無敵の服 4
バスケが終わった僕たちは、次の遊び場所を探す。
すると、バッティングマシンが空いていた。僕がヤン太に教える。
「バッティングマシンが空いているね」
「じゃあ、次はバッティングマシンをやってみるか」
こうしてバッティングマシンで遊ぶ事になった。
この場所のバッティングマシンは、大きく分けて4段階のレベルで設定されている。
小学生レベルの『初級』、中学生レベルの『中級』、高校生レベルの『上級』、そしてプロ並みの『超上級』。それぞれのレベルに設定された打席が用意されている。
僕たちは高校生で年齢だけみると『上級』だが、このレベルは常に野球を練習している、野球部員などを対象としたレベル設定だ。素人の僕たちは『初球』か『中級』がちょうど良いだろう。
「じゃあ、さっそく腕試しに行くとするか」
ヤン太が金属バットを持ってネットをくぐり、『中級』の打席につく。
スタートボタンを押すと、ボールが飛んできた。
「ふん、あー、ダメだった。もういっちょ、おっ、今度はそこそこヒットしたな」
ここのバッティングマシンは、投げたあとに球速が表示される。球速は110キロくらいが中心だろうか。
ヤン太は20球ほと打ってみて、空振り3割、あまり飛ばないゴロみたいな当りが4割、ヒット性の当りが2割、大当たりが1割ほどといった割合だ。
打ち終わったヤン太は、ちょっと渋い顔で戻ってきた。
「いまいちだったな……」
「そんな事はないよ、僕だともっと酷いと思うよ」
僕が返事をしていると、横でジミ子がヘルメットをかぶりながら言う。
「次は私が行ってくるわ」
ヤン太と同じ『中級』の打席へと入って行く。
「はいぃ、ほうりゃー」
変なかけ声と共に、ジミ子はバットを大きく振るう。
20球を打ち、空振り6割、当たり損ないが3割、そこそこ飛んだのが1割くらいだろうか。
あまりのヒットの無さに、ジミ子はもう10球ほど追加してみたが、この打率はほとんど変わらなかった。
「まあ、こんなもんね」
汗を掻きながら、ちょっと悔しそうな顔でジミ子が戻ってくる。その様子をみて、キングが僕に言った。
「俺たちは無理せず『初級』にしようぜ」
「うん、そうだね」
僕たちは隣の『初級』のコーナーへと移動する。
次にキングが挑戦をする。『初級』は『中級』と比べると、明らかに遅い。速度計を見ると、90キロ前後のボールが飛んでくるようだ。
「どうだ、次はここか…… やっぱりゲームと違って難しいな」
運動神経は悪いが、反射神経は良いキングは、バットにボールを次々当てていく。
そのたびに、ベシッ、ゴッと鈍い音が聞えて、ボールはあまり遠くまで飛んでいかない。バットの芯であてるのは難しいらしい。
空振り3割、ゴロみたいな当り5割、ヒットが2割くらいの割合だ。
「次はツカサだな」
キングにバットを渡され、僕は打席に入る。
僕は、あまり大きな振りはせずバット短く持ち、当てる事に集中した。
「あれ、やっぱり、難しい」
空振り2割、たいして飛んでいない凡打が5割、かろうじてヒットに近い当りが3割くらいだろうか。
当てる事に集中したので空振りは減ったが、非常に凡打が多く、実戦だとかなりの確率でアウトになってしまうだろう。
僕の番が終わって、次は誰が打つのかと、振り返ってみると、レオ吉くんが目を輝かせて待ち構えていた。
僕はレオ吉くんにバットを渡し、様子を見守る。
かなり大きく足を開き、高めにバットを構えるレオ吉くん。フォームだけなら大リーガーのスラッガーの様だが、野球の経験はあるのだろうか? 僕は心配になり声をかけた。
「レオ吉くん、大丈夫なの?」
「テレビでベースボールは見たことがあります。大丈夫ですよ」
ボールがピッチングマシンから放たれると、レオ吉くんは思いっきりバットを振った。清々しいまでのフルスイングだ。
ただ、素人がフルスイングでボールを当てるのは難しい。バットはむなしく空を切る。
