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山と雲海 2

 雲海の上でサイクリング出来る観光スポットを見つけ、僕らはそこへ旅行する事にした。


 僕らは朝の5時30分に地元の駅に集まる計画を組んだ。

 こんなに早く集まるのは、丁R(ていあーる)青舂(せいしょう)18切符を使い、少しでも交通費を安くする為だ。普通列車しか使えず、時間はやたらとかかるが、片道の料金で往復できるのは、とても大きい。



 そして、旅行の当日となった。


 僕はミサキの家に寄り、半分眠っているミサキを連れ出して、地元の駅へと向う。

 駅に着くと、みんなが待っていた。


「おはよう、みんな」


「おはよう、じゃあ集まったし、さっそく出発するか」


 ヤン太を先頭に、僕らは駅の自動改札を通過する。



 私鉄から、丁R(ていあーる)の通勤電車に乗り、ターミナル駅へと着いた。さらに、そこから地方へと向う長距離列車へと乗り込む。

 この時点で、時刻は6時20分。この時間の普通列車はまだ()いていて、僕らはボックス席を確保すると、ここで一息つく。


「ふう、あとはこのまま長ヶ野(なががの)駅まで、2時間半くらい乗っていれば良いんでしょ?」


 ジミ子が足を伸ばしながら言う。すると、キングがスマフォで、今日のスケジュールを確認しながら言った。


「そうだな。その後、私鉄で40分、さらにバスで30分、最後にロープウェイで10分で到着だ」


「まだまだ長いわね。ちょっと早いけど、朝ご飯を食べちゃいましょうか」


 ジミ子がリュックサックから、コンビニのパンを取り出しながら言った。


「人が混んでくる前に食べちまうか」「そうだな、とっとと食べちまおうぜ」


 ヤン太やキングも、それぞれ、おにぎりや駅弁を取り出しながら言う。


「ちょっと待って。私は何も持って来てないわよ!」


 ミサキが急に焦り出す。事前に流した告知のメールを見ていなかったのだろうか?


「あっ、今から駅弁を買ってこよう」


 ミサキが席を立とうとすると、ジミ子が突っ込む。


「もう電車が出るわよ」


「そんなぁ~」


 本気で泣きそうなミサキに、僕の朝食を分けてあげる事にした。


「ミサキ、安いパンでよければ、多めに持って来たけど、食べる?」


「食べる、食べます。さすがツカサ。いえ、ツカサ様々だわ」


 僕は姉ちゃんから借りた、重力遮断装置付じゅうりょくしゃだんそうちつきのクーラーボックスの蓋を開ける。


 クーラーボックスの中には、6個入りのロールパンの袋が二つ、それに付ける苺ジャムとマーガリン。

 飲み物は、麦茶3リットルと、近所のディスカントストアで買った、聞いた事のないメーカーのジュースをたくさん入れてきた。

 ちなみに、どんなに中を詰め込んでも、重力遮断装置のおかげで重量は700グラムにしかならず、これだけ荷物を詰め込んでも、僕のクーラーボックスがみんなの中で最も軽い。


