大航宇宙時代 2
姉ちゃんの会社の作った『大航宇宙時代』というゲームを、ジミ子のスマフォにインストールする。
このゲームには実在する異星人が出てくるらしい。どの惑星にどんな異星人が居るのか楽しみで仕方がない。
「そろそろゲームを始めるわよ」
ジミ子がそう言って、ゲームをスタートさせた。
『始めにプレイヤーの名前を入れて下サイ』
メッセージウインドウが現われ、プレイヤー名の入力を求めてくる。
「じゃあ、カタカナで『ジミコ』で良いわ、これでOKと」
プレイヤー名を入れると、メインメニューがあらわた。
そこには『貿易』『宇宙造船所』『開発』『宇宙へ』『環境設定』の、5つの項目が並んで居る。そして、下の方にナビゲーターらしきロボットの姿があった。
「宇宙へ行ってみましょうよ、他の宇宙人が見てみたいわ」
ミサキに言われて、ジミ子がボタンを押す。
すると、ナビゲーターのロボットが警告を発する。
『宇宙船が無ければ宇宙に出られまセン。宇宙船を作ってから、このメニューを実行して下サイ』
「まあ、それもそうね。『宇宙造船所』へ行きましょう」
ジミ子は『宇宙造船所』に行き、『宇宙船の建造』というボタンを押した。
するとこんなメッセージが出てくる。
『ただいま宇宙船を建造中デス。37分ほどお待ち下さい』
キングがあきれた口調で言った。
「37分も待つのかよ……」
ヤン太がゲームの設定を思い出しながら言う。
「たしかゲームの一分間が、実際の1年間に相当するんだっけか?」
「まあ、星間飛行が出来る宇宙船を作らないと行けないから、この位は時間が掛かってもしょうがないかもね」
僕がちょっと言い訳っぽい事を言うと、ジミ子は納得したようだ。
「しばらくスマフォを放っておいて、私らは遊んでいましょうか」
スマフォをいったん放置して、僕らは違うゲームで遊び始めた。
50分ぐらい違うゲームを遊んだだろうか。ジミ子のスマフォを見てみると、宇宙船の建造が終わっていた。
「終わってるみたい、すぐに宇宙へ出ましょう」
ミサキがジミ子を急かす。出発しようとして、画面を覗き込んだジミ子は固まった。
「宇宙船の建造費が凄いわね…… 所持金がえらい事になっているわ……」
画面の右上には、キャラクターの所持金が表示されていたのだが、マイナスの符号の後に、数字がずらりと並ぶ。
ヤン太がそれを見て言う。
「四捨五入して、ザッと『マイナス8700億円』か、信じられない借金だな……」
「い、いいのよ、これから儲けるから、さて宇宙に行こうかしら」
ジミ子が宇宙に飛び立とうとすると、ナビゲーターのロボットが、こんなメッセージを出してくる。
『貿易品を空のまま飛び立ちますか? 何か積んで行きますか?』
「せっかくだから何か積んで行きましょう、何が良いかしら?」
ジミ子がメニューから『貿易』を選ぶと、ありとあらゆる地球で買える資源が出て来た。
「……どれを持って行けばいいと思う?」
『大航海時世』をやっているキングに聞くと、こんな答えが返ってくる。
「まあ、中世だと胡椒とかのスパイスがメインだけど、ここは無難に希少金属の『金』とか『銀』が良いんじゃないか?」
「そうね、じゃあ『金』を買って行きましょう」
ジミ子は『金』を100キロ買って、60億円を支払う。
もの凄い金額だが、借金が8700億から、8760億にちょっとだけ増えただけなので、もはや60億が大した金額に思えない。
「じゃあ、いよいよ宇宙に出るわよ」
メニュー画面から『宇宙へ』を選ぶと、こんな画面が出て来た。
『どの惑星を目指しますか?』
『Proxima b』
『Ross 128 b』
『TOI-700 d』
『K2-18b』
4つの候補地が表示されていて、下にいるロボットはこんな事を言っている。
『これは初期の候補地で、後から候補地は増えて行きマス』
キングがこの画面を見て、惑星の名前をスマフォで調べてみた。
「おっ、『Proxima b』って惑星は実在するな。4.3光年先にあって、水が存在するかもしれないって言われてるぜ。他の惑星もちゃんと存在するみたいだな」
「じゃあ、私は『Ross 128 b』って惑星に行って見ようかしら」
ジミ子がその惑星を選択すると、こんなメッセージが出て来た。
『11光年ほど先になりますが、行きますか? はい・いいえ』
ジミ子が『はい』を選択すると、次のメッセージは酷いものだった。
『到着まで142分かかりマス。しばらくお待ち下さい』
ミサキから、思わず愚痴がこぼれる。
「また待たなきゃいけないのね……」
たしかにかなりの時間を待たなければならない。
ただ、現実だと142年も掛かる訳で、それに比べれば大した事はないだろう。
「ちょっと放っておきましょうか」
ジミ子がスマフォを投げだそうとするのを僕が止める。
「ちょっとまって。ゲームの『環境設定』を見てみようよ」
この手の放置ゲームだと、たいてい何か設定があるものだ。
『環境設定』の画面を開いてみると、僕の読みは当っていた。
『イベントが起こるたびに、音でお知らせ』、という項目があり、これをオンにして放置した。
これで他の事をしていても平気だろう。
僕らは再び違うゲームで遊び始める。
未知の惑星をめざして、およそ40分ぐらい経っただろうか。「ティロン、ティロン」とジミ子のスマフォが鳴った。
「あれ、もう到着したのかしら?」
予定では142分掛かるハズだったので、到着にはいくらなんでも早すぎる。
スマフォの画面を確認すると、そこにはこんなメッセージが。
『ジミコさんの寿命が尽きました。享年87歳デス』
ゲームのメッセージを進めていくと、キャラクターの名前が『ジミコ・2世』にかわり、再び地球からスタートとなった。
最初から違う点は、所持金だろうか。若干の利子がついて、マイナス9176億円からのスタートだ。
「なんで借金を相続放棄しないのよ! バカじゃないの!」
ジミ子の悲痛な叫びと共に、このゲームの2週目が始まった。




