ゲームと夏休みイベント 2
ラブモンGOのイベント当日となった。
この日の為に、ヤン太とキングは二人で何度かラブモンを狩りに行ったらしい。
ミサキはラブモンを嫌がるので、僕とミサキはあえて誘わなかったみたいだ。
ジミ子もこの日に向けて、所持している『深き者』のトレーニングをしていたようだ。
『深き者』自体はあまり強くないらしいが、ジミ子は増殖をしまくり、今は43体も居るらしい。
これだけ数が居れば、MVPを狙えるかもしれない。
一方、ミサキは特に何もしていない。しかし、ミサキの持っている、家よりデカいタコみたいなラブモンは強いだろう。このラブモンが上手く活躍すれば、何かの賞が貰える可能性もある。
ラブモンを持っていない僕は、一度だけ、ラブモンが手に入るというガチャをやってみた。
1回あたり1000円もするガチャなのだが、僕はハズレを引く、『ティンダロスの猟犬』というよく分からないものを引いてしまった。
ラブモンが手に入るガチャを引いたのに、そのラブモンは現われなかった。
ゲームのステータス画面を確認すると、所有しているラブモンの項目には名前は表示されているのだが、姿は何も見えない。
1000円を掛けたというのに何も得られない。ちょっとした詐欺にあった気分だ。
姉ちゃんにクレームを入れようかと思ったが、大したことではないので、そのままスルーする事にした。
ただ、もうあのガチャを二度とやることはないだろう。
この日、僕らは地元の駅に集まることになっている。
姉ちゃんから許可を得て『どこだってドア』で、会場となる酉武ドームへ移動するのだが、今日は白木くんもイベントに合流参加する。『どこだってドア』が置いてある姉ちゃんの会社は、ちょっと分かりにくい位置にある。それなので、集合場所は、分かりやすい地元の駅になった。
集合時間が近づき、いつものようにミサキを迎えに行く、すると「ちょっとお腹の調子が悪いから先に言ってて」と言ってきた。おそらくストレスから来る腹痛だろう。
「調子が悪いなら、今日は辞める?」
そう聞いたら、
「景品がもらえるから、絶対に行く!」
と強く返事が返ってきた。景品は誰でも貰えるわけではなく、MVPなどの入賞者しか貰えないのだが……
しょうがないので、僕は一人で駅へと向う。
駅に着くと白木くんが待っていた。キョロキョロと辺りを見回して、落ち着きが無い。
他の人はまだ来ていないようだ。
「おはよう白木くん」
そう言うと、白木くんは焦った様子で僕に訴える。
「みんな遅いよ。これじゃあラブモンGOのイベントに間に合わない!」
「まあ落ち着いて、間に合うから大丈夫だって」
「いや、絶対に間に合わないでしょ? 新幹線を使っても2時間かかるんッスよ! もう1時間もないじゃないか!」
「いや、平気だから落ち着いて。それにもし間に合わなかったら、例の約束があるから良いじゃない」
「……まあ、そうだけど」
例の約束とは、キングが白木くんとした、デートの約束の事だ。
この集合時間を決めたとき、やはり白木くんは間に合わないと反対した。そこでキングが『もしイベントに間に合わなかったら二人っきりでデートしても良い』という条件を提示した。
普通なら間に合わない時間でも、僕らは『どこだってドア』があるので問題は全く無い。
ちょっとだけ落ち着いた白木くんに僕はラブモンGOの話題を振る。
「ラブモンGOはどう? ちょっとやってみた?」
「いや、それが、インストールはしたものの、まだキッズの方しかやってないんだ。だけどラブモンGOと、ラブモンGOキッズのモンスターは共有で使えるから、問題は無いと思う」
「今日のイベントでは、あの、かわいらしい黒い仔羊のキャラを使うの?」
「ああ、その予定だけど、ツカサくんは何のキャラを使うんだ?」
「僕はラブモンを持っていないんだ。ラブモンの所有欄には『ティンダロスの猟犬』っていうキャラが居るけど、キャラクター実際に出てこないんだ」
「そのラブモンを従えるには、何か条件が必要なのかもな? ちょっと調べて見るか」
そういって白木くんはスマフォで、どこかのサイトを調べる。
しばらくすると、該当するラブモンを見つけたらしい、こう説明してくれた。
「『ティンダロスの猟犬』正常な精神の人間には姿が見えないとされているラブモン。その姿は気が狂った狂人でないと見られないらしい。一説によるとオオカミのような姿をしているとの噂がある。希少度、レアキャラ」
「見えないラブモンなの?」
「そうらしい。もしかしたら俺たちには見えないだけで、ゲーム的には存在はしているのかもな」
「うーん? でも見えないと何も分からないな……」
二人で頭をひねっていると、ヤン太とキングがやってきた。
ヤン太が僕らに声を掛ける
「おまたせ、おっ白木の野郎もいるな!」
「ふざけんなよヤン太。もう絶対に間に合わないじゃねーか!」
「まあまあ、ジミ子とミサキは会社の前で待ってるって。みんなでそっちへ行こう」
キングがそう言うと、白木くんは驚いた表情を見せる。
「えっ、電車で移動するんじゃないんですか?」
白木君に向って、ヤン太は得意気に言う。
「まあ、だまされたと思って着いてきな!」
5分ほど歩き、姉ちゃんの会社が入っているビルにたどり着き、ミサキとジミ子と合流した。
ビルの見た目は普通の雑居ビルなので、白木くんは、なぜここに来たのか分からない。
会社のチャイムを鳴らすと、ロボットが出てくる。
「お待ちしておりまシタ。コチラへどうぞ」
案内されて、いつも使っている『どこだってドア』が置いて有る部屋へと来た。
「『どこだってドア』か、なんだこりゃ? だれがこんな飾りを作ったんだ?」
不思議に思う白木くんを目の前にヤン太がドアを開ける。
すると、ドアはイベント会場の酉武ドームの前に繋がった。
「ほらな、間に合っただろう」
得意気に言うヤン太。
「すげぇ、本物の『どこだってドア』じゃねぇーか!」
白木くんは本気でビックリしている。僕らはもう慣れてしまったが、初めて使う人は驚いてしまうだろう。
「早く移動しましょう」
ジミ子に背中をおされ、白木くんは恐る恐るドアをくぐった。




