サイクリングと国王 6
僕とレオ吉くんとミサキは、市民プールへと向う。市民プールまでの距離はおよそ3.5キロメートル。
小学生の頃は、自転車で30分近く掛かっていた気がするが、今だと空飛ぶ自転車で13分そこそこしか掛からない。
自転車を漕ぎだして、上空に出ると、レオ吉くんが言う。
「牽引しましょうか?」
「うーん。そうだね、お願い」
僕がお願いをして、ミサキと二人を引っ張ってもらう。
すると、およそ9分で市民プールに到着した。昔は時間がかかっていたが、今はこんなに早く着くようになった。
300円で入場券を買い、僕らは中に入る。
そして更衣室に入ると、僕らは服を脱いだ。
水着は家で着てきたので、上着を脱ぐだけで、すぐにプールへと行ける。
「ちょっとまって、今、着替えるから」
ミサキが大きなバスタオルをポンチョのようにかぶり、中でごそごそと着替えをする。
手慣れた様子で素早く水着に着替えると、バスタオルをロッカーに投げ込み、僕らを急かす。
「さあ、行きましょう。しかしツカサのその水着は、やっぱり凄いわね」
「あんまりジロジロみないでよ。それじゃあ行こうか」
僕らはプールサイドに移動した。
この市民プールには、プールが3種類ほどある。
ひとつは幼児用の小さなプール、これは水深が30センチほどで、ひざ下くらいしかない。幼稚園とか小学生の低学年が遊ぶ場所なので、僕らには関係ないだろう。
二つ目は、遊戯用のプール。水深は1メートルくらいで、小学生から大人まで、たくさんの人が居る。子供たちは水を掛けあって遊んでいたり、浮き輪をつかって浮いていたりと、ここではみんなが自由にプールを楽しんでいる。
三つ目は、競技用のプール。水深は1.5メートル程で、子供は足が届かない。ここは本格的に泳ぐ人向けのプールと言っても良いだろう。
「おおぅ、ここがプールですか。楽しそうですね」
目を輝かせて言うレオ吉くんに、まずはプールに入る準備を教える。
「プールに入る前に、やる事があるんだ。まずはシャワーを浴びて、汗を流してね」
「分りました。今日は汗をたくさん掻きましたからね。ひぃ、つ、冷たい」
なんの躊躇もなくシャワーを浴びに行ったレオ吉くんは、ビクッとして後ずさりをした。
プールに設置されているシャワーは、なぜかとても冷たい。風呂場のシャワーの感覚でいると、ビックリするだろう。
「ちょっと冷たいけど我慢して、プールにあるシャワーは、ほとんど冷たいヤツだから」
「分りました。それでは、えいっ」
レオ吉くんは大げさなリアクションをして、シャワーを浴びた。肩をすくませ、目を固く閉じ、歯を食いしばる。たかが冷水のシャワーに、そこまで身構えてなくて良いかもしれない。
しばらくしてシャワーを浴び終わった僕らは、周りを見渡す。
「うーん。ヤン太たちはまだ来てないみたいだ。とりあえず遊戯用のプールで遊んでいようか?」
「そうね」「そうですね」
僕たちは水深は1メートルくらいの、遊戯用のプールに入る事にした。
プールに来ると、レオ吉くんはプールサイドに座り、つま先からゆっくりと中に入る。そしてプールの中にしっかりと立ち、やがて肩まで沈むと、こう言った。
「なかなか快適ですね。これなら暑さを凌げそうです」
その緩慢な動作は、まるでお年寄りが温泉に浸かるかのような感じだった。
それを見ていたミサキが、レオ吉くんに勢い良く言う。
「いや、プールは涼むだけじゃなくて、もっと運動する場所だから。そうだ追いかけっこをしよう。私が逃げるからツカサとレオ吉くんが追いかけてきて」
僕とレオ吉くんの返事を待たずに、ミサキは素早く逃げ始めた。
「あっ、待って下さいよ」
そういって、レオ吉は水の中を歩いて追いかけ始める。
スルスルと、泳ぐように、水をかき分けながら進むミサキ。
その後ろを、水の抵抗を無視して、バシャバシャと力強く歩いて行くレオ吉くん。
これではレオ吉くんは、引き離される一方だと思ったが、背が高いのでなんとかなっているようだ。
僕もレオ吉と同じ様に追いかけてもいいのだが、それだと追っ手が二人もいる意味があまり無い。
静かに遠回りをして、ミサキに気づかれないように、僕は潜って待ち構える事にした。
ミサキは独特の水着なので、顔が見えなくても水中から確認できる。
水中で様子をうかがっていると、僕の近くに来たとき、ミサキは後ろを振り返った。おそらくレオ吉くんの位置を確認する為だろう。
水上に出るタイミングとしては、ミサキが見ていない今がベストだ。僕は水上に出ると、大きく手を広げ、ミサキの行き先を塞いだ。すると、前をみていないミサキは僕に向って突っ込んできた。
「あっ、危ない、前を見て」
「ちょ、ちょっと」
「えっ、いきなり止まらないで下さい」
3人はもつれるように水中へと倒れ込む。倒れるときに誰かの手が、僕の胸をムニュっと掴まれて、そのまま「ドボン」と水しぶきを上げた。とっさの出来事なので、これは仕方が無い事だ。
「ぷはぁ」
「そこの3人、あまり危険な行為はしないで下さい」
僕たちは水上に出ると、プールの監視員から注意がされた。代表して僕があやまる。
「はい、すいません」
ミサキが舌を出して言う。
「怒られちゃったね」
「これからはちょっと大人しくしていよう」
僕とミサキがそんな会話をしているとき、レオ吉くんは自分の手を見つめて、ボーッと突っ立っていた。
レオ吉くんがしばらくボーッとしていると、ヤン太とジミ子とキングがやってきた。
ヤン太が僕たちに声を掛けてくる。
「お待たせ。こっちのプールじゃなくて、競技用のプールの方に行って泳がないか?」
「うん、良いよ。レオ吉くんはどう?」
「えっ、あ、はい。それで大丈夫です」
ようやくレオ吉が正気に戻り、僕たちは競技用のプールの方へ移動をする。




