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山と雲海 1

 みんなで図書館で集まって、夏休みの宿題をしている時だった。

 ミサキがどこからか、山岳写真(さんがくしゃしん)の本を持ち出して、こう言う。


「バスのバイト代も入ったし、今度は登山かハイキングにでも出かけてみない?」


「ああ、その前に、今日の分の宿題をこなさないとな」


 ヤン太が山岳写真の本を、いったん取り上げて、両脇からジミ子とキングが監視をする体勢となった。

 ミサキはちょっと目を離すと、すぐに他の事をやり出すので、気が抜けない。



 一時間ほど、交代でミサキの監視を続け、ようやく今日の分の宿題が終わった。


「やっと、終わったわ。ちょっと休憩しましょう。さっきの本を見せて」


「ほらよ」


 ヤン太が先ほど取り上げた、山岳写真の本をミサキに渡す。

 本を開いてみると、そこには青い空と、美しいが、近寄ることも厳ししそうな、神々(こうごう)しい山々の風景があった。



 本をめくりながら、ミサキが何も考えずに言う。


「来週あたり、この写真のどこかの山へ登らない?」


「正気なの? 私たちのレベルで登れるわけ無いじゃない」


 ジミ子があきれ果てた様子で突っ込む。


 こういった険しい山を登るのは、専門技術が必要だ。何も知らない素人が、登れる訳がない。


 もし僕らが、無謀にもこれらの山に挑んでいたら、昔だったら滑落や遭難をしていた。まあ、今は、宇宙人の技術があるので、最悪の事態だけは避けられる。落下遅延の装置を身につければ、滑落しても、深刻なダメージを受けないで済むし、監視システムが僕ら位置を常に把握しているので、遭難してもすぐに助けが来る。

 しかし、そんな周りに迷惑をかける行為は、絶対にすべきでは無い。



 ジミ子の反論も気にせず、ミサキはパラパラとページをめくり、あるページを指さした。


「ほら、この山だったら平気だよ。日本一有名だし」


 そのページには富士山のご来光が載っていた、たしかに富士山は観光客が多く、標高の割に登山道は整備されている。


 確かにミサキみたいに体力さえあれば登れそうだ。ヤン太もおそらくついて行けるだろう。

 だが、僕とジミ子とキングは、この二人について行けない自信がある。ハッキリ言って運動不足だ。

 この間のバスのバイトでは、休憩を挟みつつ6時間立っていただけで、翌日に筋肉痛が来た。とてもじゃないが富士山を登りきる自信は無い。



 僕たちは、富士山に登る気になっているミサキをあきらめさせなければならない。


「富士山は俺らには無理じゃないかな?」


 キングが真っ正面から否定する。すると、ミサキはこんな反論をしてきた。


「この間、お年寄りの人達が登っているニュースを見たよ」


 キングがスマフォで調べると、それらしきニュースが出て来てしまう。

 どうやら老人会で、富士山に登頂するのが、恒例行事らしい。


「まあ、何とかなるんじゃねーか。俺も一度くらいは登ってみたいし」


 心配していた事態になってしまった。ヤン太が賛成派に回ってしまう。

 確かにヤン太の体力なら、問題なく登頂できるだろう。



「ほら、富士山に登る為の道具が3万円以上ですって。高いからやめましょう」


 今度はジミ子が金銭面から攻めた。

 ジミ子が見せたスマフォには、登山靴1万円、レインウェア9千円、防寒具7千円、などなど。必要最低限と見られる装備が書かれていた。もし、富士山の登頂となれば、この間のバイト代が全て吹っ飛ぶだろう。


「その金額だったら問題ないわよ。この間、バイトで稼いだから払えるわ」


 ……そうだった。ミサキは金遣いが荒かった。このくらいの出費は全く気にしないらしい



 追い詰められた僕は、何か変わりになるプランを探し出す事にした。

 富士山よりも魅惑的なプランを立てられれば、運命を変えられるかもしれない。


 しばらくスマフォをイジっていると、たまたま運良く、僕はこんな広告を見つけた。さっそく僕は、みんなに見せる。


「富士山はちょっと厳しそうだから、これはどうかな?『雲海(うんかい)の上を空飛ぶ自転車でサイクリング!』どうやら山頂まで、ロープウェイで上がって。そこからレンタル自転車で空中をサイクリングできるみたいなんだ」


 スマフォの広告には、雲の海を見下ろしながら、優雅にサイクリングをしているイメージ画像があった。

 画面の端に小さく『※これはイメージ画像です』と、注釈が書いてあるが、僕は見て見ぬふりをする。


「良いわねこれ。こっちの方が素敵じゃない?」


 ジミ子がすぐに僕のプランに賛同してくれる。


「これだと、交通費とか1万円以内に収まりそうだぜ」


 キングもすぐに経路と交通費を調べて、話を合わしてくれた。


「まあ、そうだな。いきなり富士山は難しいと思うし、少しずつ山を制覇(せいは)して行けばいいか」


 ヤン太も空気を読んでくれたのか、妥協してくれた。


「でも、どうせ行くんだったら、日本一の山の方が良くない?」


 ミサキはまだ折れない。

 そこで僕は、先ほど知った、とっておきの情報を出す。


「山頂のお洒落なカフェで、ソフトクリームとか食べられるみたいだよ、僕がおごるよ。移動の途中で、食べ放題の果物園もあるみたいだし、今の旬は桃だって」


「……まあ、今回はそこでも良いかもね」


 ミサキが食べ物に釣られて、あっさりと折れた。

 僕とジミ子とキングは、ひとまず胸をなで下ろす。

 もし、仮に登山をする事になったとしても、いきなり富士山は、ハードルが高すぎる。

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