マルオカート 4
僕らはカートを降りると、姉ちゃんに誘導されて、工場のような建物に入る。
階段で2階に上がり、少し通路を歩くと、社員食堂についた。
姉ちゃんは入り口にいたロボットに声を掛ける。
僕らはテーブルに着き、お茶などを準備していると、ロボットはピザのような箱とフォークと取り皿を持ってきてくれた。おそらく、あの箱の中にブルーベリーパイが入っているのだろう。
「待ってました!」
座っていたミサキが勢いよく立ち上がる。僕はミサキの興奮を抑える為に、肩に手を掛けて、そっと座り直しをさせる。
ロボットが近寄ってくると、姉ちゃんは、更にこんな注文をする。
「7等分に切って、配膳してちょうだい」
「了解しまシタ」
姉ちゃんを含めると僕たちは7人居る。ロボットは円形のブルーベリーパイを綺麗に7等分に切り分けると、皿に盛り付けてそれぞれの前に置く。人間が7等分という半端な数を切ろうとすると、どうしても片寄ってしまうが、ロボットだとそんな事は起こらない。
「「「いただきます」」」
配膳が行き渡ると、僕たちは挨拶をして食べ始める。
お皿の上のブルーベリーパイは、表面がパリッとしていて、中はブルーベリーのペーストが、これでもかとふんだんに入れられていた。
ひとかけら口に入れると、完熟のブルーベリーの香りが広がる。甘さと程よい酸味があり、これなら幾らだって食べられそうだ。ミサキはおいしさのあまり、ちょっと涙目になっていた。
このデザートを食べながら、姉ちゃんが今後の予定を言う。
「練習コースでの走行は、もう充分でしょう。あとは実際のコースを軽めに走ってもらって、お昼になったら休憩ね。昼食を挟んで、午後から2時間ぐらい走ってもらって、バイトは終了よ。午後からギャラリーの人が来る予定だから、ちょっと良いところを見せてちょうだい」
「姉ちゃん、実際のコースってどこにあるの? ここからどうやって移動するの?」
「ここでやるわよ」
「それって、あの駐車場のコースの事?」
「いいえ、違うわ。まあ、実際にどうなるかは、楽しみにしておいて」
姉ちゃんはそう言ってニヤリと不適な笑みを浮かべる。まあ、コースがちゃんと用意されているのなら、それで構わない。
「食べ終から、カートに戻りません?」
ヤン太がパイを食べ終わり、姉ちゃんに催促をする。
すると、姉ちゃんはこう言った。
「ちょっとまってね、今、カートに追加の装置を付けている所だから」
「どんな装置を追加するんです?」
「あー、必要のない装置だと思うけど、まあ簡単に言うと、騒音と振動を追加する装置ね。これでうるさくなるけど、運転の臨場感は増すと思うわ」
「おお、それは良い」「最高だ」
ヤン太とキングが絶賛する。たしかにあのマシンは静かすぎて物足りないと思っていた所だ。少しくらい騒音があった方が雰囲気が出るだろう。
お茶を飲んでゆっくりとしていたら、姉ちゃんのスマフォにメッセージが届いた。
「改造が終わったみたい。じゃあ、行きましょうか」
僕らは急ぎ足でカートへと戻る。
カートに戻り、自分のマシンに乗り込む。
すると、先ほどにはなかったボリュームのつまみが付いていた。つまみの上には『騒音』とラベルが貼ってある。僕は比較的、小さめに設定をした。
「みんな乗ったみたね。『騒音』の設定は大丈夫? じゃあ、これから自動運転で本番コースに移動するわよ」
姉ちゃんの声が聞えてきて、僕はハンドルから手を離す。
ここに来たときのように、どこかへ走って移動するのかと思ったが、それは違った。カートは空を飛び始め、真上に向って上昇はじめた。
「えっ! 姉ちゃん、このカート、上昇してるんだけど?」
「そうよ。それは空も飛べるカートで、本番コースは上空にあるの。プレアデス・スクリーンを使った、ヴァーチャルコースね。上を見上げて」
上空を見上げると、そこには巨大なサーキット場が浮かんでいた。
アスファルトのコース、周りの砂場と芝生、観客席やサーキット場の周りにある森までも、ゲームと同様に再現されている。
このコースを見て、キングがつぶやく。
「あれは、初心者向けの『マルオサーキット』だな」
「そうよ、初めはこのコースで慣れてちょうだい」
姉ちゃんがそう言うと、レオ吉くんが自信満々に言った。
「このコースなら、ボクはかなり練習しましたよ」
カートは上昇を続け、地面を通り抜けるようにして、サーキット場の中に出た。そこは『マルオカート』の世界、そのものだった。
スタート地点に配置されると、ヤン太が言う。
「右手の観客席をみてみろよ。ネンテンドーのキャラクター総出演だぜ」
ヤン太に言われて観客席を見ると、確かにその通りだった。
マルオブラザーズのキャラクターはもちろん、ゼノレダのリソク、あつまれどぶうつの森、他にもボクモンのモンスター達が座って、こちらを見守っている。
「あれ? あそこにラブモンが混ざっていない?」
ジミ子がそんな発見をする。
「いや、ラブモンに見つめられても困るんだけど、どこにいるの?」
ラブモンが苦手なミサキが、拒否反応を示しながら、怖いもの見たさでラブモンを探す。
「ほら、観客席の右上の方なんだけど」
「ほら、もうレースが始まるぜ!」
ジミ子が説明しようとすると、それをキングがさえぎった。
ゲームとおなじカウントダウンの音がして、赤信号が青信号に切り替わる。
僕たちのレースが始まった。




