逆転判決 1
第31回目の改善政策が放送された日の午後、僕らはキングの家で集まる約束をしている。
僕はミサキの家に行き、ミサキの手を握ってキングの家へと行く。
キングの家に集まる理由は二つある。
一つ目は、『大格闘スマッシュ・ブレイカーズ』をみんなで楽しむためだ。
先日の、農業用パワードスーツで遊んだときに、このゲームのルールを採用したので、僕たちは再び遊びたくなってしまった。
ネンテンドーの新しいゲーム機を買うという手もあったが、キングの家にネンテンドー64がまだ残っているという話なので、引っ張り出して遊ぶ事にした。
僕とミサキがキングの家に着き、チャイムを鳴らすと、スマフォのLnieで『リビングに上がって良いよ』とメッセージが飛んでくる。
僕たちが中に入ると、リビングには既にネンテンドー64がセットされていて、ヤン太とジミ子とキングで遊んでいた。
「ああ、くそ、久しぶりだから上手く行かない」
キングはそう言いつつ、ヤン太とジミ子をボコボコにしていた。
「ツカサ、スマブレに早く加わってくれ、2対1だと勝ち目がない!」
ヤン太が悲痛な声を上げる。
キングの動きは相変わらず異常だ、ヤン太の操作しているキャラクターを画面外に落とすと、すぐにジミ子のキャラクターも画面外に弾き飛ばされた。
「また負けたわ。これで3連敗よ……」
ジミ子があきれたように言う。どうやらこの状況では、ヤン太とジミ子に勝ち目はないらしい。
「ちょっと待ってね。ミサキの準備をするから」
僕はミサキの持ってきた鞄から、勉強道具を取り出して、テレビからちょっと離れたテーブルの上に広げた。
今日の目的の二つ目は、ミサキの数学と英語の宿題を進める事だ。
ミサキは、今年は珍しく順調に宿題をこなしていた。だが、体調を崩した時にアンドロイドに宿題を任せたら、これまで解いた問題の中で、間違っていた部分を消しゴムで消されてしまった。
ミサキはこの消された部分の問題を解き直さなければならない。
「うーん、どうしよう? 数学と英語のドリルがあるんだけど、とりあえず数学からやろうかしら」
ミサキが嫌な顔をしながら言う。するとキングがこう言った。
「数学と英語だったら、俺が得意だからちょっと見ておくよ。その間、ツカサはスマブレの練習でもしたらどうだ?」
「うん、じゃあ頼んだね」
ミサキの勉強をキングに任せて、僕は久しぶりにスマッシュ・ブレイカーズを練習する事にした。
スマッシュ・ブレイカーズをやるのは、かなり久しぶりだ。
僕たちの間で流行っていたのは、確か小学生の低学年くらいだった気がする。
ネンテンドー64の独特のコントローラーを握り、ヤン太とジミ子と僕で、対戦モードで戦ってみる。
「ええと、使っていたのは、確かこのキャラだったかな?」
僕は『ゼノレダの伝説』シリーズの主人公、『リソク』を選び、戦闘へと突入する。
ゲームが開始しても、僕はしばらく操作確認をする。ヤン太とジミ子は待ってくれている。
「ええと、必殺技は…… そうそう、こんな感じだった。思い出してきた」
「それじゃあ、そろそろ本格的に戦いましょうか」
「試合開始だ! 全員、ぶっ飛ばしてやるよ!」
僕が操作に慣れてくると、ジミ子とヤン太との、三人の戦いが始まった。
このゲームは優しいゲームだ。初心者でも、ある程度は思ったように操作や攻撃ができる。
「うわ、やられた」「ちょっ、ちょっと待って」「今の攻撃が当るの? あんなにリーチが長かったっけ?」
ワイワイと楽しく遊ぶ。
この三人のゲームの腕は、そんなに違いがないだろう。実力よりも、運によって勝敗が決まる事が多い。
