第34回目の改善政策 2
今回の改善政策の内容は『安全対策』らしい。
衝撃や熱から身を守る『防御服』と、まきこみ事故から命だけは守る『切断バンド』という物が発表された。
まだまだ安全対策のアイテムがあるらしい、宇宙人があらたな機械を出してきた。
それは、デコボコとした突起の付いた、球状の物体だった。球の大きさはかなり大きく、2メートルくらいはありそうだ。
「これは…… なんでしょうか? 機械だという事は分かりますが、何をする機械だか、全くわかりません」
福竹アナウンサーがそう言うと、宇宙人はこう答えた。
「コレは、掘削機ネ。鉱山や炭鉱で使う機械ダヨ」
「おお、なるほど。そう言われて見ると、このデコボコとした突起が、掘削用のドリルに見えてきました。どのように動くのでしょう?」
「ココでは実演できないカラ、VTRを用意したヨ」
そういってテレビはVTRに切り替わる。
VTRが始まると、そこは暗い洞窟のような場所で、頭に懐中電灯をつけたヘルメット姿の姉ちゃんが現われた。
マイクを片手に、姉ちゃんの実況が始まる。
「掘削機の試験の為に、北海道のタ張炭鉱にやって来ました。さっそく試験を開始したいと思います。では、スタート!」
そう言うと、球体がヴゥンとうなり、ほんのり光り出すと、ズリズリと這うように動き出した。
球体は突起物をグルグルと回転させ、岩を削りながら進む。その後ろを付いていきながら、姉ちゃんが解説をする。
「この掘削機は、時速、およそ100~200メートルの速度で掘削ができます。削り取った利用価値のある鉱石は、機械に内蔵されている小さな『どこだってドア』を経由して、地上に送られます。利用価値のない石の部分は、固めて柱や壁や天井として利用し、残された空洞を補強します」
VTRは、掘削機の通った後を映し出す。
そこには、コンクリート製の柱で補強されている様な通路があった。
姉ちゃんは引き続き、この掘削機の売り込みをする。
「この小型の掘削機で、およそ700名の炭鉱夫と同じ作業量をこなせます。興味のある方は、プレアデスグループ会社の方まで、お問い合わせをどうぞ。お待ちしております」
ここでVTRが終わり、カメラがスタジオに戻った。
「いやあ、凄い機械ですね。掘削速度が100~200メートルって、とても早そうなんですが、他の機械と比べてどうなんでしょう?」
福竹アナウンサーと宇宙人に質問をする。
「場所や種類にもよるケド、この国の鉱山ダト、一ヶ月で20~25メートル掘るみたいネ」
「すると、この機械は1時間でおよそ5~10ヶ月分の仕事をするわけですか…… すざまじいですが、こんな機械を導入すると、鉱山関係者の人たちが、全員リストラされてしまいそうですね」
「ソレが狙いネ、人間を徹底的に排除するヨ。炭鉱や鉱山は、死亡事故が特に多いからネ」
福竹アナウンサーが、ちょっと渋い顔をしながら言う。
「まあ、『排除』という言い方に問題はあると思いますが…… その通りかもしれません。炭鉱や鉱山では100人単位で死者がでるような、大きな事故が起こりますからね。人間を排除できるようなら、排除した方がいいですね」
確かに福竹アナウンサーの言う通りだ、あんな暗くて狭い場所で、事故が起こると想像するだけでゾッとする。
「危険な仕事デモ、人間を排除できない仕事もあるヨ。そういう仕事には、ワレワレが個別に安全対策をするネ。サンプルを一つ持ってきたネ」
宇宙人がそういって合図をすると、ロボットが大きな物を持ってきた。
座り心地が悪そうな、硬そうなシート。上部はガラスのような透明なフードで覆われていて、周りは金属板で保護されている。見た目は、戦闘機のコックピットだけを切り取ったような装置だった。
「これは、何かの操縦席ですか?」
「ソウネ。重力遮断装置つきのF1のコックピット部分ネ」
どうやら宇宙人が、レースカーの安全装置を作ったようだ。
「おお、これがF1のコックピットになる訳ですね」
福竹アナウンサーが興味津々で、宇宙人の装置を覗き込む。
「乗りたいなら、乗ってみるカネ?」
「えっ、良いんですか? 私なんかが高価なF1のマシンに乗ってしまっても?」
