
「あー、うん。それなら良いのかな? 明日、みんなに聞いてみるよ」
そう返事をした後で、僕はある問題点に気がついた。
カタログを見ると、この半重力ブラは、どうやら胸の大きな人を対象として作られているみたいだ。
ミサキはあまり大きいとは言えないし、ジミ子はむしろ小さい部類に入る。
はたして、この下着のモデルは務まるのだろうか?
僕は姉ちゃんに確認をする。
「姉ちゃん、ミサキとジミ子に、この下着のモデルは務まるの?」
「この下着のモデルは無理ね」
姉ちゃんは即答する。今回のバイトは、三人だけでやるのだろうか。
そう思っていると、姉ちゃんはもう一つ、パンフレットを出して来た。
「ミサキちゃんと、ジミ子ちゃんには、こっちのブラジャーのモデルをしてもらおうかしら」
もう一つのパンフレットの表紙には『空間歪曲ブラ』と書かれていた。
「姉ちゃん、この『空間歪曲ブラ』って何?」
「それはね。胸の周りの空間を歪めて、胸を大きくみせるブラジャーなの」
「胸を大きく見せるなら、パットとか入れれば良いんじゃないの?」
僕がそう言うと、姉ちゃんは渋い顔をしながら答える。
「うーん。パットだと、あからさまに胸を盛っているじゃない。このブラは、たまたま空間に歪みが生じただけだからセーフなのよ」
姉ちゃんが訳の分らない理屈を言う。
どこがどうセーフなのだろうか? 胸に対する女性の考え方は、いまいち良くわからない。
「弟ちゃん、じゃあ、明日、みんなに聞いておいてね」
「うん。分ったよ」
こうして姉ちゃんに頼まれたものの、ミサキとジミ子にはどうやって話を切り出そうか。下手をすると、二人の逆鱗に触れかねない。




