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管理アプリ 2

 本屋を一通り巡り、家に帰ると、姉ちゃんが缶のチューハイカクテルを飲んでいた。


「弟ちゃん~、今日は何して遊んでいたのぉ~?」


 ちょっと酔っ払い気味に、僕に絡んでくる。


「今日は本屋を巡っていたんだ、ジミ子が欲しいマンガがあったんだけど、品薄で売り切れてて……」


 そう言うと、姉ちゃんはニヤけながら、鞄からタブレット端末を出してきた。


「コレを見て、宇宙人の技術を使った、最新式の大型印刷機よ。三日前にいくつかの印刷所に納品したから、これから書籍の品不足は、あまり起こらなくなると思うわ」


 姉ちゃんがちょっと得意気になって言う。

 僕は出版社のサイトを見て確認して見ると、『鬼潰(きかい)の刃、緊急増刷! もう品切れは心配無用です!』と、大きく宣伝がされている。

 新型の印刷機は、本屋には朗報だが、ジミ子には凶報(きょうほう)だろう。今日買った本がオークションサイトで売れずに無駄になってしまうかもしれない。



 無駄と言えば、僕が今日買った本も無駄なのかもしれない。


「姉ちゃん『13国記』って本、もう持ってる? 今日買っちゃったんだけど」


 本を見せながら、姉ちゃんに聞いてみる。


「持ってるわよ。でも、なんでそんな昔の本を買ったの?」


「いや、新刊が最近出たみたいなんだけど……」


「えっ、うそ!」


 姉ちゃんがタブレット端末で『13国記』について調べる。


「……そうか、いつの間にか新刊が出てたのね。しかし5年半ぶりの新刊とはね…… ちょっと間隔が開きすぎているわ。5年半と言えば、私はまだ学生じゃない……」


 確かに5年半と言えば、僕だと小学生の頃になってしまう。遙か昔に感じる。



 そんな会話をしていると、夕食の支度を終えた母さんがやってきた。本を見て声をあげる。


「あら、『13国記』ね。懐かしいわね」


「えっ、母さんも知っているの?」


 僕が聞くと、こう答えた。


「ええ、その本、30年くらい前の本よ。どんな終わり方をしたのか覚えてないけど……」


 本の後ろの奥付(おくづけ)を見てみると、確かに初版の印刷日は30年前の日付が記してあった。

 姉ちゃんが母さんに言う。


「母さん、まだ物語は終わってないの。続刊が最近でたのよ」


「そうなのね。じゃあ、完結したら貸してちょうだい。まとめて見るわ」


 30年掛けて終わらない小説が、はたして何時(いつ)になったら終わるのだろうか。母さんに本を貸す日は、かなり先になりそうだ……



「うーん、コレはちょっと問題ね」


 姉ちゃんが2本目のカクテルストロングの缶を開けながら、ポツリとつぶやく。


「何が問題なの?」


 僕が聞くと、姉ちゃんはこう答えた。


「本よ、本。家族で同じ本を買うのは避けたいじゃない」


「まあ、そうだね」


「それに新刊のチェックも面倒くさいわ。一冊の本の更新を5年以上、毎月チェックするのも馬鹿馬鹿しいし、何か良いスマフォのアプリとか知らない?」


「うーん、その手のアプリはいくつか有るみたいだけど、僕は使ってないかな」


「そう。そうね、じゃあ、私の会社でアプリを作っちゃおうかな」


「……ちょっと待って、どんなアプリがあるか調べてからの方が良いんじゃない?」


「まあ、そこら辺のところも全部含めて、ロボットに丸投げするから平気よ」


「そ、そうなんだ」


 姉ちゃんがニンマリと笑いながら言う。ちょっと酔っ払っているようだ。



「あっ、そうだ。他に何か管理が面倒くさいと思っている事は無いかしら?」


 姉ちゃんが前のめりの姿勢で、僕に意見を求めてきた。僕は思い当たる事があった。


「管理でめんどくさいと思ってるのは、ソシャゲのアイテムの管理かなぁ」


「ちょっと詳しく聞かせてくれる?」


 口で説明するより見た方が分りやすいので、僕は実際にソシャゲでやって見せる事にした。


 溜まっていた無料のチケットを使い、10連ガチャを引く。そして、出て来たアイテムの整理する。

 ちなみに10回引いたガチャの中で、まあまあ役に立ちそうなアイテムは一つだけ。あとはすぐにゴミ箱行きだ。ポチポチとアイテムを指定して、次から次へと捨てていく。ちなみにこのゲームは、まとめて捨てるという操作は無い。


「へえ~、なるほどね~。面倒くさいわね~」


 すぐ横でみていた姉ちゃんが深くうなずく。隣に居るとかなり酒の臭いが漂ってくるが、平気だろうか?


 この後、姉ちゃんは母さんにも、管理で面倒くさいと思っている事を聞く。


 母さんは、調味料や冷蔵庫の食材管理の事をあげていた。

 醤油を切らしたり。調味料の予備があるのに、更に買ってしまったり。買って置いた野菜などの生鮮食料品を使わずにダメにしたりと、どこにでもありふれた失敗談をする。


 これらの説明を聞いた後、姉ちゃんはどこかへ電話を掛けていた。



 翌朝、僕が台所に行くと、先に食事を食べていた姉ちゃんに声をかけられる。


「弟ちゃん。アプリが出来たみたいなんだけど、インストールしてテストしてくれない?」


「えっ、もう作ったの?」


「うん。それで一つ大きな問題があるんだけど。出来たアプリが、何をするアプリだか分らないのよね……」


「……昨日の出来事を覚えてないの?」


「ちょとね、記憶が曖昧(あいまい)で出した指示を覚えていないのよね…… とりあえず、URLを送るから、このアプリを入れてみてよ」


 僕はなんだかよく分らないアプリのテストをやらされそうだ……

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ソシャゲは面倒の極致ですな。 [一言] 姉ちゃんのアグレッシブさを見習いたいですねw
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