第32回目の改善政策
「正午になりました。第32回目の改善政策の発表です。今日もよろしくお願いします」
「ヨロシクネー」
福竹アナウンサーと宇宙人がテレビに映り、いつもの番組が始まった。
「さて、今週はどのような改善政策なんでしょう?」
福竹アナウンサーが宇宙人に話を振ると、こう答える。
「その前に、先週の改善政策で、チョット問題が出てネ」
「ええと、先週の内容は、裁判の時に『思考読み取り装置』を使う改善政策でしたよね」
「ソウネ。裁判がスムーズに進むように、容疑者や弁護士にも使うようにしたケド、弁護士が次々と裁判から辞退していってネ。ほとんど弁護士が裁判に出てこなくなったのヨ」
「あぁ、なるほど。弁護士の方が、弁護の時に本音を読み取られるのが嫌なんでしょうね」
福竹アナウンサーの意見を聞いて、宇宙人が怪訝な顔をして言う。
「おかしくナイ? 証言者には『嘘偽りなく』と、真実を求めているのに、弁護に真実を求めないのはおかしいデショ?」
「いや、まあ、そうですね。それが本来の正しい姿勢ですよね」
「弁護士がほとんど居なくなったカラ、裁判が進まなくなってネ。戻ってくるように要請したんだけど、ダメだったから新たに作ったネ」
「えっ、何を作ったんですか?」
驚いた様子の福竹アナウンサーを放っておいて、宇宙人が手で合図を送る。すると、画面の外から姉ちゃんがやって来た。
深くお辞儀をした後、姉ちゃんは、こう言った。
「笹吹 アヤカです、この度の弁護士の不足を受けて、私らは『ロボット弁護協会』を作りました。協会長は、私が務めさせて頂きます。人間の弁護士が見つからない場合は、こちらを利用して下さい。ご連絡先は、以下の通りです」
画面の下のテロップに連絡先の電話番号が表示される。
ロボットの弁護士は、おそらくとても正確で、間違いは起こさないだろう。これからの裁判はスムーズに行なわれそうだ。
……しかし姉ちゃんが協会長なのか。おそらく肩書きだけだと思うが、この協会は大丈夫だろうか?
姉ちゃんの挨拶が終わると、福竹アナウンサーは本題に戻す。
「これで弁護士の問題は解決しそうですね。ところで、今週の政策の内容は、何でしょうか?」
「今週の改善政策はこれネ」
そう言ってテロップを出すと、そこには『放送局の開局』という文字が書いてあった。
すかさず福竹アナウンサーが詳細を聞き出す。
「『放送局の開局』ですか? 新しくチャンネルを開設を作るという事ですよね?」
「ソウネ。メイン局とサブ局の2つを作るヨ」
宇宙人がテレビ局を作ると言いだした。
福竹アナウンサーが、具体的な話を宇宙人から聞く。
「番組の内容は何です? どういったジャンルの番組を作るんですか?」
「メイン局ではニュースを中心に放送するネ。サブ局では、アンケートを取って、リクエストが多い情報番組を放送するネ」
「それだと既存のテレビ局とあまり変わりませんね。ニュースが主な内容だとすると、国営放送のNHCみたいなものでしょうか?」
「ソウネ。そう思って良いと思うヨ」
「ところで、なんで放送局を開局する事になったんです?」
「今の報道番組は『偏っている』というクレームが多く来たからネ。新しくチャンネルを作る事にしたヨ。ロボットとAIを使って、中立な立場から報道番組を作るネ」
「『中立な立場』ですか…… 新しくチャンネルを作るという事は、今までの番組はあまり公平では無かったという事ですよね。報道に身を置く者としては、耳が痛いです」
「この国はまだ正常な方ダヨ。もっと偏っている国もあるからネ。新しくチャンネルを作るのは、そういった国に対応する理由が強いネ」
「そうですか。そう言ってもらえると励みになります」
言論の自由が保障されていない国が、まだ多くあるのだろう。宇宙人がチャンネルを作れば、政府の圧力とかを気にせず、自由に放送ができそうだ。
福竹アナウンサーは、さらに宇宙人に質問を続ける。。
「NHCと似たような組織という話ですが、受信料とか、視聴者からお金を取るのでしょうか?」
「取らないネ。無料ダヨ」
「ネットでも配信はするのですか?」
「するネ。テレビと同時配信もするし、過去の番組もいつでも見られるようにするネ」
「ネットで過去の番組を見るために、料金は必要ですか?」
「これも無料ダヨ」
「タダとは素晴らしいです。放送はいつ頃からですか?」
「この番組のすぐ後から放送する予定ネ」
「これから放送される番組の中で、何か視聴率の稼げそうな番組はありますか?」
「放視聴率に関しては、ワレワレは気にしてないから、低くてもイイネ」
この後も細々とした質問が続いた。
宇宙人の答えを聞く限りでは、このテレビ局はいたって普通の番組を放送するらしい。特に視聴率も気にしていないようなので、つまらない番組ばかりになってしまう可能性もある。
福竹アナウンサーが細かな質問をしていると、結構な時間が過ぎていた。
スタッフに言われて、あわててアンケートを取る。
「すいません、アンケートのご協力をお願いします」
アンケートの集計画面が現われる。
テレビのチャンネルが増えるの、良い事だろう。
もしかすると、このテレビ局が、つまらない番組ばかり流す可能性もあるが、そうなったら見なければ良いだけの話だ。困るような事は何もない。
僕は「今週の政策は『良かった』」「宇宙人を『支持できる』」に投票する。
アンケートに答えてしばらくすると、集計結果が表示された。
『1.今週の政策はどうでしたか?
よかった 92%
悪かった 8%
2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?
支持する 67%
支持できない 33%』
福竹アナウンサーが、この結果をまとめる。
「アンケートの結果を見る限り、おおむね好評ですね。私たち報道関係者は、このチャンネルに負けないように、気を引き締めて行かないといけません。それではまた来週、この番組でお会いしましょう」
「マタネー」
こうして改善政策の発表が終わった。
テレビ局が増えたところで、僕たちの生活に変化は無いだろう。




