逆転判決 3
テレビ都京で、裁判に関する特別番組をやるらしい。
チャンネルを合わせて、しばらくすると番組が始まった。
「こんにちは、司会の武藤です。特別報道番組『これからの裁判』をお送りします。この番組は、今日の改善政策で、今後の裁判がどのように変わっていくのかを、できるだけ分りやすく解説したいと思います」
司会の武藤さんは、深くお辞儀をして、そのまま話を続ける。
「さて、解説の佐々木さん、これからどうなって行くと思いますか? 報道番組なので、本心と違うとテロップが出ます。本音でぶっちゃけて下さい」
「まあ、ぶっちゃけて言うと、事情聴取、供述、審議、判決が、クソ早くなりますね。例えば、離婚裁判だと、一般的には半年から1年くらい掛かりますが、スムーズに行けば2~3日も掛からなくなるでしょう」
「それは、クソ早くなりますね」
「クソ早いでしょ」
報道番組だと思えないくらい言葉使いが悪い。
まあ、下手に取り繕って喋ろうとするとテロップで表示されるので、素のしゃべり方の方が良いのかもしれないが……
司会の武藤さんは、自分のペースで番組を進行させる。
「ええと、本日の改善政策の後に、取りおこなわれた裁判のVTRがあるそうです。浮気による離婚調停の裁判という、あまり興味の湧かない裁判ですが、どうです佐々木さん」
「ハッキリ言って、興味が無い裁判ですね。できればもっと重大事件の裁判を取り上げたかったのですが、残念ながら本日はこんなショボい裁判しかなかったようです。まあ、とりあえず、どのような裁判だったか見てみましょう」
テレビを見ていたジミ子がボソリと言う。
「なかなか酷い進行ね」
「そうだな。でも、これはこれで面白いぜ」
キングがニヤけながら答える。たしかにちょっと面白い。
テレビはVTRに切り替わる。そこはとても小さな法廷だった。
中央の教室の教壇くらいの机に裁判官が座り。その隣の一段低い机には書記が座る。
そして部屋の左右にそれぞれに、原告団席、被告人席の長机が置いてある。
一般的な裁判所のイメージだが、大きく違う点があった。
裁判所の中央に、パトカーや消防車に見られる赤い回転灯が、堂々と置かれている。
これは何に使うのだろうか?
原告側が訴えを読み上げる。
「夫であるA氏は、妻B子がいるにもかかわらず。Cさんと浮気をしました。原告であるB子さんは、速やかな離婚を求めます。夫A氏の浮気は、これが初めてではなく、もう耐えられないそうです」
「妻B子さん、何か言いたい事はありますか」
裁判長が、B子さんに発言をうながす。
「度重なる心労で、身も心も参ってしまいました。もう限界です。慰謝料などはどうでもいいので別れましょう」
そう言うと、裁判所に設置されていた赤い回転灯が、点滅しながらクルクルと回り出し。光のスクリーンに大きな文字が映し出された。
『慰謝料をありったけよこしな! 尻の毛までむしってやるよ!』
上品そうな奥さんだったが、考える事はえげつなさそうだ。
「コホン。ま、まあ、もらえる物はもらっておきたいです」
奥さんは慌てて言い直すが、もう遅い気がする。
裁判長は、通常通りに審議を進めようとする。
「夫のA氏さん、何か弁明や反論はありますか?」
「私としては別れたくありません、とても反省しています。心を入れ替えるので、改めてやり直しましょう」
するとまた回転灯が回り、こんな文字が映し出される。
『慰謝料払いたくねぇ~。少しの間、やり過ごせば何とかなるんじゃないか?』
この文字を見て、奥さんは怒り狂う。
「あんた、冗談じゃないわよ。Cさんとの浮気は何度目だと思ってるの!」
「2回目です」
また回転灯が回り、文字が出る。
『Cさんとは、まだ3回くらいしか浮気をしてません』
「『Cさんとは』って事は他にも誰かいるの?!」
「…………」
A氏さんは黙っているが、文字は表示される。
『他にはDさんと、Eさんと、F郎と……』
「ちょっと! 女性は分るけど『F郎』って元男じゃない! どういう事よ!」
ここで弁護士が割って入った。
「まあまあ、いったん落ち着いて話しましょう」
回転灯が回り、弁護士の本音が表示される。
『なんだコイツ、こんなヤツの弁護したくねぇ~ 仕事を放りだして帰りたい』
収拾が付かなくなり、大混乱のVTRがここで終わる。
スタジオにカメラが戻ってきたが、司会の武藤さんと、解説の佐々木さんはあきれて黙ったままだ。
しばらくすると解説の佐々木さんが口を開く。
「先ほど、裁判の期間は大幅に短縮すると言ってしまいましたが、場合によっては長期化する可能性もありますね」
「VTRのように余罪とかあると、どんどん拡大して大変な事になりますね」
「そうですね。曰産の元会長、カーロス・ゴルゴン氏とか、余罪だらけですからね。まあ、身から出た錆ですが」
「全くもってその通りですね。では、いったんCMです」
「……なんか凄かったわ」
ミサキが肝心しながら言う。
「しかし、さっきの弁護士。裁判では、ほとんど活躍してなかったわよね?」
ジミ子が痛い点を着くと、ヤン太も同意する。
「まあ、そうだな。でもあの状況だと何もできないかもな」
確かにそうだ。今回の改善政策で容疑者や弁護士はかなり不利になった。僕は具体的な点をあげる。
「容疑者の本音をどんどんバラされるし、弁護士は本心から弁護できる内容でないとダメだし、かなりキツイね」
「まあ、ゲームみたいな逆転劇とかは、ありえなくなったな」
キングも同じ様な感想を言う。。
弁護ひとつで判決が覆るとか、そういった事は起こらなくなりそうだ。これによって、無茶な理屈の弁護が減れば、今回の改善政策は大成功だろう。




