第28回目の改善政策 2
地球温暖化対策として、宇宙人が『運輸、運送部門』での改善を行なうと言う。
明石市の展望台の外を指さすと、すぐそばに空飛ぶバスが止まっていた。
「おお、あれは空を飛ぶバスですね、ニュースで見ました。このバスが温暖化対策の切り札ですか?」
福竹アナウンサーが宇宙人に聞く。
「コレは近距離に対応する交通手段ネ。充電池で走るカラ、ガソリンのバスを置き換える事で温暖化ガスが出なくなるネ」
「近距離、という事は長距離は別の手段があるわけですか?」
「ソウネ。二つの手段を考えているネ」
「それはどのような手段なのです?」
「一つは、低速の飛行機ネ。この惑星の飛行機は、およそ時速800~900キロメートルで移動するんだケド、ワレワレは時速400~500キロで移動する飛行機を制作するネ」
「低速ですか? ちょっと予想外ですね。宇宙人さんなら、超高速の飛行機も作れると思ったんですが……」
「超高速の飛行機だと大気に悪影響が出るネ。今回の議題は環境対策がメインだからネ」
「なるほど。超高速で移動できる乗り物があれば、乗ってみたかったですね……」
「超高速の移動手段なら飛行機ではないケド、他に用意したヨ。ソレがもう一つの手段ネ。これから見に行くカネ?」
「是非、見たいです!」
「デハ、移動をするネ」
宇宙人が手で合図をすると、展望台の窓の外にある空飛ぶバスが、火災の時に使う緊急脱出用の窓に接岸をする。福竹アナウンサーと宇宙人、そしてスタッフの人々は、そのまま窓からバスに乗り込んだ。
確かに福竹アナウンサーの言うとおり、宇宙人の作る超高速の乗り物があれば見てみたい。
空飛ぶバスにのった福竹アナウンサーは、ちょっと興奮気味に解説をする。
「おお、揺れは全く感じませんね。乗り心地は快適で、室内はとても広く感じます。ところでどこへ向っているのでしょうか?」
「着いたネ、明石駅ダヨ」
「そうですか、もう少し乗っていたかったですが、仕方ありません。降りましょう」
バス後部にあるエレベーターを使って全員が降りる。
宇宙人は駅の中に入っていき、ICカードを懐から取り出すと、タッチして自動改札をくぐり抜ける。福竹アナウンサーとスタッフは、慌ててその後を追っていく。
自動改札をくぐり抜けた大きなホールのような場所に、見慣れたドアが10枚以上、ずらりと並んであった。それはピンク色の『どこだってドア』だ。
それを見た福竹アナウンサーは納得したように語り出す。
「なるほど、『どこだってドア』ですか。確かに空間を繋いでしまえば、これほど時間の掛らない移動手段はありませんね。環境にも優しいですし」
「今まで使ってきた『転送ゲート』は、ワレワレが母星から持ち込んだモノだったネ。5日前に月面に『転送ゲート』の製造工場が出来たヨ」
「おおっ、それではこれから、この『どこだってドア』、いや正式名称は『転送ゲート』ですか。この『転送ゲート』を人類は自由に使えるようになるのですか?」
「まだ生産数が限られているカラ、自由に使える状態では無いネ。この国は鉄道が発達しているカラ、それを利用させてもらうヨ。主要都市にある駅を結び、長距離移動は『転送ゲート』を使い、中距離、短距離の移動は、鉄道とバスという手段をとるネ」
「なるほど。どういった都市を結ぶのでしょうか?」
「『転送ゲート』の上に、駅名が書いてあるネ」
カメラはドアの上に表示されている駅名を中央から映し出す。
新大阪駅、名古屋駅、東京駅、新潟駅、仙台駅、青森駅、札幌駅。
広島駅、高知駅、福岡駅、鹿児島駅、那覇空港駅。
どうやら全国に散らばる代表的な駅を結んでいるようだ。
「おお、これは凄い。しかし、これだと、この場所に人が集中しすぎてしまいませんか?」
