ゲームと夏休みイベント 1
ヤン太からLnieでメッセージが飛んできた。
『悪い、キング。白木のヤツがさ、会わせろってうるさいんだ。ちょっとでいいから会ってくれないか?』
『良いぜ、ただ、9日後と16日後はダメだ。ゲームのイベントがあるから』
『分かった、じゃあ、それ以外の予定で白木のヤツに聞いてみる』
白木くんとは、隣の高校に通うヤンキーだ。昔はよくヤン太と決闘と呼ばれるタイマンのケンカをしていたそうだが、最近は控えているらしい。
どうやらキングに気があるらしく、ヤン太にちょくちょく連絡をしてくるようだ。
しばらくすると、スマフォが鳴った。画面を見てみると、再びヤン太からだった。
『連絡取ったら白木のヤツがさ、明日に会えないかだってさ。どうだろう?』
するとキングが答える。
『うん。明日でも良いぜ。ただ一人だとちょっと怖いから、出来ればみんなで会いたい』
『他のみんなの予定はどうだ?』
ヤン太の質問に、ミサキ、ジミ子、僕が答える。
『私はいつでもOKよ』『午後からなら空いてるわ』『大丈夫だよ』
『じゃあ、午後1時半に隣町のショッピングモールに空飛ぶ自転車で集合だな』
ヤン太のメッセージにミサキが素早く反応する。
『そこだと、前にいったスイーツ食べ放題の店が近いわね。あそこにまた行きましょう』
『わかった。そう伝えておくよ』
こうして僕らの予定が決まった。
翌日のお昼過ぎ、僕はミサキを迎えに行く。
家の呼び鈴を鳴らすが、なかなか返事が返ってこない。
しばらく玄関前で待っていると、ミサキがようやく出てきた。だがちょっと様子がおかしい。お腹からはグルグルと変な音が聞こえ、どことなく弱々しく見えた。アイスでも食べ過ぎて、お腹でも壊したのだろうか?
「大丈夫、ミサキ? 体調が悪いなら今日は辞めようか?」
そういうと、僕に手のひらを向けて、こう言った。
「大丈夫よ。スイーツの食べ放題に向けて、お昼を抜いただけだから」
フッと不適な笑みを浮かべる。
……まあ、これなら心配しなくてよさそうだ。僕たち二人は空飛ぶ自転車で、隣町のショッピングモールへと向った。
空の道はとても安全だ。車や歩行者に気を使う必要が無い。
いつもは空中だとアホみたいに飛ばすミサキだが、今日は力なくペダルを漕いでいる。その速度はあまりにも遅い。
「軽く食べてくれば良かったのに」
僕がそう言うと、ミサキは反論した。
「お腹が減ってると、想像以上においしく感じるのよ。妥協はできないわ」
……何やら変なこだわりがあるようだ。僕はあまり気にせず、ミサキの先を進む。
到着時間が遅れそうなので自転車を止めて、みんなにメッセージを送ろうとした時だ。ヤン太の方から、こんなメッセージが流れてきた。
『ジミ子とキングと白木のヤツと合流した。ちょっと人気の無い6階駐車場に移動するわ。ツカサとミサキもそっちへ来てくれ』
なぜ、そんな場所に移動しなければならないのか?
僕は嫌な予感がした。すぐにメッセージを返す。
『どうしてそんな場所へ移動するの? 正面玄関の待ち合わせで良くない?』
メッセージを送ったが、誰からも反応が無い。
これは、もしかしたら、ヤン太と白木くんはケンカをするんじゃないだろうか?
