酔っ払いの帰宅
23時を過ぎた頃に酔っ払いが帰ってきた。姉ちゃんだ。
姉ちゃんには是非とも聞きたい話がある。就職先に関してだ。
ほんとうに宇宙人の配下として働くことになったのだろうか?
「姉ちゃん、就職先の事なんだけど」
「ああ、うん、よろこんでよ弟ちゃん。正社員として採用がきまったんだよ~
しかもいきなり秘書室長だよ。まあ、ほかの人はまだ誰も居ないんだけどね」
姉ちゃんはニコニコと笑顔を振りまく。
「あ、うんそうなんだ」
ちょっと聞きにくい雰囲気だけど、聞かずにはいられない。
「姉ちゃん、職場って宇宙人のとこで働くのかな」
「そうだよ。まだ設立されたばかりのベンチャー企業だけどね」
ベンチャー企業って。姉ちゃんの中では、そんなゆるい認識なのか。
下手すると人類と敵対する組織なのかもしれないのに……
姉は上機嫌で僕に自慢をする。
「給料とか前のとこと比べると2倍近くあるんだよ。すごいでしょ」
「そ、そうなんだ。よかったね」
本音は、できればこんな職場はすぐにでも辞めて欲しいが、本人がこれだけ機嫌が良いと否定しづらい。
久しぶりに決まった職場でもあるし、僕はなんと言ったらいいのだろうか……
考えても良い言葉が思いつかない。
ちょっと気になることもあったので、僕は話題をそらす事にした。
「職場の人たちはどんな感じなのかな?」
宇宙人を間近で見ると、どういう雰囲気なのだろうか。
とても気になる。
「いやぁ~、いい人だったよ。歓迎会も開いてくれたし」
「えっ、一人で飲んできたんじゃなかったの?」
「ちがうよ、歓迎会だよ」
「どこで飲んできたの」
「漁民だけど」
「漁民? 駅前の居酒屋のチェーン店のやつ?」
「そうだけど」
「宇宙人も一緒だったんだよね」
「そうだよ。歓迎会なんだからあたりまえじゃない」
……大衆居酒屋で飲んできたのか。
あの3m近くのデカい宇宙人が、地元の駅前の居酒屋で……
シュールな光景だ。想像するだけで混乱する。
「宇宙人って何を食べるの?」
「人間と同じで問題ないって言ってたよ。
とりあえずビールと唐揚げ進めたら、気に入ったみたい」
なんだ、どうなってるんだ宇宙人。ビールに唐揚げって……
もしかしたらあの姿は着ぐるみで中身はおっさんが入ってるんじゃなかろうか?
いやいや、あの科学力は本物だったはずだ。
しかし、ハリウッドとかの映画の技術があれば、テレビで見たあの映像は作れるのかもしれない。
でもそれだと、空にあらわれている立方体の飛行物体の説明は出来ないし……
「色々と食べ物を進めたけど、そういえば塩辛は苦手だって言ってたよ。
食べれるけど、見た目がグロいとか文句言ってた」
姉ちゃんから宇宙人の弱点を聞き出すことに成功する。いや、全く役に立たない情報だけど。
しかも食べられない訳じゃなく、ただ単に見た目が苦手だという。
あの姿でグロいとか言うのか。むしろグロいのは宇宙人の姿じゃないのかな。
……いや、考えてみれば塩辛ってけっこうグロいな。
灰色とも土色とも取れない色をしているし。なんであんな色なんだろう。
途中から宇宙人についての考察が、塩辛と混濁しはじめた。
僕はますます混乱している。
とりあえず、宇宙人と塩辛については置いておくことにして、僕はまた話題をそらす。
「姉ちゃんはどんな仕事をするの?」
「ふふふ、秘書室長さまだよ」
「具体的には何やるの? 電話番? 面会の取り次ぎ?」
「ああ、電話の取り次ぎとかいった簡単な作業はロボットがやるみたい」
「戦車砲に耐えられる、あのロボットが?」
「そう、あのロボット。頑丈だから酷使してもOKって言われたよ」
そりゃ酷使したところで壊れないだろ。あれは。
もし壊れるなら、壊れるところを見てみたいくらいだ。
「ええと、じゃあ姉ちゃんは何をするのかな?」
「アンケートとか統計を取ってレポートを上げる見たい」
「アンケートはどうやって取るの、あのロボットが取るのかな?」
あの華奢なロボットが駅前で署名を求める人たちみたいに、アンケートを集める光景が頭にうかんだ。
僕の考え方は、すでに正気ではないのかもしれない。
「いや、タッチスクリーンで集めるって言ってたような気がする。
私の仕事は集計されたデータを元に、人類の動向を考察をして欲しいらしいね」
「ふーん」
「人類の文化とかも考慮して、これからの政策とかに役立てるみたいよ」
あれ? なんかものすごい重要なポジションじゃないか?
姉ちゃんがこの職に就いて大丈夫か?
「いろいろと私の意見も聞いてくれたし。姉ちゃんがんばるよ。
きっと、これから人類はますます発展すると思うよ」
だ、大丈夫だろうか、この姉ちゃんで。
僕は嫌な予感しかしなかった……
そしてあっというまに一週間が経ち、一回目の改正案の発表を迎える。
※イラストはseima氏に描いていただきました。




