表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

239/567

終業式とスポーツ施設 3

 みんなでビリヤードで遊んでいると、ミサキが「ダブル・スネーク・ヘッド・ショット!」と、変な技名を叫びながらショットを打つ。説明を聞くとヘビの様にクネクネと曲がるショットらしい。

 もちろん、技名を言ってショットを打つだけでボールが曲がる訳はなく、変な方向へ転がっていっただけだ。


 ゲームをしていると、このミサキの奇行は何度か繰り返された。



 2ゲーム目に入り、ミサキが初めのショットを打つ事になった。


「ふふっ、みてなさい『バツーカー、ブレイク、ショット!』」


 ミサキがボールを力いっぱい突く、ガゴォンと凄い音がなって、ボールは派手に散らばる。

 なかなか良いショットだと思うのだが、ミサキは驚いた様子で固まっていた。


「なん……だと……、思い切り打ったのにボールが粉々に砕けないだと……」


 ブツブツと小声で変な事を言っていたので、この時、みんなは聞こえないふりをした。



 ゲームは進み、コーナーにボールが集まった場面で、ミサキに順番が回ってきた。

 すると、ミサキはキューを高々と(かか)げ、こんな事を言い出した。


「このショットは重力を支配するわ『ブラックホール、ショット』」


 キューをクルクルと振り回し、球を突く。

 もちろん、このショットによって重力は発生する事はなく、通常の物理法則に従って球は転がっていった。


「おかしいわね。何かまちがえたかしら?」


 首をかしげるミサキ。


 いくら何でもマンガから影響を受けすぎだろう。流石に注意をする。


「ミサキ、マンガで出てくるようなショットは無理だから、普通にゲームをやろうよ」


「そう? やってみないと分からないんじゃない?」


「いや、『重力を支配』とか絶対に無理でしょ」


「それはそうだけど、凄いカーブする球とかは出来るでしょ?」


 キングが渋々、それを認める。


「『マッセ』という独特の突き方があって、それをやればすげえ曲がるけど、素人には不可能だ。

 偶然に曲がる球を打てたとしても、思い通りのショットを打つのは絶対に無理だな」


「ほら、難しいけど、やろうと思えば出来るのよ」


 ほぼ無理だと言われたが、可能性がゼロでは無いと言われて開き直るミサキ。

 まあ、確かに、血の(にじ)むような練習をすれば出来るようになるかもしれないが……



 僕が困っているとヤン太が助けてくれる。


「常識的に考えれば、そんなショットは無理だろ。小学生の時、野球で練習した『見えなくなる魔球』『ボールがバットを避ける魔球』だって投げられなかったじゃないか」


「まあ、確かに投げられなかったけど……」


 ミサキがちょっと大人しくなる。


 たしかに小学生の頃、かなり魔球の練習していた。

『見えなくなる魔球』『分裂する魔球』『常にバットをへし折る魔球』。

 様々な魔球を試みたが、実現した魔球は一つも無い。


 あの頃、ミサキは『メジャーリーグ強制ギプス』を欲しがっていたが、もちろんそんな物は売られているハズも無く、いつもまにやら忘れたようだが……



 魔球と言われてジミ子も何か思い出したようだ。


「そういえば中学生の頃、テニスの時も魔球を打とうとしていたわよね『テニスボールで人を吹っ飛ばす』『相手の五感を全て奪う』とか無理だったでしょ?」


「そ、そうね。特に『五感を奪う球』とか、あの時は具体的にどうすれば良いのか分からなかったし……」


 そういえばあの頃はテニスのマンガにはまっていた。

 練習の肝心な所で変な動作をして、よく先生に「真面目にやりなさい」と怒られていた気がする。



 追い詰められたミサキは、あらぬ方向へ意見を展開する。


「あの時は不可能だったけど、今なら出来るんじゃない?」


「それってどういう事?」


 僕が質問すると、ミサキは得意気に答える。


「今なら宇宙人がいるから、魔球だって実現できるんじゃないかな?」


「うーん。宇宙人の技術だったら、もしかしたら出来るかもしれないけど……」


「きっと出来るわよ。子供の頃、夢だった『どこだってドア』も実現できたんだし」


「たしかに、そうだけど……」


「私、お姉さんにちょっと相談してみるわね」


「えっ、いや、ちょっと無理じゃないかな。最近は忙しそうだし」


「そうね。でも、ダメもとでお願いしてみるわ」


 思わぬ所で姉ちゃんの名前が出てきてしまった。

 普通だったら、たとえ魔球が開発を出来る技術力をもっていたとしても、そんなものに時間をかける人は居ないだろう。しかし姉ちゃんだったら悪乗りでやってしまう可能性もある。


