大航宇宙時代 6
『木材』が『金』に変わるルートを見つけ、さらに薬の特許料が、年間3201億円入ってくる。
今まで借金生活だったが、所持金が一気にプラスの2兆2137億円になった。
絶好調の『ジミコ・3世』が、さらに所持金を増やそうとする。
「これからが稼ぎ時よ、木材を買いまくるわ」
ジミ子はそういって木材を86万トンを買おうとすると、こんなメッセージが出て来た。
『高級木材の在庫は4万7000千トンしかありません。しかも値段が高騰しています』
前回買った時は、1キロあたり1000円だったが、現在は7000円ほどに上がっていた。
しかし、『金』と比べれば、まだまだ安い。地球上に存在する『高級木材』を4万7000千トン、3兆2700億円の買い物をして、ジミ子は地球を出発する。
2分間の移動を経て、『Proxima b』に着いた。
さっそく売り払おうとすると、宇宙船の人工知能が、こんな提案をしてくる。
『Proxima bにて、現地法人を設立してはいかがでしょうか。現地法人を設立すると、売却の時の値崩れを防ぎ、高値を維持したまま交易品を売ることができます。ただし、法人の維持費が年間100万ω掛かります』
このメッセージを見て、ミサキが言う。
「100万ωって安いの、高いの?」
するとジミ子はすぐに答える。
「安いわよ。前回の16.2トンの木材を売ったとき、43億ωが手に入ったからね。100万ωなんて小銭みたいな物よ。今回は前回の取引量の約2900倍だし、設立した方が絶対に儲かるでしょう」
そういって、ジミ子は迷いも無く、現地法人を設立した。
作ったばかりの現地法人を通して、高級木材を4万7000千トンを売りさばく。
すると、6兆2000億ωの大金が手に入った。
「現地法人作ったけど、前より木材の価格が落ちてたわね。前のレートだと12兆ωくらいいってもおかしくないのに」
強欲すぎるジミ子に、ヤン太が言い放つ。
「まあ、しょうが無いんじゃないか。それだけ量を取引していれば、木材の価格も下がってくるだろう」
「仕方ないわね。じゃあ5兆ωを『金』に変えましょう」
5兆ωは5万トンの『金』に変わり、ジミ子は地球へと進路を取る。
地球に戻ってくると、すぐさま5万トンの『金』を売り払った。
『金の価格が暴落しました。取引価格が3分の1に大幅下落です』
「なんですって! 苦労して持ってきたのに!」
キングがスマフォで調べながら言う。
「これまでの歴史で、人類の生産してきた金の量は、18万3600トンだってさ、そこに5万トンも入れれば価格崩壊もするだろう」
「ま、まあ、そうかもしれないけど……」
ジミ子が売値を確認する。
価格が3分の1に下がったとはいえ、まだグラムあたり2000円くらいする。
5万トンの『金』は、およそ100兆円になった。地球を出る前の借金を引くと、『ジミコ・3世』の所持金は、およそ96兆円だ。
信じられない大金を手にしたジミ子だが、これで満足はしない。
「『高級木材』は売り切れのままなので、じゃあ普通の『木材』で我慢しましょう」
ありったけの木材を買い集め、『Proxima b』へと行き、こんどはプラチナに変換すると、再び地球で売りさばく。
そして、プラチナが終わると、次は銀、その次はパラジウムと、次々と希少金属の価格破壊を起こしていった。
所持金が168兆円を超えたとき、突然イベントが起こった。
ナビゲーターのロボットが、こんな説明をする。
『Proxima bから、貿易船がやって来まシタ。国交を結び、これから地球と正式な貿易が開始されマス』
ゲームの画面には、他の船が次から次へとやって来て、何かの取引をすると、どこかへと飛び去っていくシーンが映し出される。
「マズいわね。ちょっとProxima bの現地法人に情報を問い合わせてみましょう」
そう言いながら、ジミ子が情報を確認する。
すると心配した通り、大々的な交易が始まった事により、Proxima bの木材の価格破壊がおこり、地球でも常識の範囲内に収まるような価格になっていた。
この状態になっても、通常の取引で利益を上げる事は可能だが、いままでのような桁違いの利益を貪る事は不可能だろう。
「困ったわね……」
そう言いながら、取引品の価格リストを眺めるジミ子。
ある程度、リストを読み進めていると、キングがある品目に気がつく。
「あれ? 『観葉植物』の値段が『時価』になっているんだが、どういう事だ?」
「本当ね。何故かしら?」
『観葉植物』にカーソルを合わせると、ナビゲーターのロボットが説明を開始した。
『この惑星では、背の高い植物は非常に珍しいです。販売すれば高値がつくでしょう。しかし、生きたまま販売するには様々な許可が必要です。Proxima bで現地法人を設立している会社でないと、この商品の販売許可は降りません』
「現地法人なら持っているわ。次の商売はコレに決まりね。今度は価格破壊が起こらないように、色んな種類の観葉植物を少しずつ販売しましょう」
まだ貿易が始まったばかりで、他の会社はProxima bに現地法人を持っていないようだ。
