蚊と浮遊要塞 2
害虫対策の方法を姉ちゃんに聞くと。姉ちゃんから『浮遊要塞』と書かれた段ボールが届いた。
その段ボールを開けると、中からサッカーボールほどの大きさの、宇宙要塞『デット・スター』によく似た機械が入っていた。
この機械は10キロくらいありそうで、やたらと重い。
僕は両手で持ち上げて、この奇妙な機械を眺めてみる。
「なんの機械かな? これ?」
キングが段ボール箱に入っていた紙を見ながら言う。
「これはマニュアルみたいだな。ええと『これは浮遊要塞型の害虫駆除機です。範囲内の害虫をレーザーで撃ち殺します』だってさ」
「物騒な機械ね」
ジミ子が一歩下がり、あからさまに警戒をした。
僕はサッカーボールのような機械を、ぐるりと回して確認をする。すると『ON』と『OFF』書かれたスイッチがあった。
「電源スイッチは、コレかな」
スイッチを『ON』にると、いままで重かった機体が急に軽くなる。そして、空中にふわりと浮いた。
「電池残量98パーセント。害虫撃墜要塞『バグ・バスター』起動しまシタ」
この機械にはスピーカーが付いているようだ。『バグ・バスター』は起動すると、すぐに僕に質問をしてきた。
「ワタシの所有者は『笹吹 ツカサ』さまで良いですか?」
「うん。とりえあず僕で良いと思う」
「初めての使用ですか? 音声ガイダンスを使用しますか?」
「初めてだね。ガイダンスを使うよ」
「デハ、そのように設定しマス、少々お待ち下さい」
少し待っていると、映画『スター・ウォーフ』の『ダーク・ベユダー』のテーマソングが流れてきた。
そして、曲が一通り終わると、「設定終了しまシタ。ツカサ様にフォーヌのお導きを」と声が出て来た。
この出来事に、思わずヤン太が突っ込みを入れる。
「これは大丈夫なのか? 著作権とか、音楽の権利団体とか……」
「うん、どうなんだろうね……」
姉ちゃんはちゃんと許可を得ているのだろうか? とても不安になってきた……
音楽が一通り終わると、バグ・バスターは再び僕に聞いてくる。
「この部屋と隣の部屋に、2匹の蚊がいマス。撃墜しますか?」
「あ、うん。お願い」
「許可を得ました、これより、総攻撃を開始しマス」
そう言うと、再びダーク・ベユダーのテーマソングがかかり、曲のクライマックスにかかると「パピュン、パピュン」という音と共に、壁に向ってレーザー光線を発射した。
レーザーの先には蚊が居たようで、黒い小さな影が落ちる。
ちなみにレーザーの出力は、適切に計算されているようで、壁に焦げ跡などは残っていない。
「雰囲気が良いな!」「かっこ良いわね!」
キングとミサキが絶賛する。演出が過剰な気もするが、意外と格好良いかもしれない。
「これなら蚊も防げそうね。バーベキューをやりましょうか?」
ジミ子が僕らに向けて言うと、みんなが答える。
「おう」「やろうぜ」「やりましょう」
虫を撃退できると分ると、みんな急にやる気を出した。
「ここら辺で、近くのバーベキューが出来る所ってどこだろう?」
僕が質問をすると、キングがすぐに調べて答えてくれた。
「近場だと、この公園かな。4つ先の駅から、さらにバスで15分の場所にあるな。事前に予約が必要らしいけど…… 予約表を見ると、空きはあるらしい、どうする?」
「早い方が良いわ。みんなの予定が大丈夫なら、明日のお昼でも行きましょう!」
このミサキのひと言で、だいたいの予定が決まってしまった。
みんなのスケジュールを確認して、大丈夫だと分ると、すぐにWeb画面から予約を入れてしまう。
ジミ子がミサキの計画性の無さを責める。
「ちょっと、予約するの早すぎるわよ。道具の手配とか、食材とかはどうするの?」
キングがスマフォで調べながら言う。
「基本的な道具はバーベキューをやっている公園で、有料で貸し出しているらしい。食材さえ持っていけば、手ぶらでもOKらしいぜ」
うちにはクーラーボックスがあるので、使わない手はないだろう。
「生の物もあるだろうから、僕の家にあるクーラーボックスを使う?」
僕の言葉を聞いて、ヤン太がこんな提案をする。
「そうだな。じゃあ、いったん、スーパーに行って食材を買い出すか。その後、ツカサの家で、みんなで食材を下ごしらえをして、食材は預かっておいて貰おう。それで良いかな?」
「いいよ、それで行こう」
僕がOKを出して、みんなでスーパーに行くことになった。
僕が玄関を出ようとすると、浮遊要塞のバグ・バスターが僕に向って声を掛けてきた。
「ワタシもツカサ様に、ご同行してよろしいでしょうか?」
「いいよ。移動中も蚊とか退治してくれるんだよね?」
「ハイ。害虫は見つけ次第、退治させて頂きマス。防衛範囲は、何メートルに設定しますか?」
「ええと、じゃあ10メートルでお願いできるかな」
「承知しまシタ。BGMをお掛けする機能もありますがどうしますか?」
「そんな機能もあるの。じゃあお願い」
スーパーまでは、歩いて10分ちょっと。みんなで雑談をしながら移動をする。僕のすぐ近くには、バグ・バスターが音楽を鳴らしながら飛んでいる。
バグ・バスターは、BGMをかけてくれると言っていたが、それは先ほどと同じ、ダーク・ベユダーのテーマソングだった。
真夏の昼間は人通りが少ない。
それでも通行人は居るわけで、全く知らない中学生ぐらいの年齢の子が、この光景をみて笑いをこらえて通りすぎる。
間違いなく、僕らは、あの映画の熱狂的なファンだと思われただろう。
これはちょっと恥ずかしい。その恥ずかしさのあまり、僕は暗黒面に落ちてしまいそうだ。




