サイクリングと国王 2
レオ吉くんが、大型のバイクに乗ってやって来た。
「皆さん、お久しぶりです。えへへ、ボーナスで、この二輪車を買っちゃいました」
照れくさそうに笑うレオ吉くん。
その周りを僕らが取り囲む。
「すげえ格好いいじゃん」
「空飛ぶバイクって事は最新のモデルか? 最高にクールだぜ!」
ヤン太とキングが褒めまくる。
男子はこういったメカっぽいものが好きだ。もちろん僕も例外ではない。きみどり色のスポーツタイプのバイクは、とてもカッコ良く目に映る。
「格好いいなぁ。でもいつ、免許を取ったの?」
僕が質問をすると、レオ吉くんはこう答えた。
「昨日です。長期休暇に入ると同時に、申し込んでおいた免許の合宿へ行ってきました」
それを聞いて、ミサキがさらに質問をする。
「それって2~3日くらい前よね。大型のバイクの免許って、そんなに早く取れるの?」
「ええ、空飛ぶバイクの限定免許なので、通常とは違い簡単でした。バイクの扱い方と、交通ルールの確認が主な授業の内容でしたね。実技試験もありますが、自転車の乗れないボクがクリアできたので、皆さんなら問題ないでしょう」
「良いわね、私も取ろうかしら」
ミサキが考えなしに言ったので、僕が注意をする。
「うちの高校だと、バイク禁止でしょ」
続いてジミ子も指摘する。
「それに、もし、取る許可が降りたとしても、免許を取るために筆記試験があるわよね?」
すると、レオ吉くんが答えてくれた。
「ええ、交通ルールの試験がありました。『原付き免許』が合格できる程度の知識は必要みたいですね」
それを聞いて、ミサキは謎の自信をみせる。
「交通ルールぐらい、勉強をしなくたって大丈夫でしょ」
すると、レオ吉くんがスマフォを出しながら、こんな事を言う。
「試験勉強の為に入れたアプリがまだ残っています。試しに小テストをやってみますか?」
「やるわ。こんなの楽勝よ!」
ミサキが10問程度のテストをやり始めた。
ミサキが渡されたスマフォでサクサクと問題を解き、レオ吉くんに返す。
「はい、これでどうよ!」
返されたスマフォを見て、レオ吉くんが残念そうに言った。
「10問中、3問が正解です。筆記テストの合格ラインは90点以上なので、これでは不合格ですね」
「正解が3問だけ…… どこが間違っていたの?」
ミサキの質問に、レオ吉くんが分りやすく答える。
「たとえば、この問題の『道路が空いていれば、駐車しても構わない』。これは『○』ではなく『×』が正解です」
「どうして? 空いていれば良いんじゃないの?」
「いえ、道路の通行量に関係なく、駐車した車の右側に3.5メートル以上の余地が確保できない場合、違法駐車になります。他にも出入り口の門の3メートル以内や、横断歩道から5メートル以内では違反ですね」
「えっ、なにそれ? どういう事?」
混乱するミサキの肩に、ポンと手を置いて、ヤン太が言う。
「つまり免許に対して勉強が必要って事さ、そろそろ出かけようぜ!」
先ほどの話だと、合格ラインは90点以上らしい。しかも、出てくる問題は意外と難しそうだ。レオ吉くんと違って、ちゃんと勉強をしないミサキは、いつまでたっても合格できないかもしれない。
「あっ、ちょっと待って下さい。皆さんに渡すものがあります」
出かけようとする僕たちを引き留め、レオ吉くんはリュックサックから懐中電灯のような物を取り出した。
懐中電灯には、輪っかのような金具が付いていて、どうやら自転車に取り付けるタイプらしい。
「ライトなら俺たちの自転車にも付いてるぜ、追加でわざわざ付けなくても良いだろ」
キングが断ろうとすると、レオ吉くんが強く推し薦めてきた。
「まあ騙されたと思って、ハンドルの所に付けて下さい。絶対に役に立ちますから」
「レオ吉くんがそこまで言うなら、付けてみようよ」
僕がそう言って、懐中電灯を付け始めると、みんなもその気になったらしい。
「そうだな」「そうね」「つけてみようぜ」
各自、渡された懐中電灯を自転車に装着する。装着した後に、レオ吉くんが、きちんと装着できているのかチェックをした。
「装着は大丈夫ですね。みなさん、先に行って、空中で待っていて下さい、ボクは後から追い付くので」
レオ吉くんに言われて、ようやく僕たちはペダルを漕ぎ始める。いよいよ出発だ。
空飛ぶ自転車は、走り出しがつらい。
電線など、障害物のない高さまで、自力で上がっていかなければならないからだ。
僕たちは、けっこう急な見えない坂道を、立ち漕ぎで登って行く。
やがてある程度の高さになると、今度は水平に移動するようになる。こうなれば楽だ、障害物も信号も関係なく、真っ直ぐに目的地を目指せる。
僕らは、水平に進み出す高度に来ると、レオ吉くんを待つ為に、いったん空中で止まった。
空中で待っていると、後ろからレオ吉くんが、スイーっとやってきて、僕たちの3~4メートルほど先で止まる。
「ず、ずいぶん、ら、楽そうだわね」
ジミ子が肩で息をしながら言う。
「そ、そうだね。うらやましいね」
僕も息も絶え絶えに答える。
坂道を難なく上がってこれるバイクは、ハッキリ言ってうらやましすぎる。
僕たちの前に出たレオ吉くんは、後ろを振り返って、こう言った。
「先ほどの懐中電灯のスイッチをオンにして、ハンドルから手を離して下さい」
「まだ朝だからライトは要らないよ」
僕がそういうと、レオ吉くんはこんな説明を始めた。
「それ、実は牽引ビームの発生装置なんです。ボクのバイクで皆さんの自転車を引っ張りますから、楽にしていて下さい」
ミサキが訳が分らず、驚いた様子で言う。
「えっ? 牽引ビーム?」
「そうです。ではバイクを牽引モードにして、進みますよ」
レオ吉くんがバイクをゆっくりと動かし始めると、僕たちの自転車も、それを追いかけるような形で動き出した。
どうやらこの懐中電灯に見える装置は、映画『スター・ウォーフ』に出て来た『トラクタービーム』と同じような物らしい。




