廃線レストラン 1
『弟ちゃん、二日後のお昼の予定は空いてる? 空いていたら、とっておきのランチをごちそうするよ、お友達にも予定を聞いてみて』
姉ちゃんからLnieでメッセージが飛んできた。
今日はヤン太の家で遊んでいる。まわりに確認を取ると全員がOKだったので、メッセージを送る。
『予定は大丈夫みたい。みんな参加するって』
『分ったわ。じゃあ二日後の10時30分に会社の前で集合してね。あと、食べ終わった後に、食事に関してのアンケートをよろしく』
姉ちゃんからすぐにメッセージが返ってきたので、それをみんなに伝えた。
「どんなランチをご馳走してくれるのかしら、楽しみだわ……」
ミサキがニヤけながら、ポツリとつぶやいた。その口元からは、よだれが垂れそうだ。
二日後、僕たちは、地元の姉ちゃんの会社の前に集まった。
集合時間になると、ロボットが現われ、僕たちを会社の中に案内してくれる。
会社の中に入ると、姉ちゃんが待っていた。
ミサキは挨拶もせず、少し興奮状態で、こんな事を聞く。
「今日は、どんな物を食べさせてくれるんですか! 特別な食事だと聞いたんですが!」
「ミサキちゃん、ちょっと落ち着いて。まあ、特別だけど、食事は大した事はないかもしれないわ。半分くらいは冷凍食品を温め直した物だから……」
「れ、冷凍食品ですか……」
あからさまにガッカリとするミサキ。それを見て、姉ちゃんはこんなフォローをする。
「冷凍食品といっても、そこら辺の冷凍食品とは違うから。ウニとかイクラとか、海鮮は好き?」
「大好きです!」
「じゃあ、ちょっと期待しておいて。さあ、出かけましょうか」
僕らは『どこだってドア』を通り抜けて、どこかの建物の中へと移動をする。
扉を抜けた先は、かなり広い駅の構内だった。
ただ、広い駅の割には人がほとんど居ない。施設も古く、かなり寂れた感じがする。
ミサキがある方向を指さして、こう言った。
「あそこに駅名っぽい看板があるけど、漢字が読めないわ」
看板をちらりと見て、姉ちゃんが説明をする。
「ここは北海道にある『苫小枚駅』よ。これからみんなで電車に乗るの」
ジミ子が姉ちゃんに質問する。
「移動なら『どこだってドア』で良いんじゃないでしょうか?」
「これから観光列車に乗って、その中で食事をするの。ちょっとしたレストランのような車両ね。この車両の製造に、うちの会社が関わったんだけど…… 時間が無いから歩きながら説明するわね」
そう言って駅の改札の方へ歩き出した。僕らはその後を着いていく。
「どうも。プレアデスグループの笹吹アヤカです」
「お待ちしておりました。中へどうぞ」
姉ちゃんは駅員さんに声を掛けると、改札の脇を通り抜けて駅の構内に入っていく。
「あなた達、こっちよ」
僕たちは姉ちゃんに手招きされて、おなじように改札の脇から駅の構内に入った。切符も電子ICカードも使わず、駅の中に入るのは初めてだ。
姉ちゃんは移動しながら説明を続ける。
「ええと、これから乗るのは『曰高本線』って言う路線で、海岸線を走っていたのね。それが、数年前の暴風雪で、線路の土台の土砂がごっそり崩れてしまったの。直すには莫大な予算が掛かるらしいんだけど、元々採算が取れてない路線だったから、廃線に決まってしまったわ」
「廃線になったら、もう乗れないよね?」
僕が質問をすると、姉ちゃんは、こう答える。
「まあ、そのまま行けば廃線になっていたんだけど、反対する意見が、かなり多く集まったのよ。そこで、うちの会社が問題を解決をして、なんとか路線の存続が決まったわけ」
「分った。宇宙人の技術で、土木工事をして直したんだね」
僕がそう言うと、姉ちゃんは否定する。
「いえ、直してないわ」
「じゃあ、どうしたの?」
「それは…… 列車が見えてきたわ。ここまで来たら見た方が早いわね」
階段を下りホームへ降りると、そこには新しい列車と、それに群がるように、かなりの人が居た。
人混みは、だいたい3グループくらいに分かれそうだ。
カメラやマイクを構えたマスコミ関係者。そのインタビューを受ける偉そうな人たち。偉い人たちには目もくれず、一心不乱に列車の写真を撮る鉄道ファン。
かなりの熱気があるので、もしかして今日が列車の初公開なのかもしれない。
人が群がっている列車は3両編成だった。
先頭車両は未来的なデザインで、ガラスが多く使われている展望車。運転席が無い事から、おそらく自動運転だ。
2両目は、大きな窓の真新しい車両。窓の中にはテーブルが見えるので、たぶんレストランの車両だろう。
3両目は、くたびれた感じの、どこにでもありそうな通常の車両。おそらく、これまで使っていた車両だと思う。
「弟ちゃんたち、ちょっと列車の下を見て」
姉ちゃんに言われて、僕たちは列車の下を覗いてみる。すると、車輪が全く無く、浮いているようだった。
通常の車両に見える古い車両も、車輪が取り払われていて、モノリスのような不思議な金属の台車になっている。
「もしかして、空飛ぶ列車なの?」
僕が聞くと、姉ちゃんがドヤ顔で答える。
「そうよ。空を飛べば線路を直さなくてもいいでしょ」
確かに空飛ぶ列車なら、崩れた土台や線路を直さなくてもいいだろう。
「ちょっと待ってね。挨拶をしてくるわ」
姉ちゃんはそう言って、偉そうな人の元に行く。
「俺ら、コレに乗るんだよな?」
キングがちょっと驚いた表情で、最新の車両を指さしながら言う。
「そうだと思うぜ、楽しみだ!」
ヤン太が嬉しそうに言う。
おそらく、列車の窓の外には絶景が広がると思う。このレストラン車両での食事は最高だろう。
僕も楽しみになってきた。




