第34回目の改善政策 1
「こんにちは。第34回目の改善政策の発表です。今日もよろしくお願いします」
「ヨロシクネー」
お昼になり、福竹アナウンサーと宇宙人が挨拶をする。
今週はどのような政策が発表されるのだろう。そう思っていたら、福竹アナウンサーは、先週の改善政策の話題に触れる。
「先週の番組で発表した『若返りの薬』は、とても好評ですね。既に国民の9割くらいが摂取したらしいですよ」
「ソウネ。今までワレワレに否定的だった人も、摂取してるみたいネ」
「まあ、そうでしょうね。若返りとあれば、使わない手は無いでしょう」
「今日の改善政策は、長くなった寿命に関係する、内容ネ」
「それは、どのような内容なのでしょうか?」
「これネ」
そう言って宇宙人がテロップを出す。そこには『安全対策』と、大きな文字で書かれていた。
「『安全対策』と言うと、工事現場などでよく掲げてある、事故に対して注意喚起を呼びかけるものですよね」
「ソウネ。寿命と病気は、ワレワレの作った薬により消滅したカラ、あとは事故さえ気をつけていれば、半永久的に生きられるヨ」
「なるほど、その通りです。これから人類は事故に対して、これまで以上に気を配らなければいけませんね」
宇宙人の意見に、福竹アナウンサーが深くうなずく。
確かに宇宙人の言う通りだ、事故にさえ気をつけていれば、これから人間は死ぬ事は無くなるのだから。
「『安全対策』というテーマは分りましたが、具体的にはどうするんですか?」
福竹アナウンサーが詳しい話を聞き出す。
「様々なパターンがあるから、様々な対応策を用意する必要があるネ。基本的には『危険には近づかない』のが一番だけどネ」
「なるほど、確かにそうですね。考えられる危険と言えば…… 交通事故に関しては、宇宙人さんの事故防止システムで劇的に減りましたね。仕事に関しては、どうするのでしょう? これからは、危険な仕事はロボットだけにやらせるのですか?」
「ソウネ。本当に危険な仕事はロボットにやらせるのが理想だネ。でも、そんなに危険でない仕事には、ワレワレが『防御服』や『防御システム』を用意したから、そこまで心配しなくて大丈夫ネ」
「それは、どのような服やシステムでしょう?」
「服はコレネ」
宇宙人がそういうと、半透明のビニールみたいな服を着た姉ちゃんがやってきた。
服はフード付きのパーカーのような形をしており、中に空気の層があるのか、ダウンジャケットの様に、ちょっとだけ膨らんでいる。
姉ちゃんは、福竹アナウンサーに、両手で扱うような、大型ハンマーを渡して、こう言った。
「これで思いっきり私を殴ってみてください」
どうやらこれから番組内で、耐久テストを実演するらしい
「人を殴るなんてそんな事できるわけが…… 握り方はこんな感じですかね?」
嫌がる素振りを見せつつも、ハンマーを手に取り、それっぽく構える福竹アナウンサー。
このやり取りは、なぜかショッピング番組のやり取りを思い出してしまう。
「体のどこでも構いませんよ、ガツンと殴って下さい。頭でも構いません」
「流石に頭はやめておきましょう。では、お腹のあたりを全力で行きます!」
姉ちゃんに言われて、福竹アナウンサーは、全力でハンマーを打ちつけた。姉ちゃんは、反動で少し後ろによろけたものの、ダメージは全くなさそうだ。平気な顔をして、カメラ目線で言う。
「平気ですね。福竹さん、今度は拳で殴ってみて下さい」
「では失礼して。おっ、なんだかブヨブヨのクラゲを殴ってるみたいですね。手応えがありません」
「ええ、そうです。この服には衝撃を吸収するゼリーのような物が入ってます。このゼリーは断熱性もあり、バーナーなどの高温の炎にさらされても平気です」
「そうですか。今回の服は、なんと言おうか、ずいぶんと見た目がスッキリしてますね」
福竹アナウンサーが、あらためて半透明の服を見て言った。姉ちゃんはちょっと得意気に答える。
「そうですね。今までは何かと大げさになる事が多かったので、今回はシンプルにまとめてみました」
「なるほど。では、お値段もシンプルにまとまっていますよね? お幾らでしょう?」
ここから福竹アナウンサーの値下げ交渉が始まり、このパーカーのような服は6800円まで値が下がった。
これなら僕でも買える。まあ、買ったところで、この服の使い道はないのだが……
商品の実演が終わると、今までは黙っていた宇宙人が口を開く。
「他にも、機械の間に体を挟み込まれる『巻き込まれ』という事故に、対応する装置も作ったヨ」
「それはどのような装置ですか?」
福竹アナウンサーが宇宙人に質問をしようとすると、姉ちゃんが話に割り込んできた。
「では、私はここで失礼しますね。次の実験用にマネキンを置いておきます」
そう言って、マネキン人形を置くと、画面の外へと消えていった。
「ええと、話が中断してしまってすいません、もう一度、質問をします。『巻き込まれ』に対して、どのような装置を作ったんでしょうか?」
「コレネ」
そういって宇宙人が取り出したのは、テニスで汗を拭く、リストバンドのような物だった。
「これは、なんでしょうか?」
「『切断バンド』ネ。手足に着けて、体が『巻き込まれ』るのを阻止するネ」
「なるほど、服が引っかかったりした場合に、素早く切断して、致命傷になるのを防ぐ訳ですね」
「ソウネ。実験してみるネ」
姉ちゃんの置いていったマネキンは、作業着を着ていた。
宇宙人は、この『切断バンド』を、手首の部分と、二の腕の部分に取り付けた。
次に、ロボットが、どこからともなく、巨大な歯車のついた装置を持ってきた。
これで『巻き込まれ』を再現するのだろう。スイッチを入れると、歯車は回りだし、シュレッターで粉砕するような凶悪な動きをする。
「テストするネ」
そういって、宇宙人がマネキンの手を歯車に近づける。
本来なら、マネキンの服だけを、歯車に巻き込まなければいけないのだが、宇宙人は乱暴にマネキンの指を突っ込んだ。
するとバキバキと音を立て、マネキンの手が巻き込まれて粉砕される。そして、衝撃に耐えきれず、手首の部分から、ポロッとマネキンの手が取れてしまった。
「こんな感じで取れるネ」
「いやいや、それでは結果がよく分りません。もう一度、ちゃんと実験をお願いします」
「分ったヨ」
二度目も宇宙人は乱暴にマネキンを突っ込んだ。
バキバキと音を立てて、今度は手首から砕かれていくマネキン。すると、二の腕の部分からポロッと腕が落ちた。
「こんな感じで取れるネ」
「えっ、いや、腕が取れてるじゃないですか。これはマズいですよ」
「腕が取れるのが、そんなにマズいのカネ? 腕ならワレワレの再生医療で再びはやせるから問題は無いネ」
カメラはマネキンの二の腕の部分をズームアップする。すると、レーザーで切り取ったように、スッパリと綺麗に切断されていた。
どうやら、『切断バンド』とは、手足そのものを切断するバンドらしい。
まあ確かに、手足を失っても、また生やす事ができるわけだが、これはどうにかならなかったのだろうか……
苦笑いを浮かべながら、苦しい言い訳をする福竹アナウンサー。
「ま、まあ、確かに、これなら命だけは助かりますね」
「そうデショ。他にも色々と装置を作ったヨ」
宇宙人がそういうと、なにやら大きな機械が運び込まれてきた。
番組は、まだまだ続く。




