マルオカート 6
僕たちは様々なコースを走る。
遊園地の中を走るような、とても賑やかなコース。
土でできた道をのんびり走る、桜の森の中のコース。
首都高速のような、立体的で複雑な都会的なコース。
バラエティ豊かなコースを一通り走った後、姉ちゃんが僕たちに言う。
「そろそろ良い時間だから、お昼にしましょうか?」
「そうしましょう。ちょうどお腹が空いてきた所です」
ミサキが即答して、お昼ご飯にする事になった。僕は、前の休憩でブルーベリーパイを食べたので、まだそんなにお腹は空いていない。もう少しカートで走っても良いような気もするが、時計を見ると時刻は13時近くになっている。僕らは、意外と長い時間、走り続けていたようだ。
レースを終えると、僕たちは自動運転で地上に戻された。
カートを降りて、姉ちゃんを先頭に歩いて社員食堂へと向う。
会社の中を進み、社員食堂にたどり着く。お昼休みが終わりかけている13時近くの食堂は、人がまばらに居るだけで、とても空いてる。
食品サンプルが並んで居る、食券の販売所の前で、姉ちゃんが僕たちに言う。
「お昼は必要経費で出すから、好きなものを食べてちょうだい」
「麺が3倍のジャンボラーメンってあるわ。私はこれにしましょう」
各自、好きなメニューを言い、姉ちゃんがまとめて食券を購入する。
食券を窓口で渡して、引き換えに食事を貰うと、僕たちはテーブルに着く。
「「「いただきます!」」」
全員そろった事を確認すると、食事を食べ始めた。
ちなみに僕はハンバーグカレーライスを注文した。カレーソースにコクと深みがあり、600円という価格の割にはかなり美味しい。
食事をしながら雑談をする、話題はもちろん先ほどまで走っていたカートについてだ。
「あのマルオカート、すげえ楽しいよな」
ヤン太がそう言うと、ミサキがラーメンを口を入れたままで答える。
「そうね、とっても楽しいわ。私はあの遊園地を走るコースが特に楽しかったわ」
「ボクはビーチを走るステージですかね。打ち寄せる波の大きさによって、コース取りが微妙に変わるのが面白いです」
「私は桜のトンネルを走るコースかな。あの綺麗な道を、もうちょっとゆっくりと走りたいけどね」
レオ吉くんとジミ子が続けて感想を言う。
「俺は最初のコースが良いな。あの大ジャンプは最高だったぜ!」
キングはあの恐怖のコースを最高だと言った。このマルオカートには、色々なコースにジャンプ台が設置されていたが、どれも高さが5メートルくらいの小さなジャンプしかなかった。最初のコースのジャンプ台は高さも距離も別格だ。
できれば僕は、あの大ジャンプはやりたくない。
姉ちゃんに本当にあのコースは安全なのか、改めて聞いて見る。
「姉ちゃん、このゲームは本当に安全なの?」
「ええ、とても安全よ」
「すごいジャンプをするコースとかあったけど、事故が起こることは無いの」
「無いわ。あれは、実際にジャンプをしている訳じゃなく、ジャンプをしたときの軌道を、カートにさせているだけなの。その証拠に、ジャンプに失敗して、空中できりもみ回転したり、他のカートの上に乗っかる事もなかったでしょ」
「あ、うん。なかったね」
僕がそう言うと、キングが補足をする。
「そういえば、ゲームと同じように、空中でハンドルを切ると、すこし軌道が変わったな。現実のジャンプだと、そんな事は起きないはずだぜ」
「そうね。現実だと踏み切ったら、着地するまではなにも操作できないからね」
そう言って、姉ちゃんはニヤリと笑った。
どうやらこのカートのゲームの出来に関しては、かなり自信があるようだ。まあ、確かに、あの大ジャンプ以外はかなり楽しかった。
ジミ子が姉ちゃんに、こんな質問をする。
「そういえば、カート同士がぶつかっても平気なんですか?」
いくら宇宙人の技術を使っていて、カートが頑丈だと言っても、さすがに現実でぶつける訳にはいかない。かなり周りに気を使って、僕らは走行している。
「あー、そういえば、走行中にほとんどぶつかってなかったわね。もしかして接触とか気にしていた? 良いわよどんどんぶつけても、実際にぶつかる事は、ほぼ無いから」
姉ちゃんがよく分らない事を言うので、ジミ子がさらに話を聞く。
「それってどういう事です? 自動運転か何かで、ぶつかる前に、何か制御が入るんですか?」
「うーん。制御は入る事は入るんだけど、ぶつかる直前に、ぶつかった後の動きをシミュレーションして、その通りの動きをカートにさせるの。運転している人は衝撃が来て、ぶつかったと思うかもしれないけど、実際に接触はおこらないわ」
「つまりぶつけようとしても直前で止まって、その後に偽物の衝撃が来るという事ですね」
「そうね。だからいくらぶつようとしても良いわよ」
その言葉を聞いて、ヤン太とキングとミサキがニヤニヤしだす。
「バトルも有りか」
「これは楽しくなりそうだぜ」
「そうね。面白くなりそうね」
悪巧みをしているように笑う3人を前に、姉ちゃんがさらに言う。
「午前中は出してなかったけど、午後の走行ではアイテムも出す?」
「姉ちゃん、アイテムってなに?」
「もちろんマルオカートのアイテムよ。『バナナ』や『亀』とかあるでしょ」
それを聞いて、レオ吉くんが質問をする。
「『バナナ』は何となく利用方法分りますが『亀』ってなんです?」
練習走行しかしておらず、アイテムの効果がわからないレオ吉くんに、ミサキが説明をする。
「『亀』は敵に向って投げつけるのよ。そうすると、スイーッと滑って、ドカンと当るわ」
「えっ、なんで『亀』が滑るんですか?」
「『亀』は良く滑るでしょう。まるでアイススケートみたいに、よく滑るわよ」
「いや、ちょっと言っている意味がわかりません」
マルオブラザーズをやった事のある人なら、すぐに想像がつくと思うが、そうでない人には想像は困難だろう。
悩んでいるレオ吉くんをよそに、姉ちゃんが時計を見て言った。
「まあ、やってみれば分ると思うよ、そろそろレースに行きましょうか」
「「「はい」」」
午後からの走行が始まる。ぶつけ合いとアイテムが加わった。これからがレースの本番かもしれない。




