第29回目の改善政策
今日も福竹アナウンサーと宇宙人が画面に映る。
「こんにちは、今週も改善政策の発表の時間となりました」
「ヨロシクネー」
お昼になり、いつもの番組が始まった。
今週はどのような改善が発表されるのだろうか?
気になって見ていると、福竹アナウンサーが先週の改善政策の内容について触れる。
「私も例の飛行船に乗ってみました。あれはとても快適ですね。ほとんど揺れませんでした」
「船の航行システムはワレワレの宇宙船と同じだからネ。安全性は保証するヨ」
「そうですか。もしかして台風や竜巻の中でも、特に問題ありませんか?」
「問題ないネ。船に影響が出始めるのは、風速960kmくらいからネ」
「風速960kmですか…… そんな風は地球上だと起こりませんね」
「ソウネ、この惑星だと自然には起こらないネ」
宇宙人の作った物だから、かなり丈夫な物だと思ったが、それは僕の予想を遙かに超えていた。
風速960kmなら、台風などはもちろん、大型の竜巻に突っ込んでも平気だろう。
素晴らしい飛行船なのだが、この話題が出たとき、宇宙人は、ちょっと怪訝な顔をした。
その表情を読み取った福竹アナウンサーが、すかさず質問をする。
「あの飛行船に関して、何か問題でもあったのですか?」
「いくつかの環境保護団体からクレームが入って来てるのヨ」
「どのようなクレームです?」
「先週は、『飛行船』と『転送ゲート』を発表したじゃナイ?」
「ええ、『飛行船』だけではなく『転送ゲート』。瞬時に移動できるドアも、交通の要所に配置しましたね」
「飛行船はこの惑星で流通している燃料、つまり、軽油やガソリンで動くようにしたんだケド、一部の環境保護団体がサ、この惑星の事を考えるなら、飛行船は全て『転送ゲート』にしろって言うのヨ。そうすれば『二酸化炭素排出量がゼロにできる』って主張してきたのヨ」
「また無茶な提案ですね。ところで『転送ゲート』は、一日辺り、どれくらい作れるんですか?」
「一日に60台程度が限界ネ。全世界の移動手段として全て置き換えるには、かなり時間が掛ると環境保護団体に説明してたんだケド、まったく理解をしてくれないのヨ」
「……それは、困りましたね」
一部の環境保護団体は、主張が極端な団体もある。
先週の改善政策で、かなり燃費などが良くなったと思うのだが、どうやらそれでも満足できないらしい。
この問題に対して、宇宙人は、どう対応を取るのだろう?
テレビを食い入るように見ていると、宇宙人はこんな事を言い出す。
「ソコデ、地球環境の事を考えて、コノ計画を実行するヨ」
そういって紙のテロップを取り出してきた。
そこには衝撃的な内容が書いてあった。
『火星、移民者募集!』
驚いた表情を浮かべた後、福竹アナウンサーが、この計画の詳細を聞き出す。
「火星への移民ですか? 今まで火星には『刑務所』と『学習収容所』はありましたが、これは本格的な移住になるのでしょうか?」
「ソウネ。火星にワレワレが国家を作って、その国の住民になって貰うヨ。この惑星は、今の生活レベルだと、人類の人口を支えきれないネ」
「なるほど、そうかもしれません。火星に多くの人類が移住すれば、その人数分だけ、地球への負担は軽くなりますね」
どうやら、地球の環境保護の為、火星への移住者を募るようだ。
福竹アナウンサーが、この『火星の移民者』について、矢継ぎ早に質問をしていく。
「今回は自主的な募集ですよね? 募集にあたり、何か条件や資格は要りますか?」
「特に無いネ。移住する意欲のある者なら歓迎するヨ」
「募集する人数はどれくらいでしょう?」
「マズは12万人ネ。その後、一ヶ月で8万人づつ追加していく予定ネ」
「住宅などはどうなります?」
「移住する家族の人数によって、十分な部屋の広さのアパートを割り当てるヨ。不動産は個別の販売はせず、全て国から割り当てるネ」
「住宅は支給されるわけですね。では、仕事は、どうなります? 火星には何か産業とかあるんでしょうか?」
「まずは農業に従事して貰うヨ。食料生産さえ安定すれば、国家として安泰だからネ。ソレに呼吸するには酸素が必要デショ? 環境の構築を考えれば、植物の栽培は必須だよネ」
どうやら火星の産業は、農業が主体らしい。
確かに食料は必要だし、それ以上に酸素は必要だ。
食料も酸素も得られる農業は、確かに言われてみれば、火星では必須だろう。
何となく火星の国の概要が掴めたところで、福竹アナウンサーが感慨深く、独り言のように言う。
「いよいよ人類も本格的に火星に進出ですか…… 新たな歴史が始まるかもしれませんね」
「ソウネ、今年が火星歴、元年になるのかもネ」
「まさか、環境保護団体も、こんな解決法に行き着くとは思っていなかったでしょうね」
「本当は、生活レベルを落とせば、地球でも充分なんだケドネ」
「そうなんですか?」
「石油や電気を使わない生活を送れば問題ないネ」
「……それは厳しいですね」
「ソウネ。ソレをやると、他に問題が出てくるので、秘書にも強く止められたヨ」
「秘書って笹吹アヤカさんですよね?」
「ソウネ。ソレに、極度の節制は、文化レベルの衰退にも繋がるからネ。節制を強いる人間には、火星にその環境を用意するカラ、そこで過してみるのもイイかもネ」
一部の環境保護の為に、石油や電気を禁止された生活を送るのはやりすぎだろう。
生活レベルを守る為に、火星への移住も、やりすぎの気もするが……
周りのスタッフに声をかけられ、福竹アナウンサーが時計を見た。
「さて、そろそろお時間です。いつものアンケートのご協力をお願いします」
アンケートが表示され、僕は「今週の政策は『良かった』」「宇宙人を『支持できる』」に投票する。
しばらくすると集計結果が表示された。
『1.今週の政策はどうでしたか?
よかった 68%
悪かった 32%
2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?
支持する 71%
支持できない 29%』
火星での移住が出来るようになっても、やはり地球で暮らしたいのだろう。そこそこ反対票に投じる人が居た。
「それでは、来週もお会いしましょう」
「マタネー」
福竹アナウンサーと宇宙人がお別れの挨拶をして、番組は終了した。
どうやら人類は、新たな住処を手に入れた様だ。