何回か遊んでいると、キングがゲームに加わる。
「ミサキの方は付箋に詳しい解説が書いてあったから、ひとりでも進められそうだ。俺もゲームに参戦するぜ!」
ミサキの方をちらりと見ると、付箋を見ながら、ちゃんと勉強をしているようだ。
僕たちはスマブレで、徹底的に遊ぶ事にした。
キングはやはりゲームが上手い。3対1でも、隙を突かれ、ひとりずつ確実に画面外に弾き飛ばして行く。
初めのうちは、3人がかりでも負けていた僕たちだったが、回を重ねる毎に連携ができるようになってきた。
こうなると勝率がかなり跳ね上がる。
「あっ、畜生、また負けた!」
キングが2連敗をして悔しがると、ジミ子がちょっと誇らしげに言う。
「ようやく勝てるようになってきたわね」
「まあ、3対1だからね。でもちょっと疲れてきたな。肩に力が入っていたのか、肩こりが酷い」
僕がそう言うと、ヤン太がコントローラーを置いて、こう言う。
「さすがにちょっと休憩するか。ミサキもかなり宿題が進んだみたいだし」
「そうね。自分でも驚くくらい進んだわ」
数学のドリルをこちらにかざしてドヤ顔をするミサキ。
どうやら珍しく真面目にやっていたようだ。
ミサキの勉強道具をいったん片付けて、そこに各自が持ち寄ったオヤツを並べる。
しばらくオヤツを楽しんだ後、せんべいを食べ終えたヤン太が、部屋の隅にあった段ボールを指さしながら言った。
「アレはネンテンドー64が入っていた段ボールかな?」
「ああ、他のソフトも入ってるぜ、見てみるか?」
「そうだな見てみよう」
段ボールを開けると、レースゲームの『マニオカート64』、ゴルフゲームの『マニオゴルフ64』、パーティーゲームの集合体『マニオパーティー』、スパイの対戦ゲーム『ゴールデン・アイン 007』が入っていた。
「ソフトはこれだけしかないの?」
ミサキがちょっと不思議そうに言う。
「ああ、これだけだな。ネンテンドー64はあまりハードが売れなかったから、ソフトの数も大してないんだ。俺が欲しかったのは、そこにあるゲームくらいかな。成功したゲーム機とはとても言えないぜ」
「こんな所に、ネンテンドーの携帯ゲーム機の『ゲーマーボーイ アドバンスト』も入っているわね」
ジミ子が段ボールの底の方に入っていた『ゲーマーボーイ』を取り出す。
「こっちは、色々とソフトがあるわ」
ミサキが10個以上あるアドバンスト用のソフトを見ながら言った。
ヤン太が、懐かしそうに言う。
「まあ、ゲーマーボーイは流行ったからな」
「そうだね、僕もいくつかソフトを持ってたよ。あっ、このソフトは僕も持っていた」
数あるソフトの中から、僕は『逆転判決』というソフトを取り出した。
このソフトはちょっと変わっていて、裁判と判決をテーマにしたゲームだ。主人公が無罪の被告人の弁護を引き受け、裁判で無罪を勝ち取るといった内容だったはず。
「そういえば、今週の改善政策の内容って、裁判に関わる物だったわよね」
ミサキが思い出したかのように言う。
「ちょっとどうなったか、テレビでも見てみましょうか」
ジミ子がリモコンをいじり、テレビを付けると、臨時番組をやっていた。
テレビの中のアナウンサーが、慌ただしく、こんな事を言う。
「先ほど、曰産の元会長、カーロス・ゴルゴンの弁護団から、緊急発表があると連絡を受け、我々マスコミは都内のホテルに集まっています。5分後に会見が行なわれる予定です」
世間が注目しているカーロス・ゴルゴンの弁護団が、何かを発表するらしい。
これは、宇宙人の改善政策に関係しているのだろうか?