「はい、これどうぞ」


 僕がミサキに6個入りのロールパンを袋を一つ渡す。


「ありがとう、いただくわね」


 そう言うと、次々とロールパンは消えていった。僕は半分の3つほど食べて、あとは残すつもりだったが、この余った分は、ミサキの腹の中に消えていった。

 多めに持ってきたつもりだったが、全然足りなかったようだ。



 窓の外をながめながら、いつも通りの何気ない会話を続ける。

 この後、2時間ほど電車に揺られて、長ヶ野(なががの)駅へと着いた。



 駅に着くと、僕らは小走りで移動を開始する。

 これから私鉄に乗り換えるのだが、乗り換え時間があまり無い。もし乗り継ぎに失敗すると、無駄に30分間、待つ事になる。18切符の旅は忙しい。


「ああ、ちょっと駅弁、買っていきたいんだけど……」


 移動中、弁当屋を見つけてミサキが言うが。


「そんな時間は無い!」


 ヤン太が強く否定されて、ミサキは恨めしいそうな目をしながら、弁当屋の前を通りすぎる。



 弁当屋をあきらめた事で、僕らはどうにか電車に間に合った。

 座席に座り、息を整える。


「ふう、何とか間に合ったわね」


 ジミ子がちょっと疲れた様子で言った。


「まさかICカードが使えないとは思わなかったな」


 ヤン太がpasuno(パスノ)のカードをジト目で見ながら、ため息をついた。


「何か変わったICカードは使えるみたいだったよね?」


 僕が、改札の横に貼ってあったポスターを思い出しながら言う。するとキングがすぐにスマフォで調べる。


KURURURU(くるるる)ってICカードだったら、使えたみたいだぜ」


 聞いた事がないICカードの名前が出て来た。ここは僕らの住んでいる地域と、全く違うようだ。



「おべんとうぅ~、食べたかったなぁ~」


 ミサキが駅弁が食べれなかった事を引きずっている。


「あんだけパンを食べたのに……」


 思わずジミ子がつぶやくと、ミサキはこんな言い訳をする。


「パンは空気みたいな物だわ。いくらもでも食べられるもの」


 確かに、ご飯と比べれば量は食べられるが、『いくらでも』は、さすがに言い過ぎの気がする。

 僕もジミ子のように、真っ向から否定しても良いが、こんなどうでもいい事で、言い争いをするのもばかばかしい。僕はミサキを励ます事にした。


「駅弁は帰りに食べればいいじゃない。それに、ほら、ここでお腹を空かせておけば、頂上で食べる予定の、ソフトクリームがより美味しく感じるよ。おごってあげるからさ」


「そ、そうね。あのプレミアムソフトクリーム、これでより美味しくなるわよね」


 ミサキが顔を上げ、笑顔で答える。

 普通、あれだけパンを食べていれば、ソフトクリームは食べられないと思うが、ミサキなら平気だろう。



 この後、私鉄に40分揺られて、終着駅の湯中田(ゆなかだ)駅に着いた。


 湯中田という名前なのだから、温泉地として栄えているのだろう。

 僕はそう考えていたが、現実は違った。


 駅前には、さびれた、お土産や、定食屋しかなく、人影はまばらだ。

 そんな中、ジミ子がある看板を見つける。


「日帰り温泉の施設が駅前にあるみたいね。帰りに時間があったら寄っていく?」


「そうだね。できれば寄っていきたいね」


 僕が言うと、みんなはそれに賛成してくれた。



 温泉施設を横目で見つつ、僕らはバスに乗る。


 バスはやがて発車すると、狭い温泉街の道を抜け、森の中の山間の道をどんどんと登り、山の(ふもと)のロープウェイの駅へと着いた。


 バスの外に出ると、夏にもかかわらず、少し肌寒い。

 空を見上げると、分厚い雲がかかり、山頂は全く見えない。


 ゴール目前で、ミサキがはしゃぎながら言う。


「あのロープウェイに乗ると、雲海の上でサイクリングが出来るのよね?」


「うん。その前にちょっと肌寒いから、上着を着ようよ」


 僕が言うと、みんなは鞄から上着を取り出して、それを着る。ただしミサキ以外だ。


「えっ、夏なのに、みんな上着なんて持ってきたの?」


「メールで事前に告知しただろう……」


 キングが少しあきれながら言う。やはりあの告知のメールをちゃんと見ていなかったようだ。

 僕がひと言、忠告をしようとすると、その空気を感じ取ったのか、ミサキは開き直った。

 シャツのボタンを一つ、首元まで閉めて、僕らの先頭に立つ。


「これで寒さ対策はバッチリよ、さあ、はやく頂上に行きましょう!」


 その様子に少しあきれたが、ミサキに急かされて、ロープウェイに乗り込んだ。

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