大航宇宙時代 4
『ジミコ・3世』の所持金は、利子が少し増え、マイナス1兆3217億円からのスタートだ。
画面を見ながらジミ子が言う。
「ええと、異星人との会話には『翻訳機』が必要なのよね。とりあえず開発しないと行けないわね」
そういってメニューから『開発』のコマンドを選んだ。
すると、次にこんなメニューが出てくる。
『工業開発』『医療開発』『食料開発』『人脈開発』
この項目をみて、ミサキが真っ先に言う。
「『食料開発』をやってみましょう! すばらしい食事が出来るに違いないわ!」
「それは無いわね。うーん、『翻訳機』って『工業開発』かしら? とりあえず試してみましょう」
ジミ子が『工業開発』を押すと、次にこんなメニューが現われた。
『工業開発ガチャ、1回1000億円・連続10回1兆円』
さらに、画面の下のナビゲーターのロボットは、こんな事を言っている。
『ガチャ1回で、1年の年月が経過します。現在の工業レベルは1です』
「はぁ、開発ってガチャでやるの?」
ジミ子が切れ気味に言うと、キングもあきれたように言う。
「ああ、この『開発ガチャ』で、『翻訳機』が出るまで回さなきゃならないのかな……」
これは酷い。ゲームの進行に必要なアイテムをガチャで出すなんて……
……でも、よく考えれば、ゲーム内の通貨なだけ、まだマシかもしれない。ソシャゲでは、現金を積まないとシナリオが進まないような、難易度設定の酷いゲームも数多くある。
それに必要なアイテムだから、レア度は高く無いハズだ、回せばすぐに出てくるだろう。1回1000億円もつぎ込むのだから。
「1回1000億円か……」
超高額ガチャに、ジミ子は引くことを躊躇する。するとヤン太は、こう説得する。
「でも、これをやらなきゃ進めないぜ」
「うーん、まあ、そうなのよね。じゃあ引きましょうか……」
ジミ子が渋々、ガチャのボタンを押すと、こんなメッセージが表示される。
『ハズレ』
「……はあ? 1000億円つぎ込んだのにハズレって何?!」
さらに切れ気味のジミ子をなだめるようにキングが言う。
「でも技術レベルが上がってるぜ、ガチャを引いていけば、そのうち当りが出やすくなるんじゃないか?」
画面を見ると、工業レベルが『1』から、『1.01』に上がっていた。
レベルの上昇が少なすぎて、その効果はかなり低そうだが、いちおう上がってはいる。
「ああ、もう、引けば良いんでしょ」
自暴自棄になったジミ子が、ガチャを引いていく。
『ハズレ』
『ハズレ』
『宇宙船の速度が2パーセントアップ』
ガチャの結果を見たキングから、言葉がこぼれる。
「渋いな。普通はハズレても、何かの効果があっても良いもんだが……」
「もう面倒だから、10連ガチャの方をするわ」
ジミ子が『連続10回1兆円』のガチャの方に手を出す。
『ハズレ』『ハズレ』『ハズレ』『ハズレ』『宇宙船の建造コストが3パーセントダウン』『ハズレ』『ハズレ』……
1兆円をつぎ込んだのに、ろくな物がでない。
「出ないわね。当りが入って居るのかしら?」
金銭感覚の麻痺したジミ子が、10連ガチャを次々と引いていく。
ハズレばかりが続いていたが、ジミ子が4回目の連続ガチャを引いた時、それは起こった。
『ハズレ』『ハズレ』『ハズレ』『ハズレ』『ハズレ』
『ブレークスルー発生! 技術力の飛躍的進化が起こりました。『工業レベル+7』『医療レベル+7』『食料レベル+7』』
『スーパーコンピュータを獲得しました』
『発達した人工知能を獲得しました』
『翻訳機を獲得しました』
『宇宙船の速度が270パーセントアップ』
ミサキが大はしゃぎしながら言う。
「大当たりじゃない? これ?」
「そうね。いきなり発達したわね。これからドンドン発達するのかしら?」
そう言いながら、ジミ子は再び10連ガチャを引く。もう金銭感覚は完全に壊れているようだ。
『宇宙船の建造コスト、60パーセントダウン』
『放射線など、有害な宇宙線のカット。99.7パーセント』
『近隣の惑星への進出が可能になりました』
『ハズレ』『ハズレ』『ハズレ』『ハズレ』『ハズレ』『ハズレ』『ハズレ』
レベルが進化した分のイベントが終わったのか、くじはいつもの『ハズレ』の連発に戻る。
「ほかのジャンルのレベルも上がったから、開発をしてみれば?」
僕が言うと、ジミ子が素直に応じる。
「そうね『医療開発』のガチャをやってみましょうか」
面倒くさくなったのか、借金の額を気にしなくなったのか、ジミ子はいきなり『10連1兆円』ガチャを引く。
『人類は放射線の耐性を得ました』
『ガンの治療薬を開発しました』
『未知の病原体に対して、すぐに抵抗薬を作れるようになりました』
『人類の寿命を延ばす薬が出来ました。寿命が2倍になります』
『ハズレ』『ハズレ』『ハズレ』『ハズレ』『ハズレ』『ハズレ』
そして最後にこんなメッセージが表示される。
『ガンの治療薬と、寿命の延命薬の特許料が、年間3201億円、入って来るようになりました』
「やった! これなら借金も返せるんじゃない?」
ジミ子が大喜びをする。
今の所持金は、マイナス7兆9217億円。とてつもない借金だが、これだけ収入があれば返せそうだ。
「ちょっと『食料開発』もやってみない? せっかくレベルが上がったんだし」
ミサキがレベルの発展した食料に興味があるようだ。
「そうね。お金に余裕ができそうだし、ちょっとやってみましょうか」
ジミ子は『食料開発』の10連ガチャを引いてみる。
ここでも1兆円の大金を消費するが、特許料が10年分入ってくるので、3兆円2000億円の収入が足され、所持金はマイナス5兆1217億円と、だいぶ減った。
『ミドリムシの製造プラントが完成しました』
『ミドリムシの料理の発展、ミドリムシのおいしさが260パーセントアップ』
『ミドリムシの製造スピード、170パーセントアップ』
『体内で繁殖できるミドリムシの開発に成功。人類は水分補給と光合成をすれば、食料が不要となります』
『ハズレ』『ハズレ』『ハズレ』『ハズレ』『ハズレ』『ハズレ』
「おっ、食料が要らなくなったんじゃないか?」
キングがメッセージを見ながら言う。
「そうね、食費が浮くわね」
ジミ子が喜んでいる隣で、ミサキは不機嫌な顔で言う。
「なんか違う、そんな食料は期待していない……」
まあ、言いたい事は分かる。誰もミドリムシの料理なんて食べたくない。味も想像したくないだろう。
様々な開発を終えて、万全の体制で『ジミコ・3世』は宇宙に挑む。




