マルオカート 1
昼間に遊んでいると、メッセージアプリのLnieで、姉ちゃんからこんなメッセージが届く。
『急で悪いんだけど、明日10時からバイトは出来る? もちろん、お友達を誘ってみて』
僕は、みんなにすぐ、この話を振る。
「姉ちゃんから、『明日10時からバイトに入れないか?』ってメッセージが来たんだけど、どうする?」
「いいわよ」「俺も」「私も」「良いぜ」
ミサキ、ヤン太、ジミ子、キングがOKの返事をする。
「そういえば、レオ吉くんはどうなんだろう?」
僕が疑問を口にすると、レオ吉くんはスマフォを見せながら、こう答えてくれた。
「ボクにも『休日出勤のお願い』が来ました。おそらく同じ仕事でしょう。こちらはこちらでOKの返事を出しておきますね」
「わかったよ。全員参加で返事を出しておくね」
姉ちゃんにメッセージを送ると、こんな返事が戻ってきた。
『とびきり楽なバイトよ、遊んで感想を言うだけだから。ちょっと忙しいから、詳しい話はまた後でね』
このメッセージをみんなに見せながら言う。
「こんな返事がきたよ。なんのバイトだろうね?」
「レオ吉くんの方には、何か資料とか行ってるんじゃないの?」
ジミ子がレオ吉くんに聞く。
「さあ、ボクの方には『ありがとう、待ってるわ』としかメッセージが来てないですね」
「まあ、明日になれば分るだろう。何のバイトだか、楽しみにしてようぜ」
ヤン太に言われて、僕たちは遊びを再開した。
その日の夜遅く、姉ちゃんが残業をして帰ってきた。
「はー、疲れたー、まさか調整にこんなに時間がかかるなんて……」
「姉ちゃん、お疲れさま。残業なんて珍しいね」
「そうね。ちょっとコラボ企画をした企業さんが、こだわりが強くてね。色々と手直しをしたら、こんな時間になっちゃったのよ」
「それって、明日のバイトに関係する話?」
「そうよ。ゲーム会社のネンテンドーって知ってるわよね?」
「もちろん知ってるよ」
「明日は、新しいゲームと言おうか、アトラクションのテストプレイをしてもらうわ」
「本当? どんなゲームなの?」
「それは…… ちょっと先にシャワーとか入ってこさせて」
「あっ、うん。じゃあ、待ってるね」
そう言うと、姉ちゃんは風呂場の方に行ってしまった。さて、どんなゲームなんだろうか?
僕は台所のテーブルで姉ちゃんを待ち受ける。
シャワーを浴びた姉ちゃんは、遅めの夕食をして、お気に入りの発泡酒を飲む。
腹が膨れて落ち着いた所で、僕は明日の話を切り出す。
「姉ちゃん、明日の話なんだけどさ、どんなゲームなの?」
「ゲームって言うか、アトラクションね。まあ、既存のゲームを現実にしただけだから、ゲームと言ったらゲームだけど」
「それで、その既存のゲームって、なんていうタイトル?」
「えーと、『マルオカート』って言うレースゲームなんだけど、知ってる?」
「知ってるよ。もちろんやった事もあるよ」
『マルオカート』とは、ネンテンドーでおなじみの、マルオブラザーズのキャラクターが繰り広げるレースゲームだ。小さなおもちゃみたいなカートという車に乗って、コースを走る。
普通のレースゲームと違うのは、コミカルなキャラクターと、特殊なステージがある事だろう。ビーチを走る南国のステージ、やたらと滑る氷のステージ、マグマが飛び交う火山ステージなんていうのもある。
僕らは、小学校から中学生にかけて、よくキングの家に集まって、このゲームをやっていた。対戦が白熱する、とても良くできたレースゲームだ。
姉ちゃんは話を続ける。
「知っているなら話が早いわね。今週の改善計画で、重力遮断装置つきのコックピットを発表したの覚えてる?」
「うん、福竹アナウンサーが展望台の高さから落っことされたヤツだよね」
「そう、それを使って、なにかアトラクションを作らないかって各社に持ちかけたら、ネンテンドーさんが、この企画を推してきてね。コースは現実的な物にして、とりあえず試作品を作ってみたのよ。乗り物は頑丈だから、ゲームのようにぶつけても平気よ」
「どんなコースにしたの?」
「あー、それは明日になってからのお楽しみで良い?」
「わかったよ。楽しみにしておくね」
この後、みんなにメッセージを送る。
『面白そうね』『明日が楽しみだ』『ちょっとゲームで復習しておくか』
そんなメッセージが返ってくる中で、レオ吉くんはこんな返事を返してきた。
『なんですか? マルオカートって?』
『レースゲームで、こんな感じだよ』
僕が最新版のゲームのURLを貼り付ける。すると、こんな返事が返ってきた。
『じゃあ、ちょっとゲーム機を買ってやってみますね』
ネンテンドーの最新ハードは3万円くらいする。それを気軽に買ってしまうとは、さすが大人の財力だ。
僕が感心していると、ジミ子が突っ込みを入れる。
『レオ吉くんって、バイクを買って金欠じゃなかったっけ?』
『カードで買うので大丈夫ですよ。請求は翌月ですからね』
……大人だと感心してしまったが、レオ吉くんのお金の使い方が、ちょっと心配になった。
そして翌日になる。僕らは姉ちゃんの会社の前に集まった。




