表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

294/567

第28回目の改善政策 1

 今日は改善政策の日だ。リビングのテレビを付けて、正午になるのを待つ。

 やがて、いつもの番組が始まった。


「皆さま、こんにちは。28回目の改善政策の発表です。今日もよろしくお願いします」


「ヨロシクネー」


「さっそくですが、今日は何を発表するのでしょうか?」


 福竹アナウンサーが、はやくも宇宙人に議題を振る。すると、宇宙人はテロップを出しながら言った。


「今回はこれネ」


 テロップには『地球温暖化問題』と書かれていた。



「『地球温暖化問題』ですか? そういえば最近、ニューヨークで気候サミットも行なわれて、話題になりましたね」


「ソウネ。色々と話題になったスピーチもあったネ」


「そういえば、大西洋をヨットで横断してきた子も居ましたね。わざわざヨットにした理由は『飛行機は二酸化炭素を排出して環境に良くないから、使わない』という感じでしたっけ?」


「ソレなんだけど、ちょっとおかしくナイ? 本当に環境の事を考えているなら、インターネットでメッセージを中継する方が環境に良くナイ? わざわざ移動する必要無いデショ?」


「……ええ、まあ、そうですね。手間と時間を掛けて、移動する必要は無かったですね」


「他にも環境大臣の発言で『環境問題は宇宙人に解決してもらうのがセクシーだと思います』という発言で、ワレワレの名前が出たカラ、どういう意図で発言したのか確認をしたのヨ。そうしたら具体的な内容は全く考えていなくて無計画(ノープラン)だったネ」


「……うちの国の大臣がご迷惑をかけ、申し訳ありません」


 福竹アナウンサーが日本を代表して謝った。



 謝罪の長く深い一礼を終えると、福竹アナウンサーはいつもの様に番組を進行する。


「それで、具体的には、どのような温暖化対策をするのでしょうか?」


「まずは、最も二酸化炭素を排出している『エネルギー変換部門』を見直そうと思ったネ」


「それは、いわゆる『発電事業』や『発電所』を見直すと思ってよろしいでしょうか?」


「ソウネ。でも、この分野は、ワレワレがあまり手を出さなくても大丈夫だったネ」


「なぜでしょう?」


「人類の技術だけで『核融合炉』の試作機が既に出来てるからネ。3~5年後には実用に移れるデショ」


「……いつの間にかそんな物を作っていたんですね。それは、一体、どの国で作っているんでしょう?」


「一番近くダト、この国でも作っているヨ。あまり知られていないニュースらしく、一般人が知らないのはしょうがないケド。なぜか、この国の大臣も知らなかったヨ」


(かさ)(がさ)ね、本当に申し訳ありません」


 福竹アナウンサーは再び謝罪をした。



 福竹アナウンサーが頭を下げていると、横から手書きのテロップを渡される。それにはこんな文字が書いてある。


『核融合炉とは何でしょう?』


 テロップを手で押さえながら、福竹アナウンサーは宇宙人に質問をする。


「ええと、私のおぼろげな知識だと、『核融合炉』とは、水素をくっつけて、ヘリウムにすると、エネルギーが出てくるというヤツですよね?」


「ソウネ。この国で作っている『核融合炉』は水素でなく、重水素を使うみたいだケド。実用的なスペックは備えているネ」


「『核融合』というと怖いイメージがあるんですが、安全性はどうなんでしょうか?」


「安全でクリーンなエネルギーだヨ。放射性廃棄物も一切出ないネ。有害性で言ったら『核融合炉』の敷地に居るよりも、タバコを吸っている人の隣に居る方が、よほど有害ダヨ」


「なるほど、よくわかりました」


 福竹アナウンサーが、カメラの脇を見る。すると、カメラもそれを追って、スタッフの一人を映し出した。

 おそらくこの人はタバコを吸う人なのだろう。その人は、気まずそうに両手を合わせ、ごめんなさいのポーズを取った。



 福竹アナウンサーが何かを思いついたらしい、宇宙人に質問をする。


「ところで、『核融合炉』のエネルギー効率ってどのくらいなんでしょう?」


「この国の試作機だと、重水素ガス1グラムで石油約8トン分らしいネ」


「1グラムで、8トンですか…… ちょっと想像がつかないですね」


「具体的な映像にすると、こんな感じネ」


 宇宙人が手で合図をすると、プロパンガスのガスボンベの映像が現われた。


「一般的なガスボンベですが、この量を核融合炉で使い切ると、どうなるのでしょうか?」


「この大きさのボンベだと、1260グラム入るネ。石油に直すと10,080トンになるネ」


「ええと、私達が普段目にする14トンの大型タンクローリー車に直すと、およそ720台分ですか、途方もない量ですね」


 街で見かけるあのバカでかいタンクローリー車が720台分。それが、あのプロパンガスのガスボンベに収まるわけか、廃棄物もヘリウムだけっぽい。ヘリウムガスと言えば、声が高くなる、おもちゃのガスと成分は一緒のはずだ、害はほとんど無いだろうし、しかも二酸化炭素は一切出ない。これは未来のテクノロジーと言っても良いだろう。



 なかなか良い改善政策だと思っていたが、福竹アナウンサーが何かに気がついたようだ。


「すいません。ちょっと気になったんですが、この『核融合炉』は人類が作ったんですよね?」


「ソウネ、人類の技術だけて作られたネ」


「それだと、宇宙人さんは何もしていないのでは……」


 確かに福竹アナウンサーの言うとおりだ、今週の改善政策で宇宙人は、人類の作った核融合炉の紹介しかしていない。



 福竹アナウンサーの言葉を受けて、宇宙人はこう言った。


「『核融合炉』だけでは、人類の二酸化炭素削減量の目標に達成しないネ。ソコデ、ワレワレが『運輸、運送部門』での改善をするネ」


 そういって窓の外を指さす。

 中継をやっている明石市の展望台のすぐ外に、いつのまにか空飛ぶバスが停泊していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