「なるほど、わかりましたよ。次はこうです!」
レオ吉くんは次もフルスイングで空振りをする。何が分ったのかは不明だが、その様子は、笑顔でとてもたのしそうだ。ちなみに次も、その次も、全てフルスイングだった。
結果として、空振りがほとんど、大当たりが1割くらいと、かなり偏った成績となった。
「いやあ、これは楽しいですね」
成績は良いとは言えないが、本人が楽しめた様なので、これはこれでOKだろう。
「最後は私の番ね。このパーカーの効果をみてなさい!」
そう言ってミサキが『上級』の打席に立つ。
首があまり回らないので、ピッチングマシンを正面に見て、かなり変わったバッティングフォームになった。
「うりゃあ、てりゃあ、そりゃあ」
滅茶苦茶なフォームでバットを振るうのだが、持ち前の運動神経だけでボールを当てに行く。
結果は、空振り4割、当り損ない3割、ヒット性の当り3割と、そこそこの成績を残す。
「ふふん、どうよ私の成績は」
得意気なミサキに、ヤン太が思わず突っ込みを入れた。
「そのパーカー、着けない方が良いんじゃないか? フォームが変になってたぞ」
「な、なにを言うの。今日はこのパーカーの性能を試しに来たんでしょ! このパーカーを着てないと意味がないじゃない!」
ちょっと興奮気味のミサキに、ジミ子が冷静に言う。
「そのパーカーが野球で役に立つのは、デットボールと自打球くらいなものじゃない?」
自打球とは、打ち損ないのボールが自分の体に当る事だ。プロ野球などでたまに起こる事もあるが、めったに見られるものではない。テストをする為に、狙って出来るような物ではないだろう。
「うーん、言われてみると、そうね…… 分ったわ! こうすれば良いのね!」
そう言ってミサキはプロ並みの『超上級』の打席に入って行った。
ミサキは『超上級』の中に入ると、スタートボタンを押し、ホームベースの上に、腕を組んで仁王立ちになる。
やがて150キロを越えるボールがミサキに襲いかかる。
ベチ。鈍い音を立てて衝撃が吸収され、ボールは真下に落ちる。
「どうよ。全然痛くないわ! コレがこのパーカーの真の性能なの!」
得意気にドヤ顔をするミサキ。続いて2球目、3球目と、次々とミサキに襲いかかるが、どれもノーダメージだ。
たしかにパーカーの性能は最大限に発揮されているが、これは楽しいのだろうか?
そんな事をしていると、店の係員に見つかった。
「そこの人、なにをしているんですか!」
「性能テストです! 今日発売された、このパーカー、知ってますか?」
ミサキがなぜか勝ち誇ったようにパーカーを自慢する。すると、係員の人が色々と察してくれたらしい。
「ああ、お昼の番組でやっていた、あのパーカーですね。痛くないんですか?」
「全く平気です、痛くありません!」
「そうですか…… ええと、まあ、気をつけてテストして下さい」
面倒だと判断したのか、係員さんは去って行った。確かにこんな奇行を取る人物と、あまり関わりたくないだろう。
やがて20球を耐えきると、ミサキはさらに10球を追加する。
「まだやるの?」
僕があきれてながら言うと、ミサキはこちらを振り向いて答える。
「この偉大なパーカーを、もっとテストしないといけないわね」
こちらを向いている間も、ベチッ、ベチッと鈍い音を立てて、ミサキの背中にボールが当っていたのだが、突然スパァンと、とても良い音がした。次の瞬間、ミサキがお尻を押さえてしゃがみ込んだ。
「いったぁ、なにこれ、すごい痛い!」
よそ見をしていた時に、どうやらパーカーではない場所の、お尻にヒットしたようだ。
ミサキはしばらくしゃがみ込んでいたが、動けるようになると、トボトボと打席から外に出る。
宇宙人の技術でも、無い場所は防げない。過信と不注意が事故に繋がる事を、身をもって証明してくれた。
ちなみにお尻は痛いだけで、怪我はなかったらしい。




