無敵の服 1
第34回目の改善政策が発表された日の午後、ミサキが突然「自転車で出かけよう」という話をし出した。
仕方がないので、レオ吉くんはバイクで、僕たちは空飛ぶ自転車で集まった。
「今日はどこへ行くつもりなんだよ」
ヤン太が聞くと、ミサキはこう答えた。
「『ワーク・ウーマン』に行きたいの」
「『ワーク・ウーマン』って、あの作業着とかを売ってるお店?」
僕が確認をする。『ワーク・ウーマン』は作業着を売っているチェーン店だが、そんな場所に僕らが用があるとは思えない。
念のため確認をすると、ミサキは胸を張って答える。
「ええ、その『ワーク・ウーマン』よ。たしか自転車で行ける範囲にあるはずよ」
キングがスマフォで最寄り店を探す。
「ああ、まあ、行けないことは無いが、ちょっと遠いな」
「ボクのバイクで牽引するので、多少の距離は平気だと思います」
レオ吉くんがそう言うと、ヤン太がその気になったようだ。
「何が欲しいのか知らないが、とりあえず行ってみるか」
空飛ぶ自転車に乗って、僕たちは店に向った。
空中を牽引してもらう事、およそ20分。僕たちは『ワーク・ウーマン』の店の前に着いた。
店の雰囲気はとても地味で、服を扱っているというよりは、ホームセンターのような印象を受けた。
大きさは、コンビニの2~3倍くらいで、あまり大きいとは言えない。服といえば『ファッションセンターしまぬら』を思い出すが、だいたい半分くらいしかなさそうだ。
僕たちはミサキを先頭に、店の中へと入っていく。
作業着の店なので、普通の店には無い、ちょっと特殊な装備も売られてた。
ヘルメット、地下足袋、軍手やゴムの手袋、変わった所では、交通整理に使う、赤い光る棒が売られていた。
ミサキが、その光る棒を手に取り、こうつぶやいた。
「これって1273円で買えるのね、以外と安いわね」
「そんな物を買いに来たの? 買っても間違いなく使わないでしょう?」
ジミ子があきれた表情で言うと、ミサキはあわてて反論をする。
「ち、ちがうわよ。今日は他の物を買いに来たんだから」
そう言って何かを探し始めた。
キングが店の奥の方を指さして言う。
「おっ、こっちの方にカジュアルな服があるぜ」
僕らは作業着には興味がないので、そちらの方へと向った。
カジュアルな服のコーナーには、ジーンズやポロシャツ、スニーカーなど、普通の衣類も置いて有った。
ヤン太がポロシャツを手に取り、値札を見て言う。
「これ、安いな。780円だってさ」
「なんですって! ちょっとみせてよ! あっ、ちゃんとした品が置いてあるわね」
ジミ子がヤン太からポロシャツを奪い取るようにして、品質をチェックする。
ポロシャツは飾りも何も無く、とても地味だが、使い勝手はよさそうだ。ジミ子が服を漁りはじめた。
ここは普通の服だけでなく、ちょっと変わった服も置いて有る。
レオ吉くんが雨具のコーナーで、何かを物色している。
僕が質問をする。
「レオ吉くん、何かをさがしているの?」
「レインコートが3000~4000円で売られていますね。雨具はこちらでバイクを乗る時に必要だと思うので、サイズが合えば買っておこうかと思いまして」
レオ吉くんが説明してくれたが、何か違和感を覚えたのか、キングが横から質問をする。
「あのバイク。月でも乗っているんだよな?」
「ええ、こちらに来る時は『どこだってドア』で、バイクごと転送して来ています」
「雨具を持っていないなら、月で雨が降った時はどうするんだ? ずぶ濡れじゃないか?」
「ええと、月の住人は、ほとんど雨具をもっていないと思います。雨は深夜にしか降らないので平気なんですよ」
レオ吉くんがちょっと変な事を言い出した。
事情がよく分らないので、さらに詳しく聞いて見る。
「雨は深夜にしか降らないって、どういう事なの?」
「ああ、それはですね。月面の住居って、ドームの中にあるじゃないですか。ドームにはスプリンクラーみたいなものが設置されていて、定期的に雨を降らせるんですけど、その時刻は深夜の3時から1時間と決まっているんですよ」
「そんな時間じゃ、誰も外に居ないよね」
「ええ、そうですね。それなので、雨具を持っている人は、かなり変わっている人しか居ませんね」
そうか、月の住人は梅雨に悩まされたり、急な夕立に悩まされる事もないわけか。
ちょっとうらやましい環境だ。
レインコートは、レオ吉くんの体に合うサイズがあるのか心配したが、サイズは5Lまで揃っていた。
3Lのサイズでも、体は収まったが、すこし大きめの4Lを僕は進める。
下に服を着込むので、余裕があった方がいいだろう。雨具に馴染みの無いレオ吉くんは、そこら辺の事がよく分らないみたいだった。
「あっ、ここにあったわ」
ミサキが目的の物を見つけたらしいので、その場所に向う。
そこは、宇宙人の技術をつかったグッズ売り場だった。
『落下遅延装置つきのベスト』、『牽引ビーム発生装置』、『重力遮断装置つきのジュラルミンのケース』、そんな物が並んでいる中で、新製品が展示されている。
それは、先ほどの改善政策の番組で説明されていた、『耐衝撃、耐熱素材のパーカー』と、『切断バンド』の2点だった。
もちろんミサキはパーカーの方を手に取った。切断バンドは誰も欲しがらないだろう。
「これよ、これ。これを着れば、私は無敵になれるのよ」
そう言って、新製品のパーカーをレジに持って行って購入する。
お値段は、福竹アナウンサーが値下げをしたので『6800円+消費税』と、そこまで高い商品ではないが、それは果たして僕らに必要な物なのだろうか?
役に立っている場面が、全く想像できない。




