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格安の宿 1

 第26回目の改善政策が行なわれた、その日の午後。僕らはミサキの家に遊びに集まった。

 ミサキは買ったばかりの重力遮断装置じゅうりょくしゃだんそうちの機能が付いたアタッシュケースを、僕ら見せながら言う。


「えへへぇ~。買っちゃった」


 アタッシュケースは意外と大きい。カタログによると高さ44cm、幅34cm、奥行き19cmで、飛行機の手荷物の持ち込みが出来るサイズを考えて作られたらしい。



 新しいアイテムを手に入れて浮かれ気味のミサキに、ジミ子が冷静に突っ込む。


「その鞄、どうやって使うの?」


「えっ、もちろん物をいれて使うわよ」


「そうじゃなくて、その鞄に何を入れて使うの? 別にその鞄じゃなくて普通の鞄でも良かったんじゃない?」


「……そうね。いや、ちょっと待って、今、考えるから」


 やはりミサキは使い道を何も考えずに買ってしまったらしい。



「そう言えば、他の人はどんな使い方をしているんだろう?」


 僕が疑問を口にすると、キングが早速、ネットを調べてくれる。


「ええと、重い物を気にせず運んだり、壊れやすい物を運ぶ目的が多そうだ。金属の塊を運んだり、精密機械を運んだり、あとは絵画や壺といった美術品に使うらしい。新しいニュースだと、楽器のケースを作るらしいぜ、バイオリンとか高いヤツだと何千万もするらしいからな」


 キングがスマフォの記事を見せながら説明する。たしかに楽器や美術品などの運搬用として、この鞄はは最適かもしれない。



 僕も何かニュースが無いかと調べて見ると、こんな記事が見つかった。


『重力遮断の鞄、老舗(しにせ)の鞄メーカーとデザインのコラボ、決定!』


 記事を覗いて見ると、ビジネス用の落ち着いたデザインから、アニマルプリントの柄、ピンクのかわいらしい花柄まで、様々なデザインの鞄のイラストが載っていた。


 僕はその記事をみんなに見せながら言う。


「色々なデザインが出るみたいだよ」


「本当ね。かわいらしいわね」


 ジミ子がそう言うと、ミサキが床に膝をついて落ち込んだ。


「失敗したわ…… もうちょっと待てば色々とデザインが選べたのに……」


 ミサキの買った鞄は、黒く鈍い金属のような質感で、装飾は一切無い。下手をすると、ジュラルミンのアタッシュケースより、無骨(ぶこつ)に見えてしまう。


「ま、まあ。機能的には変わりないし」


「でも、かわいくないもん」


 僕が励まそうとしても、ミサキは落ち込んだままだ。するとキングがフォローしてくれた。


「ほら、スマフォケースみたいに、その鞄の着せ替えケースも発売されるみたいだぜ」


 そういって、別のニュースの記事を見せてくれた。


「……ほんとだ。コレが出たら絶対に買う!」


 外見を変えられる事が分かり、ミサキはなんとか持ち直す。

 しかし、アタッシュケース本体が1万7千円なのに、カバーが8千円とか9千円とかする。牛革製のケースに至っては2万1千円と本体よりも高い。こんな物を買う人が居るのだろうか? 

 ……そういえばミサキが買うつもりだった。



 一通り、この鞄の使い道を調べた後、質問の矛先(ほこさき)は再びミサキへと向う。


「それで、ミサキはその鞄に何を入れて使うの?」


 ジミ子の容赦ない質問に対して、しばらく考えて居たミサキは、鞄を持ったまま部屋を出る。


「ちょっと待っててね」


 部屋を飛び出したと思ったミサキは、すぐに戻ってきた。そして鞄をテーブルの上に置いて開けると、中にはコップに注がれた麦茶が入っていた。

 ヤン太がミサキに話を聞く。


「さっき、鞄を横にしていたけど、それでも平気なのか?」


「そうよ。真横にしても、逆さにしても、この鞄の中だと大丈夫なの」


 ちょっと得意気なミサキに、ジミ子がまた突っ込みを入れる。


「そのためにこの鞄を買ったの? ペットボトルで持ち歩けば十分じゃない?」


「そ、それはそうかもしれないけど、斜めにすると困る物…… そうだ! カレーよ! この鞄があれば、いつでもカレーを持ち歩けるわ!」


 ミサキはかなり苦しい使い道を考え出す。



「カレーならタッパーで持ち歩けば良いじゃない」


 ジミ子の厳しい突っ込みに、ヤン太が仲裁(ちゅうさい)に入った。


「まあ、せっかく鞄を買ったんだから旅行で使えば良いじゃないか」


「そ、そうね。旅行へ行くつもりだから、この鞄を買ったの。みんなでどこかへ行きましょう」


 ミサキが思い出したように言う。するとキングが鞄を見ながら言った。


「その大きさの鞄だと泊まりか? 2泊くらいなら行けそうだな」


「その前に、外泊するとなると親の許可が必要じゃない?」


「それもそうだな、まずは確認が必要だな」


 僕が親の許可が必要だと訴えると、みんなは電話やメールで確認を取る。


 しばらくすると、全員、親の許可が貰えた。

 普通、男女の高校生が外泊するとなると、許可は降りないだろう。でも今は女性しかいないので、安心して許可を出したようだ。



 全員の許可が貰えた所で、僕はもう一つの難問を確認する。


「ミサキ、お金はいくら残ってる?」


「ええと、一万ちょっとかな」


 ちょっと恥ずかしそうに答えるミサキ。ヤン太が思わず声を上げる。


「大丈夫か? 交通費を入れると、泊まれる場所ないんじゃないか?」


 確かに、稼ぎ時とも言える夏休みの最中に、これで泊まるとなると厳しい金額だ。


「まあ、とりあえず探してみよう。ダメだったら日帰りでも良いじゃない」


 僕がそう言うと、みんなは納得する。


「そうだな。とりあえず探してみるか」


 ヤン太の一声で、全員、スマフォで宿を探し始めた。

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