確かに。長距離移動する人が全て明石駅に集まってしまうと、身動きが取れなくなるほど混雑しそうだ。
「ソレは大丈夫ネ、試しに適当な場所に移動してみてヨ」
「わかりました。では近くの高知駅辺りに入ってみましょう」
福竹アナウンサーは、扉をガチャリと開けて中に入る。
高知に移動すると、カメラは当りを見渡す。すると、そこには複数の『どこだってドア』があった。
行き先を見ると、明石駅、広島駅、新大阪駅と、三つの駅の名前がある。
「これは…… 需要の多い目的地は、直接、繋げているのですか?」
「ソウネ。交通量に応じて配置してあるヨ」
「では、今度は新大阪駅に入ってみましょう」
福竹アナウンサーがドアをくぐると、そこには9枚のドアがあり、明石駅、名古屋駅、高知駅、広島駅、福岡駅、関西空港駅、そして東京駅行きのドアが3つあった。
「なるほど、直接行けるのであれば、明石駅に人が集中する事も無さそうです」
福竹アナウンサーの言うとおり、このシステムなら明石駅に人が集中しないだろう。むしろ、明石駅にあそこまでドアを並べなくてもいい気がしてきた。新大阪駅と明石駅の間だけでも良い気がする。
カメラは『関西新空港』のプレートを映し出す。
「空港の名前が出て来たという事は、もしかして空路も繋げる予定ですか?」
「ソウネ。主要な航空路線は繋げる予定ネ」
「それは気軽に海外に行けそうですね。これなら料金も安くなりそうです」
金の話が出て来て、福竹アナウンサーの目つきが急に鋭くなる。しかし、宇宙人はそれを否定した。
「安くは無いネ。鉄道だとグリーン席の値段。飛行機だと、ビジネスクラスの値段を取る予定ネ」
「何故です? ほとんどタダみたいな物じゃないですか!」
福竹アナウンサーが語気を荒げる。すると、宇宙人はこう説得する。
「普通列車と特急列車、どちらが高いカネ?」
「そりゃあ、特急列車ですが……」
「この惑星では、特急列車だと早く目的地に着けるカラ、高い料金を取っても良いシステムなんだよネ? そのルールだと、一番早く目的地に着けるこの移動手段は、一番、高額でしかるべきじゃないカナ?」
「まあ、そうかもしれませんね……」
「ソレニ、このゲートをタダにしても良いんだケド、タダにすると、目的も無く移動をくり返す人が増えるって、秘書が言ってたヨ。『転送ゲート』も繋げている間は、電力を消費するカラ、出来るだけ無駄は省きたいネ」
「なるほど、言われてみれば確かにその通りですね。でも、何とか安くなりませんか?」
話を聞いていたにも関わらず、福竹アナウンサーは食い下がる。
「分ったネ。温暖化対策が進み、地球の環境が良くなったら、大幅な値下げをするヨ」
「みなさん、確約を取りました! 一人一人が意識をして温暖化対策をがんばりましょう!」
気軽に遠出できるようになるのは嬉しいが、地球環境の改善は簡単では無いだろう。値下げされるのは、一体、いつになる事やら……
福竹アナウンサーが時計をチラリと確認した。
「そろそろお時間のようです。アンケートのご協力をお願いします」
このシステムでどれだけ二酸化炭素が減るのか分らないが、少なくとも増える事はないだろう。僕は「今週の政策は『良かった』」「宇宙人を『支持できる』」に投票する。
しばらくすると集計結果が表示された。
『1.今週の政策はどうでしたか?
よかった 84%
悪かった 16%
2.プレアデス星団の宇宙人を支持していますか?
支持する 73%
支持できない 27%』
ほとんどの人が賛成しているようだ。
「それでは、来週もお会いしましょう」
「マタネー」
別れの挨拶が終わり、無事に改善政策の番組が終わった。
しかし、この改善だけでは、温暖化対策は完璧には防げていない気がする。何か個人で出来る事も考えなければならないかもしれない。




