農業と農作業 5
アンドロイドの3人の僕は順調に学習を続ける。
学習を開始して2時間ほど経過すると、ちょうどお昼になった。
僕らは作業を休憩し、お昼ご飯にしようという話になった。
「「「ボクらはアンドロイドなので、食事は要らないヨ。みんなで食べてきて。その間も学習をしているヨ」」」
「ああ、うん。じゃあ、僕らはお昼ご飯に行ってくるね」
3人の僕を置いて、みんなと食事に出る。
ちなみに今日の昼食は、バイトの一環として、姉ちゃんが出してくれるらしい。
「お昼は、どこへいく?」
僕がみんなに聞くと、キングがスマフォをイジりながら答える。
「この周り、あんまり店がないぜ。あるのは小さな中華屋と、定食屋。後はちょっと高いうどん屋かな」
「うどん屋へ行きましょうよ。お姉さんのおごりでしょ?」
ミサキが値段につられてうどん屋を選んだ。
「経費として出してくれるみたいだね。他のみんなはうどん屋で良い?」
「いいぜ」「いいわよ」「何でもいいぜ」
特に反対する意見がでないので、僕らはうどん屋に向った。
うどん屋に入り、僕らはメニューを見ながら注文をする。
ミサキは夏野菜の天ぷらと、ご飯とうどんのセット。
ヤン太は担々うどん大盛り。
ジミ子は冷やしたぬきとミニ天丼。
キングは肉うどんと、とろろ麦飯セット。
僕は、炊き込みご飯と、ざるうどんのセットを頼んだ。
値段は1100円から1400円くらいと、ちょっとだけ高い。
メニューを注文すると、いつものように雑談が始まる。話題はもちろん、アンドロイドの僕に関してだ。
「いやぁ、あのスピードは凄いな。俺たちの担当している『ツカサ』は、新聞と農業関係の書籍を読み終わって、今は経済と政治の本棚を読んでるよ」
感心を通り越して、あきれた表情をしながらヤン太が言うと、キングも話し始める。
「俺の担当している『ツカサ』はもっとデーターを読み込んでるみたいだぜ。本と違って、Webだとページをめくる必要が無いから、相当の量を学習しているハズだ」
「それに比べて、僕は全然進んで無いよ。良いアイデアも出てこないし……」
自信を無くしている僕を、ジミ子が励ましてくれる。
「まあ、しょうがないでしょ。あの読書のスピードは、誰がやってもかなわないわよ」
「そうだな。もう今までのミサキの読書量くらいは、軽く上回ったんじゃないか? ミサキはあまり本を読まないからな」
ヤン太がちょっと冷やかすと、ミサキは反論をする。
「いや、そんな事はないわよ。私だって本くらい読んでいるんだから」
「じゃあ、あのベスト1000の中で、何か読んだタイトルはあったの?」
僕が聞くと、ミサキは深く考え込んだ。
「……ええと、ちょっとまってね。なにか、なにかタイトルを思い出すから」
ミサキは本当に本を読まない。まあ、ベスト1000の中だと、さすがに2~3冊くらいは読んでると思いたいが……
そんな会話をしていると、注文していたうどんがやって来た。
僕らは話を中断して、うどんを食べ始める。値段がちょっと高いだけあって、かなりおいしい。おそらく手打ちなのだろう、麺がとても滑らかだ。
あっという間にうどんを食べ終えると、アンドロイドの僕たちの待っている図書館へと、再び向う。
図書館に戻ると、キングが担当している僕は既に学習を終えていた。
ヤン太とジミ子が担当している僕は、農業のコーナーの本を一通り読み終わり、経済と政治のコーナの本を片っ端から読んでいる最中だ。
ミサキが担当をしている僕は、売り上げ書籍トップ1000のうち、およそ400を読み終わっていた。
キングが頭を抱えながら言う。
「あー、次はどうしようか…… そうだ、外国で討論している掲示板を見てみるか? アンドロイドのツカサは、英語とか読めるのか?」
「問題ないヨ。全ての言語を理解しているヨ」
「そうか、じゃあそれで頼む、海外でこの農業問題について討論しているトゥイートや記事、掲示板を調べてくれ」
「分ったヨ」
ヤン太がジミ子に、これからの作業について相談をする。
「もうそろそろ、経済と政治の書籍も読み終わりそうだな……」
「こっちは、どうしましょうか…… あっ、そうだ。確か古い新聞を閲覧できる端末があったから、それ使って記事を読ませましょう」
「そうだな。意見が偏らないように、複数の新聞社の記事を読ませるか」
ヤン太とジミ子の方針が決まる。
ミサキは本を読み続けているアンドロイドの僕を見てから、オリジナルの僕に向って言う。
「この分だと、夕方までには、かなり読み終わりそうね。そういえば、今日の予定はどうなってるの?」
「ええと、午後4時に姉ちゃんの会社に行って、みんなで直前の打ち合わせ。
午後4時30分からは、姉ちゃんと、僕と僕のアンドロイドだけが農水省に移動。
午後5時から農水省の会議室で、地球の農家の人たちと話し合いの予定かな」
「私らは農水省に行かなくてもいいのよね?」
「うん。その予定だけど、ミサキ達も付いてきても良いと思うよ。どうする?」
するとミサキはこう言った。
「私が行かなくても良いんじゃない。ほら、アンドロイドのツカサが問題を解決してくれそうだし……」
一冊、また一冊と、淡々と読み進める僕を見ながら言う。
「まあ、そうかもね」
アンドロイドの学習スピードに、人間の僕が敵うはずがない。
ここは3人の僕達に任せた方がよさそうだ。
こうして人間達は、入り口近くのベンチに座り、缶コーヒーを飲みながら雑談をする。
一応、農業問題についても考えるが、特に良いアイデアは出てこなかった。
やがて夕方になり、全員で姉ちゃんの会社に移動する。
姉ちゃんの会社に行くと、受付のロボットに案内され、会議室へと通される。
しばらくすると姉ちゃんが現われて、僕らに向けてこう言った。
「どうあなた達、何か良いアイデアが思い浮かんだ?」
みんなを代表して僕が答えようとすると、先にアンドロイドの僕たちが、こう答えた。
「「「良いアイデアは、思いつきましたヨ」」」
「頼もしいわね。で、弟ちゃん本人の方はどう?」
「僕の方は全然思いつかなかったよ。実は今日はこんな事をやっていたんだ」
3人のアンドロイドに、それぞれ違った学習をさせた事を、姉ちゃんに報告する。
すると、姉ちゃんは、うんうんと、うなずきながら聞いてくれた。
「あなたたち、面白い事をするわね。それで、人間チームは、あまり良いアイデアが出なかったと」
「あの学習スピードには敵わないと思った、もう、ロボット任せで良いと思ったよ」
ヤン太が正直な感想を言うと、3人の僕達は否定する。
「「「ロボットではないよ。アンドロイドだヨ」」」
「おお、そうだった。アンドロイドだった」
そのやり取りを見ていて姉ちゃんは何かを思いついたらしい。
「そうね。アンドロイド任せでも良いかもね」
その後は、今日一日の詳細な報告をする。
姉ちゃんと話し込んでいると、会社のロボットが、こう言った。
「そろそろお時間デス。移動をお願いしマス」
「おっと、もうこんな時間か。じゃあ、バイト代は弟ちゃんに渡しておくから後でもらってね。今日は本当にありがとう、またよろしくね」
ヤン太やミサキ達と別れて、姉ちゃんと僕と僕達は『どこだってドア』をくぐり、農水省へと移動した。
これから本格的な会議が始まる。




