表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

303/567

第29回目の改善政策

 今日も福竹アナウンサーと宇宙人が画面に映る。


「こんにちは、今週も改善政策の発表の時間となりました」


「ヨロシクネー」


 お昼になり、いつもの番組が始まった。



 今週はどのような改善が発表されるのだろうか?

 気になって見ていると、福竹アナウンサーが先週の改善政策の内容について触れる。


「私も例の飛行船に乗ってみました。あれはとても快適ですね。ほとんど揺れませんでした」


「船の航行システムはワレワレの宇宙船と同じだからネ。安全性は保証するヨ」


「そうですか。もしかして台風や竜巻の中でも、特に問題ありませんか?」


「問題ないネ。船に影響が出始めるのは、風速960kmくらいからネ」


「風速960kmですか…… そんな風は地球上だと起こりませんね」


「ソウネ、この惑星だと自然には起こらないネ」


 宇宙人の作った物だから、かなり丈夫な物だと思ったが、それは僕の予想を遙かに超えていた。

 風速960kmなら、台風などはもちろん、大型の竜巻に突っ込んでも平気だろう。



 素晴らしい飛行船なのだが、この話題が出たとき、宇宙人は、ちょっと怪訝(けげん)な顔をした。

 その表情を読み取った福竹アナウンサーが、すかさず質問をする。


「あの飛行船に関して、何か問題でもあったのですか?」


「いくつかの環境保護団体からクレームが入って来てるのヨ」


「どのようなクレームです?」


「先週は、『飛行船』と『転送ゲート』を発表したじゃナイ?」


「ええ、『飛行船』だけではなく『転送ゲート』。瞬時に移動できるドアも、交通の要所に配置しましたね」


「飛行船はこの惑星で流通している燃料、つまり、軽油やガソリンで動くようにしたんだケド、一部の環境保護団体がサ、この惑星の事を考えるなら、飛行船は全て『転送ゲート』にしろって言うのヨ。そうすれば『二酸化炭素排出量がゼロにできる』って主張してきたのヨ」


「また無茶な提案ですね。ところで『転送ゲート』は、一日辺り、どれくらい作れるんですか?」


「一日に60台程度が限界ネ。全世界の移動手段として全て置き換えるには、かなり時間が掛ると環境保護団体に説明してたんだケド、まったく理解をしてくれないのヨ」


「……それは、困りましたね」


 一部の環境保護団体は、主張が極端な団体もある。

 先週の改善政策で、かなり燃費などが良くなったと思うのだが、どうやらそれでも満足できないらしい。



 この問題に対して、宇宙人は、どう対応を取るのだろう?

 テレビを食い入るように見ていると、宇宙人はこんな事を言い出す。


「ソコデ、地球環境の事を考えて、コノ計画を実行するヨ」


 そういって紙のテロップを取り出してきた。

 そこには衝撃的な内容が書いてあった。


『火星、移民者募集!』


 驚いた表情を浮かべた後、福竹アナウンサーが、この計画の詳細を聞き出す。


「火星への移民ですか? 今まで火星には『刑務所』と『学習収容所』はありましたが、これは本格的な移住になるのでしょうか?」


「ソウネ。火星にワレワレが国家を作って、その国の住民になって貰うヨ。この惑星は、今の生活レベルだと、人類の人口を支えきれないネ」


「なるほど、そうかもしれません。火星に多くの人類が移住すれば、その人数分だけ、地球への負担は軽くなりますね」


 どうやら、地球の環境保護の為、火星への移住者を募るようだ。



 福竹アナウンサーが、この『火星の移民者』について、矢継ぎ早に質問をしていく。


「今回は自主的な募集ですよね? 募集にあたり、何か条件や資格は要りますか?」


「特に無いネ。移住する意欲のある者なら歓迎するヨ」


「募集する人数はどれくらいでしょう?」


「マズは12万人ネ。その後、一ヶ月で8万人づつ追加していく予定ネ」


「住宅などはどうなります?」


「移住する家族の人数によって、十分な部屋の広さのアパートを割り当てるヨ。不動産は個別の販売はせず、全て国から割り当てるネ」


「住宅は支給されるわけですね。では、仕事は、どうなります? 火星には何か産業とかあるんでしょうか?」


「まずは農業に従事して貰うヨ。食料生産さえ安定すれば、国家として安泰(あんたい)だからネ。ソレに呼吸するには酸素が必要デショ? 環境の構築を考えれば、植物の栽培は必須だよネ」


 どうやら火星の産業は、農業が主体らしい。

 確かに食料は必要だし、それ以上に酸素は必要だ。

 食料も酸素も得られる農業は、確かに言われてみれば、火星では必須だろう。



 何となく火星の国の概要が掴めたところで、福竹アナウンサーが感慨深(かんがいぶか)く、独り言のように言う。


「いよいよ人類も本格的に火星に進出ですか…… 新たな歴史が始まるかもしれませんね」


「ソウネ、今年が火星歴(かせいれき)、元年になるのかもネ」


「まさか、環境保護団体も、こんな解決法に行き着くとは思っていなかったでしょうね」


「本当は、生活レベルを落とせば、地球でも充分なんだケドネ」


「そうなんですか?」


「石油や電気を使わない生活を送れば問題ないネ」


「……それは厳しいですね」


「ソウネ。ソレをやると、他に問題が出てくるので、秘書にも強く止められたヨ」


「秘書って笹吹(ささぶき)アヤカさんですよね?」


「ソウネ。ソレに、極度の節制は、文化レベルの衰退にも繋がるからネ。節制を強いる人間には、火星にその環境を用意するカラ、そこで過してみるのもイイかもネ」


 一部の環境保護の為に、石油や電気を禁止された生活を送るのはやりすぎだろう。

 生活レベルを守る為に、火星への移住も、やりすぎの気もするが……



 周りのスタッフに声をかけられ、福竹アナウンサーが時計を見た。


「さて、そろそろお時間です。いつものアンケートのご協力をお願いします」


 アンケートが表示され、僕は「今週の政策は『良かった』」「宇宙人を『支持できる』」に投票する。



 しばらくすると集計結果が表示された。


『1.今週の政策はどうでしたか?


   よかった 68%

   悪かった 32%


 2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?


   支持する 71%

   支持できない 29%』


 火星での移住が出来るようになっても、やはり地球で暮らしたいのだろう。そこそこ反対票に投じる人が居た。



「それでは、来週もお会いしましょう」


「マタネー」


 福竹アナウンサーと宇宙人がお別れの挨拶をして、番組は終了した。

 どうやら人類は、新たな住処を手に入れた様だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