「大丈夫ネ。コレは安全装置だけで、高価では無いネ」
「じゃあ、ちょっと失礼します」
そう言って、福竹アナウンサーはコックピットに乗り込む。その様子は、かなり窮屈そうだ。
コックピットに納まった福竹アナウンサーは、上機嫌で、宇宙人に質問を開始した。
「このコックピットに乗っていれば、安全なのですよね?」
「ソウネ。このコックピットは周りの重力を遮断して、事故を起こしても、その衝撃を内部に伝えないネ」
「F1レースではドライバーにものすごいGが掛かるという話ですが、それも伝わらないのでしょうか?」
「全く伝わらないネ。実際にテストをしてみるヨ」
そう言って、宇宙人はコックピットの透明なフードを閉めた。
宇宙人が合図を送ると、ロボットが何体かやって来て、福竹アナウンサーの乗ったコックピットを神輿のように担ぐ。そして、激しく揺さぶり始めた。
その様子を、中にいる福竹アナウンサーが実況をする。
「コックピットの中は全然揺れてませんが、外の風景が激しく揺れています。これは、少し酔いそうですね」
「もっと過酷なテストもするネ」
そういって宇宙人がロボットに次の合図を送った。
この番組は、必ず明石市立天文科学館の展望室から中継される。
もちろん展望室というからには、周りが見渡せるような、かなり高い場所にある。
ロボットは、その窓を、大きく開け放つと、福竹アナウンサーが乗ったコックピットを、一瞬の迷いも無く、窓から放り投げた。
「ちょ、ちょっとまっ、いやぁぁぁぁ……」
悲鳴が上がった後に、何も聞えなくなると、宇宙人は冷静に言った。
「落下地点には、何もない事は確認してあるから、特に心配いらないネ」
……いや、ちょっとは福竹アナウンサーの心配もして欲しい。
宇宙人と番組スタッフは、エレベーターで地上へと降りていく。
地上に降りると、コックピットがごろんと横になっていた。ロボットがそれを起こして、宇宙人がハッチを開ける。
「どうだったカネ?」
「いや、衝撃とかは何も感じませんでしたが、地面が目も前に迫ってきて、ものすごい恐怖でした」
「これなら衝突事故が起こっても平気デショ」
カメラが画面を上に向け、落とされた展望台の部分を映し出す。
ざっと50メートルくらいの高さはありそうだ。
「ええ、平気でしょうね。あの高さから落ちて、まるで振動を感じないのですから。ただトラウマになりそうな体験です」
「ソレナラ、この体験の記憶を消去するカネ?」
「いえいえ、トラウマとは言ってはみたものの、そこまでではないですね。たいしたことないので、気にしないで下さい」
記憶をイジるとか、サラッと怖い事を言われて、福竹アナウンサーは話をごまかした。
宇宙人は何を考えているのか分らない時がある。
確かに、本当にトラウマになるようだったら、サッパリと忘れてしまった方が良いのかも知れないが……
福竹アナウンサーが時計を見て、慌てて言う。
「おっと、そろそろお時間です。みなさん、アンケートのご協力をよろしくお願いします」
あんな目にあったばかりなのに、キッチリと仕事をこなす。
アンケートの画面が出て来たので、僕は「今週の政策は『良かった』」「宇宙人を『支持できる』」に投票する。
やがてアンケートの解答が出そろって、結果が表示された。
『1.今週の政策はどうでしたか?
よかった 77%
悪かった 23%
2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?
支持する 83%
支持できない 17%』
福竹アナウンサーが、この結果を見て、番組のまとめに入る。
「今週の『安全対策』という内容はよかったのですが、あまり支持の数字が良くないのは、おそらく『切断バンド』のせいでしょうね。あれはショッキングでした」
「手足なんて、失っても再生させれば良いじゃナイ」
「いやぁ、なんと言おうか、そんな簡単に割り切れませんよ。ちょっと前までは、手足を失ったら終わりでしたからね。さて、今日はそろそろお別れの時間です、また来週お会いしましょう」
「マタネー」
こうして今週の改善政策も、無事に終わった。
一部の装置に問題はあると思うが、基本的には良い政策だったと思う。