 この後、ミサキは普通にビリヤードをプレイするのだが、それがかえって不気味だった。

 もし、ミサキの思い描くビリヤードが実現したらどうなるだろうか……



 ビリヤードの後は、卓球、ローラースケート、スカッシュ、と散々遊んだ後、僕たちは最後にゲームコーナーに入る。


 ゲームコーナーは余り広くなく、くたびれたゲーム機ばかり並んでいた。

 ゲームの中身も外と同じように古い物がほとんどで、人気が全く無く、閑散(かんさん)とした状況だ。


 ガラクタのばかりに見えるが、ゲーム好きのキングには、違うように見えるようだ。


「おっ、SAGEの名作、初代『バーチャルファイターズ』があるぜ。やってみよう」


 ポリゴンの角が数えられるくらい荒い、格闘ゲームをプレイする。


 ゲームが始まると、キングは敵をペチペチと叩く。

 弱パンチから蹴り、吹き飛ばし攻撃とつなぎ、敵を次々とリングアウトにしていく。


 端からみていたジミ子がつぶやく。


「なんか、地味ね」


 キングがプレイをしながら答える。


「まあ、リアルな動きを意識して作ったゲームだからな、しょうがない」


「簡単そうね。私もやってみる」


 単調な動きを繰り返しているのを見て、ミサキが簡単だと判断したようだ。

 乱入して、キングとの対戦を始めた。


「よっ、はっ、あれ? あれれ?」


 ミサキの攻撃は全てガードされ、攻撃の隙をついて、キングが簡単にミサキをリングアウトにする。


「もう一度!」


 負けたミサキはもう一度、対戦を試みるが、やはりあっさりと負ける。


「だらしないな。俺がケンカの手本を見せてやるよ」


 そういって挑んだヤン太も一方的に負けた。


 僕とジミ子はキングに敵わない事が分かっているので、闘いそのものを挑まない。


 近くにある適当なクイズゲームを遊んで楽しんだ。


 この後もミサキとヤン太の乱入は続くが、キングはすべて押しのけた。



 変なゲームや、子供の頃やっていたゲームをいくつか楽しんでいると、時間はもう夜にさしかかっていた。


「今日は楽しかったな、そろそろ帰ろうぜ」


 ヤン太がゲームをしているキングをせかす。


「ちょっと待ってくれ、これが終わったら」


 ゲームの上手いキングは、1ゲームがなかなか終わらない。

 10分ほと待っていたらようやく終わった。


「さあ急いで帰ろうぜ」


 ヤン太に急かされて、僕たちはこの施設を後にする。



 外は日の落ちかけている。薄暗い空の下。僕たちは無料の送迎バスに乗る。

 バスの中で、満足そうに笑顔を浮かべるキング。


「いやぁ、楽しかった」


 つられてミサキも笑顔で答える。


「私も楽しかったよ、ジミ子はどう?」


「私も楽しめた。これならまた来てもいいかもね」


 僕も十分楽しめた、ここなら丸一日、過ごす事もできるだろう。


「そうだね。明日から夏休みだから、毎日だってこられるね」


 そういうと、ヤン太がちょっと反論する。


「流石に毎日は金がもたないんじゃねーか」


 ミサキが自分の財布の中を覗きながら言う。


「そ、そうね。ちょっと無理かもね。お姉さんに良いバイトがあるか聞いておいてくれない……」


 僕がミサキの財布を横から覗くと、そこには小銭しかなかった。


「わかったよ。こんど聞いておくね」


 姉ちゃんのバイトはあまり引き受けたく無いが、ミサキだけ一緒に遊ばない訳にはいかないだろう。

 危険なバイトでも引き受けざる終えないかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