第27回目の改善政策 1
姉ちゃんが軽く夏風邪を引いた。
先週末に海外旅行に行き、はしゃぎすぎて体調を崩してしまったらしい。
4万7千円の格安ツアーで、2泊4日のハワイ旅行という、ちょっと無理なスケジュールも原因だろう。
姉ちゃんは、海外どころか月や火星に頻繁に出張しているが、全て仕事だったそうだ。
プライベートで自分でお金を出してバカンスに行ったのは、生まれて初めての事らしい。
体調を崩すと、すぐに宇宙人の開発した薬を飲んだので、今はだいぶ回復している。しかし念のため、仕事を休んで家で安静にしている。
そんな一方で、第27回目の改善政策の発表がされようとしていた。
正午近くになり、リビングのソファーに座る。
テレビのスイッチを入れると、姉ちゃんが降りてきた。
「姉ちゃん、大丈夫?」
「もう大丈夫よ。明日からは会社に行こうと思うわ。そろそろ改善政策の発表の番組よね?」
「そうだね。もうそろそろ始まるよ」
「私、テレビで見るのは初めてなのよね」
「いつもはどこで見ていたの?」
「スタジオのカメラの近くが多かったかしら? テレビで見るのと、そんなに変わらないと思うけどね」
たまに姉ちゃんもテレビに出る事はあるが、どうやら常にあの場所に居たらしい。まあ、確かに姉ちゃんは、宇宙人の関係者と言える立場だろう。
姉ちゃんがテーブルの横に置いてあった、新聞を広げながら言う。
「今週の改善政策で何が発表されるか、ちょっと心配だわ。政策を決める会議に出られなかったし」
「いつも会議に参加しているの?」
「そうよ。政策の原案となるアンケートをまとめるのは私の仕事だし。実際に行なわれる政策について、私に意見を求められる事も多いわよ」
姉ちゃんは、僕の想像より、かなり権限を持っているように感じた。ちょっと質問をしてみる。
「姉ちゃんの意見って、どのくらい影響力があるの?」
「私の話はちゃんと聞いてくれるわね、意見がそのまま採用される事も多いし。なんとなくだけど、地球人の代表として扱われているみたいね」
……姉ちゃんが人類の代表なのか。
もっと良い人が他に居なかったのだろうか……
「まあ、たまにチーフがとんでもない事を言い出すけど大丈夫でしょう。今はレオ吉くんも居るし」
「レオ吉くんも改善政策の会議に参加してるの?」
「ええ、動物の王国の国王として、月面世界の住人の代表として、政策会議に参加してるわ。本人はあんまり自覚はないかもしれないけどね」
レオ吉くんは、ちょっと気弱な所もあるが、意外としっかりしているので大丈夫だろう。
人類の運命もレオ吉くんに委ねるしかない。
番組開始の一分前。母さんが温めた甘酒を持ってやって来た。
「はいアヤカ、風邪の時はこれが一番よ」
「ありがとう、母さん」
姉ちゃんはマグカップに口をつけて、ズズッと甘酒を口にする。
いよいよ番組が始まるかという時、姉ちゃんのスマフォが鳴った。
「何かしら? おや、レオ吉くんからだわ。さっき噂をしていたからね」
スマフォをイジり、Lnieのメッセージを確認する姉ちゃん。僕が気になり質問をする。
「レオ吉くんから、どんなメッセージが来たの?」
「ええと『ごめんなさい、止められませんでした』その一言ね、何が止められなかったのかしら?」
謎のメッセージの内容を考える暇も無く、正午の時報が鳴り、改善政策の番組が始まった。
番組はいつもの様に福竹アナウンサーと宇宙人の挨拶から始まった。
「こんにちは、第27回目の改善政策の時間です。今週もよろしくお願いします」
「ヨロシクネー」
「さて、今週はどのような政策を発表するのですか?」
ここで、僕はレオ吉くんからのメッセージがちょっと気になった。
もしかしたら、とんでもない政策なのかもしれない。
「今週はこれネ」
宇宙人がテロップを出すと、そこには『あおり運転の取り締まり』と書いてある。
福竹アナウンサーが早速、この内容を聞き出す。
「『あおり運転』ですか。最近、世間で話題になってますね。危険運転をして、高速道路で後続車を止め、さらにドライバーを殴るなどの暴行事件にまで発展したケースもあります。これらを取り締まるのでしょうか?」
「ソウネ。この国でも『あおり運転』『危険運転』を取り締まろうとしてるケド、その定義が難しいらしいから、ワレワレが基準を作って、取り締りをする事にしたヨ」
「なるほど。宇宙人さんが明確な基準を作り、それを判定していただければ、極めて公平な取り締まりが出来ますね」
確かに宇宙人が基準を作れば、極めて公平な物が出来上がるだろう。
だが、ちょっと気になる事がある。
以前、交通違反など、法律の取り締まりをしたときに、非常に行き過ぎた取り締まりをした。
例えば、制限時速を1キロでもオーバーすると速度違反とされていたが、ここまでやるとやり過ぎだ。今回は大丈夫だろうか?
福竹アナウンサーも、この点が気になったらしい。宇宙人から詳細を聞き出そうとする。
「あの、取り締まりの強化は良いんですが、判断基準のレベルはどの程度でしょうか? ささいな違反でも、あおり運転や危険運転と見なされるのでしょうか?」
「ソレハ、広く意見を集めたから大丈夫ネ。100人のうち、99人以上が危険だと判断をする様な、特別に危険な行為をしなければ平気ネ」
「それを聞いて安心しました」
胸をなで下ろす福竹アナウンサー。
前回のような極端な取り締まりにはならなそうだ。
レオ吉くんは何かを心配していたようだが、心配しすぎではないだろうか。
この改善政策はとても良い気がする。




