無敵の服 2
ジミ子はポロシャツを、レオ吉くんはレインコートを、ミサキは耐衝撃、耐熱素材のパーカーを買った。
買い物を済ませ店を出ると、ミサキはさっそくパーカーを身につける。
「どう? これで私は無敵になったわ!」
ドヤ顔のミサキに、思わずヤン太が突っ込む。
「どこが無敵なんだよ、そんな服で無敵になる訳がないだろ……」
「いいえ、私が無敵と言ったら無敵よ。試しに攻撃してみてよ、効かないから」
「おっ、じゃあ、軽めに殴ってみるか」
「軽めじゃなくて、思いっきり殴って来なさい」
ミサキが肩幅くらい足を開き、胸を張って構える。
ヤン太が腕を大きく振りかぶり、お腹のあたりを力強く殴った。
ベチンと鈍い音がして、反動でミサキは少し後ろに下がったが、どうやら痛くはないらしい。
「ふふん、効かないわ。残念でした」
ますますドヤ顔をしてヤン太を挑発する。
「軽くゲロを吐くぐらい殴ったんだが…… じゃあ、次はこれだな」
ヤン太はミサキの手を取ると、関節が曲がらない逆方向に絞り上げた。『孤高のグルメ』という漫画で見たことがある、なんとかアームロックという技だろう。
「いたっ、いたた、ちょっと関節技はやめて、ほんとうに痛いから」
「注文が多いな、その服は関節技には効果が無いみたいだな」
ヤン太が手を離すと、ミサキが真剣な顔で訴える。
「打撃よ、打撃技に関しては無敵なのよ!」
「それなら私が攻撃しても良い?」
ジミ子がそんな事を言い出した。
「もちろん、いいわよ。どこでも良いからかかって来なさい。ただし打撃でね」
ケンカの強いヤン太が殴ってノーダメージだったので、力が弱いジミ子が攻撃しても全く平気だろう。
そう思っていたのだが、ジミ子はミサキに近寄ると、向こう脛、いわゆる弁慶の泣き所を、つま先でコツンと軽く蹴った。もちろんミサキが着ているのはバーカーで、下は普通のズボンしかはいていない。
「はうぅっ」
そういってミサキは向こう脛を両手で押さえてしゃがみ込んだ。
しばらくジッとしていたが、やがて涙目でジミ子に文句を言う。
「ちょっと、パーカーの上から攻撃してちょうだいよ」
「どこでも良いっていったじゃない。無敵じゃなかったの?」
「こ、言葉のあやよ。バーカーの部分は痛くないって話だから」
やはり、パーカーを着るだけでは無敵にはなれないらしい。まあ、上着の部分だけなので、当然と言えば当然だ。
僕がそれとなく感想を口にする。
「やっぱりその服、必要ないんじゃ……」
「そんな事はないわ。きっと役立つ場面があるはずよ。キングお願い、この服が役に立つ、何か良い場所を見つけてよ」
「また無茶なリクエストを…… まあ、一応は調べてはみるぜ」
ミサキに言われて、キングがスマフォで調べ物を始めた。
しばらくして、キングは僕たちに言う。
「うーん、スポーツのレクリエーション施設の『スポッチャン』はどうだ? あそこなら色々と試せるだろう」
「『スポッチャン』ってなんですか?」
レオ吉くんが不思議そうに聞く。全く知らなそうだ、僕が説明をする。
「『スポッチャン』っていう場所は、色々なスポーツが楽しめる、大型のレジャー施設だよ。バスケやバレーボール。ボーリングやビリヤード、あと、カラオケやマンガ喫茶が楽しめるんだ」
「ボクはボーリングとかビリヤードとかをやった事が無いんですよ、行ってみたいです」
レオ吉くんが興味を持つと、ミサキはすっかりその気になった。
「いいわね『スポッチャン』でこのパーカーを試してみましょう。でも、ちょっと、その前に暑いから脱ぐわ」
ミサキはパーカーを脱ぐと、それを再びしまい込んだ。短時間しか着ていないが、かなり汗をかいていた。
この服は夏に着るのは向いていない。やはりこの買い物は、無駄遣いだったんじゃないだろうか……
レオ吉くんのバイクに牽引される事、およそ15分。僕たちは目的の場所へと着いた。
5階から6階建ての、大きな倉庫のような建物を見上げて、レオ吉くんが言う。
「かなり大きいですね、この中で色々なスポーツができる訳ですか」
「うーん、スポーツ半分、遊びが半分ぐらいかな」
僕が、そう答えながら、案内板を指し示す。
そこには、先ほどあげた競技の他に、バッティングマシンやダーツ、卓球やバトミントンやフットサルといった種目が書かれている。
案内板を真剣に見つめながら、レオ吉くんが言う。
「この施設、良いですね。月にはレクリエーション施設がなくて、運動不足の人が多いですし、月に出店してもらえば人気が出るかも……」
真剣なレオ吉くんにミサキが話しかける。
「疲れたらカラオケとかすれば良いから、一日中でも遊べるよ。そういえば、レオ吉くんの好きな歌はなに?」
するとレオ吉くんは困った顔で答える。
「ええと、ボクはあまり歌を知らないんですよ。動物から人になった時に、生きて行く上で必要な、一般常識なようなものは刷り込まれるんですが、そこに音楽に関する知識はありません」
「だったら、これからたくさん音楽を聞いて、好きな曲を探さなきゃね。私がたくさん歌うから、その中から選んでも良いよ」
そう言ってミサキはニッコリ笑う。
「そうですね。時間のあるときに、色々と勉強して、好みをさがしていきたいと思います」
レオ吉くんも笑顔で返事をする。
宇宙人は音楽を、必要のない知識だと認識しているようだ。
確かにレオ吉くんの振る舞いを見ていると、あまり必要のないものなのかもしれない。
乗り気のミサキとレオ吉くんを先頭に、僕たちは『スポッチャン』の中へと移動をする。