この商品は『ジミコ・3世』の独占状態らしく、さらに利益を上げて、所持金は200兆円を越えてしまった。
何度か観葉植物を運んでいると、突然、こんなメッセージが出て来た。
『ジミコ・3世さんの寿命が尽きました。享年134歳デス』
「あっ、お亡くなりになったわ」
自分のキャラに敬語を使うジミ子、まあ、これだけ稼いでいるのだから、敬語でもおかしくないかもしれない。
「寿命が倍に伸びても、ここら辺が限界なんだね」
僕がそう言うと、ジミ子はこう答える。
「そうね。まあ、次に行きましょ、次へ」
ジミ子はキャラの死をあまり気にしてないようだ。
キャラクターの名前が『ジミコ・4世』に変わり、次へ行こうとした時に、こんなメッセージが表示された。
『相続税が支払われました』
「おぅっふ」
所持金を確認したジミ子が、変な声を上げる。
どれだけ減ったのだろうと、僕も確認してみると200兆円を越えていた所持金は、72兆円に減っていた。
「お、おのれ、国税局…… 次は上手く脱税をしてみせるわ」
犯罪まがいの事を言うジミ子だが、確かにこの税金は酷すぎる。もうちょっと安くても良いだろう。
悔しがりながらも、まだ儲けようとするジミ子に、更にダメージを与えるイベントが起きた。
ナビゲーターのロボットが言う。
『Proxima bとの貿易が禁止されまシタ。理由は、地球側が深刻な環境破壊を起こすほど、木材を売り続けた事によります。これまでの貿易の影響で、地球の森林の6割が失われまシタ』
「環境破壊が起こるまでって、そんなに木材を売るのか? 流石にそれは起こらないんじゃないか?」
ヤン太があきれて言うが、キングはそうは思わなかったらしい。
「いや、充分に起こりえるんじゃないかな?」
そう言って、ジミ子の方をチラッと見る。確かに、ジミ子なら環境より金を優先するかもしれない。まあ、これはゲームで、現実とは違うんだろうけれど。
悪い事は重なるもので、更にこんなイベントが起きた。
『Proxima bの現地法人に損害賠償請求が出されまシタ。賠償の内容は、環境破壊です。ジミコ・3世の持ち込んだ観葉植物の一部の、葛や竹やイタドリが、大繁殖して大変な事になりまシタ。損害賠償に応じ、賠償金額を支払いマス』
72兆円あった所持金が、一気に13兆円まで減る。
「お金がぁ、お金がぁ……」
悲痛な声を上げるジミ子。先ほどまでは200兆を越えていたのに、イベントがいくつか起こっただけで、もう13兆円に減ってしまった。
しばらく動揺を隠せなかったジミ子だが、ようやく落ち着いてきた。
「次はどうするの?」
ミサキがみんなに聞くと、ヤン太がこう答える。
「貿易が禁止されたので、『Proxima b』はもうダメじゃないか。ほかの惑星と取引を開始しないと」
僕が思い出しながら言う。
「そうだね、『Proxima b』への時間は、28分が2分に縮まったんだから、今の技術だと他の惑星にだって行けるよね」
キングがスマフォで確認しながら言う。
「次に近かったのは、『Ross 128 b』って惑星だな。16光年先で、『Proxima b』より4倍くらい遠いけど、何とかなるだろ」
「……そうね、新たな稼ぎ方があるはずよね。こうしちゃいられないわ、行動に移さないと」
ジミ子が立ち直って、再びゲームを開始した。
『Ross 128 b』に進路を取り、7分後、新たな惑星へと到着する。
新たな惑星に着くと、ナビゲーターのロボットはこんな説明をしてくれる。
『Ross 128 b へようこそ、この惑星は、暴力と詐欺と犯罪の盛んな惑星です。全てを失うリスクも有りますが、法外な収入が得られるチャンスが転がっていマス』
「やってやろうじゃないの!」
ジミ子は何故かやる気を出したが、この後は、散々痛い目に会うことになった。
詐欺で偽物を掴まされたり、宇宙船のコンピューターをハッキングされて、いいように騙されたりと、13兆円あった所持金が、一瞬でマイナス20兆円にまで落ち込む。
「次こそは儲けてやる……」
ゲームに悪戦苦闘をしていると、かなり時間が過ぎていた。
「今日はここまでにしようぜ」
「そうね。じゃあ、また明日ね」
ヤン太とミサキが話をして、この日は解散する事となった。
家に帰り、姉ちゃんと食事をしているときに、このゲームの話題が出てきた。
「弟ちゃん、どう、あのゲーム?」
「うーん。もうちょっとバランスを調整しないとダメだと思うよ」
「そう? けっこう現実っぽく作ったんだけど、ダメだったのかな? そういえば、このゲームの結果リストを見て、チーフが『マダ、この惑星の住人に貿易は早いかもしれないネ』ってつぶやいていたんだけど、何か心当たりはある?」
「あっ、うん、ちょっとね。確かに早いかもしれないね」
このゲームの中で、地球人は利益優先で、環境破壊などお構いなしだった。
ある程度、自制が効いた上で、商売が出来るようにならないと、惑星間の貿易は難しいかもしれない。
後日、このゲームは正式にリリースされるが、バランスは少しも調整されていなかった。
世間では全く流行らず、せいぜい一部のクソゲー愛好家の間だけで、ちょっとした話題に上がる程度しか、このゲームは知られていない。




