大航宇宙時代 5
「じゃあ、宇宙船を作るわね」
一通り開発を終えた『ジミコ・3世』が、再び宇宙をめざす。
『宇宙船の建造』のボタンを押して、新たに宇宙船を作ると、『ただいま宇宙船を建造中デス。4分ほどお待ち下さい』とメッセージが出て来た。
このメッセージを見て、ヤン太が言う。
「最初は37分、次は14分、今度は4分か、飛躍的に早くなってるな」
「そうだな、このくらいの待ち時間なら、普通のゲームとしても問題が無いな」
キングが建造中の待ち画面を見ながら言った。確かに4分ほどなら待てそうだ。
僕らは少しの間、雑談をして過す。
雑談の話題は、食料開発に出て来たミドリムシに関してだ。
調べてみると、ミドリムシは次世代の食料やエネルギーとして注目されているようだ。
しかし、鮮やかな緑色の液体は、お世辞にも美味しそうには見えない。なにせミサキでさえ食欲が起こらない程だ。もし、この食材が未来の主食になるようだったら、ミサキは苦労せずダイエットが出来るに違いない。
そんな話をしていると、やがて4分が過ぎて、宇宙船が出来上がった。
『宇宙船が出来ました。建造費コストは1400億円でした』
これを見て、僕が言う。
「ずいぶん安くなったね。1船目が8700億円、2船目が3700億円だから、コストも大幅に削減されてるよ」
「そうね、初めからこのくらいの値段で建造できたら良かったんだけどね」
そう言いながら、次にジミ子は『貿易』のコマンドから、希少金属の『金』を100キロ買い、60億円を支払う。これは交易に使う商売品だ。
所持金を確認すると、薬の特許料が、年間3201億円入ってきているので、借金が減って3兆9881億円になっていた。
まだまだ借金はあるが、ピーク時のマイナス7兆9217億円に比べれば、大した事はない。
「じゃあ、一番近い『Proxima b』に出発するわね」
出発すると、『到着まで9分かかりマス。しばらくお待ち下さい』と表示される。
前回は28分掛かっていたので、こちらも驚異的に早くなっていた。
他のゲームで時間を潰す。9分という時間は、あっという間で、「ティロン、ティロン」という効果音と共に、僕は再びコチラのゲームに戻される。
「さて、ようやっと『貿易』が出来るわね」
ジミ子がメニューから『貿易』を選ぶと、こんなメッセージが現われた。
『遠いところからようこそ Proxima b へ。どんな取引をするかね? 買う・売る』
これを見て、ヤン太が感心しながら言う。
「ちゃんと言葉が通じるな」
次にキングがこんなアドバイスをする。
「おそらく、この惑星の独特の通貨があるはずだから、まずは物を売って、現地のお金を手に入れないとはじまらないな」
「分ったわ、じゃあ、『金』を売るわね」
『金』を売り払うと、『540万ω』という通貨を手に入れた。
「さて、これで何が買えるかしら?」
ジミ子が『買う』を選択すると、色々な商品が現われたが、ほとんどが高くて買えない。
どうしようか迷っていると、ナビゲーターのロボットがこんな事を言う。
『この惑星の市場価格を覗いたので、宇宙船に搭載している人工知能の解析が出来るようになりました。人工知能からのメッセージを表示しますか?』
「見てみましょうよ」
「そうね。じゃあ表示をしてみましょう」
ミサキに言われて、ジミ子はメッセージを表示する。
『この惑星は、鉱石に恵まれた惑星のようです。炭鉱の技術も発達しており、地球では希少な金属でも、ここでは二束三文にしかなりません』
「せ、せっかく希少金属を運んで来たのに……」
愕然とするジミ子、しかし人工知能は続いてこんな話をする。
『この星の植物は、藻や苔といったレベルで進化が止まっています。草や木といった背の高い植物は存在しません。したがって木材のような物は、非常に珍しく、売れば大金になるでしょう』
「つまり、地球から木材を持ち込んで、この惑星で売って。そのお金で、希少金属の金や銀やプラチナを買えばいいってわけ?」
「まあ、そうじゃないか」
ヤン太が相づちをうつと、ジミ子はニヤけながら言った。
「木材が金や銀やプラチナになるのね、最高じゃない、このゲーム」
この後、ジミ子はこの惑星で、持ち金の『ω』を使って中古のエンジンを買う。それを宇宙船に取り付けると、速度が190パーセントアップした。どうやらこの惑星の技術は、地球よりかなり進んでいるようだ。
儲ける手段が分ったので、ジミ子が急いで地球へと戻る。
帰りはスピードアップしているので、およそ3分で地球に戻ってきた。
地球に戻ると、こんなメッセージが表示される。
『地球に居なかった期間の、薬の特許料が一括で支払われます』
所持金がマイナス3兆9881億円から、マイナス6726億円に変わり、借金が大きく減る。
続いてジミ子は『貿易』コマンドから、『高級木材』を買いまくった。
「何これ、安すぎる。こんなの無料みたいなものじゃない」
1キログラム1000円と、けして安くない木材を100トン、しめて10億円を支払い。宇宙船の積載量のギリギリ、16.2トンを積み込んだ。高級木材はだいぶ余っているが、単価が安いので、ジミ子はあまり気にしていない。
そして『Proxima b』に向って再び出発する。
『Proxima b』に着くと、ジミ子は到着メッセージを読み飛ばし、速攻で高級木材を売った。
すると『43億7100万ω』のお金が手に入る。
「単位が違ってよく分らないけど、これって凄い金額なの?」
ミサキがジミ子に質問する。
「凄い金額よ、ちょっと見てみなさい」
そういって、ジミ子は30億ωを支払い『金』を買った。すると、30トンもの量が買えたようだ。
ミサキが更にジミ子に質問する。
「ええと、30トンっていくらくらい?」
「地球では1グラム6000円くらいだから、30トンだと、およそ1兆8000億円くらいかしら」
ドヤ顔でジミ子が説明する。
僕の方でもザッと計算してみる。
1キロの木材が、およそ2.7キロの『金』になる。2.7キロの『金』は、1億6000万円に化ける。ボロもうけだ。
「その『金』の量は、宇宙船の積載量を超えてるんだが、どうするんだ?」
ヤン太に言われて、ジミ子が気がつく。
「本当だ、どうしましょうか……」
「現地で船を買ったらどうだろう。まあ、売ってるかどうか分らないけど」
キングに言われて、ジミ子は市場を調べて見る。
すると、さまざまな宇宙船が売られていた。
中古の2億ωの小型船から、最新式の57億ωの大型船まで揃っている。
その中で、ジミ子は所持金ギリギリで買える、11億ωの中古の中型船を買った。
中型船と言っても、全長420メートル。積載量は86万トンを越え、今まで使ってきた宇宙船が倉庫にすっぽりと入る大きさだ。
「じゃあ、地球に帰りましょうか」
ジミ子は今までの宇宙船を倉庫に入れると、地球へと進路を取る。
中古でも、この宇宙船の性能は、地球の船より良いらしい。地球への道のりは、さらに早くなって、およそ2分に縮まった。
地球に到着すると、まず薬の特許料が入ってくる。ここで所持金がマイナスからプラスに転じ、5426億円になった。
そして、惑星『Proxima b』から持ち込んだ『金』を全て売り払い、所持金が2兆2137億円に膨れ上がる。
「どうよ、これが私の商才よ!」
満面の笑顔で、勝ち誇るジミ子。
この宇宙貿易は、とても上手く行くように思えた。