人気の無い場所に移動する理由はそのくらいしか考えられない。
「ミサキ、急いで! 出来るだけ早く行こう」
僕らは自転車を飛ばし、待ち合わせのショッピングモールへ向った。
ショッピングモールに着くと乱暴に自転車を止め、小走りで玄関ホールを抜けてエレベーターの中に滑り込む。
『6F』のボタンを押し、再び扉が開くのを僕らは待つ。
急いでいるせいか、エレベーターの速度がいつもより遅い気がする。
『6F』のランプが点くと同時に、僕らは駐車場へと飛び出した。
この階に車はほとんど停まっておらず、人も誰も居ない。
キョロキョロと辺りを見渡すと、柱の陰の方からジミ子の「うわぁー」という声が聞こえた。
「こっちへ来て!」
ミサキの手を強く引っ張り、声の聞こえた方へ近寄る。
すると、再びジミ子の声が上がる。
「うわぁー、可愛いわね」
『かわいい?』僕の頭の中で疑問符が浮かんだ。
「こんなグラフィックになるとは思いもよらなかったぜ。本当に可愛いらしいな」
続いてキングの声が聞こえてきた。何を話しているのか想像もつかない。
「何がかわいいの? 私にも見せて」
ミサキがジミ子達の前に飛び出す。すると、ジミ子が残念そうにこう言った。
「あっ、消えちゃった」
「えっ、何が消えたの? 何を見てたの?」
辺りを見渡すミサキだが、特に変わった物は見当たらない。
状況が分からない僕とミサキに、白木くんが得意気に説明してくれる。
「うちの高校で流行っているコレですよ」
そういってスマフォを差し出して来た。その画面には『ラブモンGOキッズ』の文字があった。
「うへぇ、ラブモンGOかぁ……」
ミサキがあからさまに嫌な顔をする。
「いや、本当に可愛いわよ。ちょっと見てみなさいよ」
ジミ子に強く言われて、ミサキは少しだけその気になった。
「分かったわ。そこまで言うなら、ちょっとだけ見てみましょう。どうするんだっけ?」
「プレアデススクリーンを呼び出して設定すればいいんだ」
ヤン太がミサキに設定のやり方を教えた。
ラブモンは、ゲームをしているプレイヤーの前だけに現われる。プレイしていない人が居ると、キャラクターは姿を見せない。
おそらく人目を避けるため、この駐車場に来たのだろう。
ミサキの設定が終わると、白木くんの持っているラブモンが現われた。
それは、黒い仔羊のキャラクターで、あたりをピョンピョンと跳ね回るように移動する。
僕らの知っているラブモンとは大きく違い、キッズ仕様のラブモンだ。ネンテンドーのボクモンGOと遜色のない、デフォルメされた愛らしい姿をしている。
「うわっ、本当にかわいい!」
ミサキは思わず声を上げた。
「コイツを手に入れるの苦労したんですよ。人気スポットでしか取れない種類ですから」
白木くんが少し誇らしげに言う。
「そんなに流行ってるの?」
僕が聞くと、白木くんはスマフォである画面を見せながら、こう言った。
「大人気でイベントも開かれるんっスよ。ほら」
そこにはイベントのポスターがあったのだが、タコの触手が覆い尽くすような背景に、宇宙人のフラットウッズ・モンスターが、触手に絡まりながら目からレーザーを出して応戦するカオスな絵が載っていた。
絵の下には『エイリアンvsクトゥルフ』と英文で書いてある。
「こんなイベントがあったんだ」
僕がそう聞くと、白木くんはちょっと残念そうに言う。
「これ、ラブモンGOのイベントで、18歳以下は参加できないのが悔しいけどね」
イベントの注意書きを見てみると『ラブモンGOのプレイヤーに限る』との一文がある。
ラブモンGOは、18歳以下はインストール出来ないので、本来なら高校生は参加できない。
ここでジミ子が余計な事を言う。
「お姉さんの権限を使えば、白木くんも参加できるんじゃないの?」
「本当ッスか!」
目を輝かせながら喜ぶ白木くん。
そんなにこのイベントに参加したいのだろうか?
「うーん。ちょっとどうなるか分からないけど。聞いて見るね」
僕は姉ちゃんにメッセージを送り、返事を待つ事にした。
この後、僕らはスイーツ食べ放題の店に行き、デザートとお茶をする。
しばらく話した後に、僕のスマフォが鳴った。画面を見ると、姉ちゃんからだ。
『お友達ならOKよ、18歳未満だけど、ラブモンGOをインストールできるようにして置いたわ。姉ちゃんもイベントの設営を頑張るから、楽しんでいってね。景品もあるからね』
どうやら姉ちゃんは、僕たちもイベントに参加すると思い込んだらしい。
こんな返事をされてしまうと、僕たちも参加せざるを得ないだろう。
とりあえず、僕は白木くんにこの事を伝える。
「白木くん。ラブモンGOのインストールが出来るようになったって。イベントにも参加できるらしいよ」
「よっしゃぁ、まさか参加できるとは!」
本気で喜ぶ白木くん。
一方、ミサキはケーキをむさぼりながら、参加を否定する。
「私は出ないわよ」
「うん。無理に出なくていいよ」
前のラブモンGOの時の怖がりっぷりを見ていると、ミサキは参加しない方が良いだろう。
すると、ジミ子がイベントのページを見ながらこう言った。
「このイベント、景品があるわね。MVPには、商品券とタコ焼き1年分が贈られるみたい」
「私、参加するわ」
食べ物につられ、あっさりと意見を変えた。参加するのは良いが、これは大丈夫なんだろうか……
「俺たちはどうする?」
ヤン太がキングに話しを振る。
「出ても良いけど、せっかく出るならもっとラブモンを集めてから参加したいぜ」
「俺、ラブモンの居る場所知ってます! あの場所には、こんなラブモンが居るんですよ」
白木くんが、生き生きとゲームの話しをする。
結局、全員がこのゲームのイベントに参加する話になって、この一日は終わる。
やはり元男子は、ゲームの話しで盛り上がる。白木くんと僕らの距離が少し縮まった気がした。
後日、ラブモンをいくつか捕獲し、僕らはこのイベントへと挑む事となる。
※イラストはseima氏に描いていただきました。




