勉強合宿 4
ほとんど味のしない食事を摂り終わると、僕らはいよいよ勉強に入る。
ロボットの家庭教師に来てもらい、まずはミサキの苦手な数学から勉強する事にした。
いつもなら5分や10分で飽きてしまうミサキだが、今日は違った。ものすごい集中力でロボットの解説を聞く。
ロボットは丁寧に公式の説明をしてくれるのだが、ミサキはどうも分からないらしい。
普段からこの授業をサボっているミサキには、難しい公式の意味が理解できない。
なんとか理解しようとしても、芋づる式に分からない点が生まれてきて、それに伴い幾つもの新たな質問が生じる。
新たな質問が出てくる度に、ロボットに説明を求めると、ロボットは全ての疑問に丁寧に答えてくれた。
分かりにくい点は、具体例を持ち出したり、時には立体映像の動画を投影して、出来るだけ簡単に説明してくれる。
集中力の高まったミサキは、これらを凄い勢いで吸収していった。
2時間ほどの講義を受けて、僕らは数学の小テストを受ける。
すると、僕は9点、ミサキは7点の高得点を取る事が出来た。
「やった。やったわ。数学の小テストで7点ですって」
無邪気によろこぶミサキ。
確かに、いままでだったら赤点ぎりぎりの3点とかだろう。
「すごい頑張ったね」
僕が褒めると、ミサキは照れ笑いを浮かべながら答える。
「えへぇ~、私もやれば出来るかも」
できるなら普段からこの調子で勉強してほしい所だ。
ミサキの集中力が続いているうちに、英語の勉強をする事に決まった。
教科書を広げ、問題と傾向を確認するが、勉強をサボっていたミサキは覚える事が多い。
基本的な英単語も覚えていない事が多く、なかなか進まない。
あまり勉強が上手く行かなくなると、ミサキが飽きはじめた。
集中力の切れ始めたミサキを見透かしたように、ロボットがこんな事を言い出した。
「そろそろオヤツにしますか?」
「オヤツもでるのね。どんなオヤツがでるの?」
ミサキが質問すると、ロボットは無慈悲に答える。
「ブドウ糖、いわゆるラムネですネ」
「ラムネかぁ~」
がっかりするミサキ。しかしロボットはこう話しを続ける。
「オヤツのグレードアップの小テストを受けますか?
10点満点の小テストで、獲得点数にともない、
『0点から2点は、ミルクキャンディ』
『3点から4点は、チョコチップクッキー』
『5点から6点は、キャラメルプリン』
『7点から8点は、レモンパイ』
『9点から10点は、苺のミルフィーユ』
となっておりマス」
するとミサキの目の色が変わった。
「受ける、受けさせて下さい」
僕らは小テストを受ける事となる。
どんな点数を取っても、ラムネよりはましだろう。
小テストの問題が配られ、僕らはそれに挑む。
問題は意外にも難しかった。学校で受けるテストより、少し難しいレベルの問題が出題される。
僕は、頭を捻りながら問題に答える。小テストなのであまり時間は無く、すぐにテストの制限時間が来てテストは回収された。
ロボットはその場であっという間に採点をして、テストは返却される。
結果は、僕は6点、ミサキは3点だった。
「うーん。私はクッキーか…… ツカサはプリンね、ちょっと一口ちょうだい」
ミサキは僕におねだりをするが、ロボットから止められる。
「他人への食料の譲渡は禁止されておりマス」
「……一口でもだめ?」
「ダメです」
「ちぇっ、もっと良いグレードのオヤツが食べたかったな……」
するとロボットがこんな事を言い出した。
「再チャレンジを行ないますか?」
「再チャレンジ? またテストを受けれるの?」
「ハイ、オヤツ前の小テストは、何度でも受けられマス。
もちろん小テストの内容はは違いマス。
複数回テストを受けた場合は、最も点数の高かったグレードのオヤツを食べる事ができマス」
「聞いたツカサ? もう一度、テストを受けてみましょう」
こうして僕らは『もう一度』ではなく、何度も何度も小テストに挑む事となった。
問題が出され、それを解く。
分からなかった問題はロボットが説明をしてくれる。
そんな事を繰り返しているうちに、少しづつ取れる点数が上がっていった。
そして8回目の小テストを終える。
僕の得点は9点、ミサキは7点だった。
「もうお腹がへって、これ以上は無理。おやつにしましょう」
ここでミサキが断念をする。
ミサキはレモンパイ、僕は苺のミルフィーユを食べる事となった。
苺のミルフィーユは、あまり甘くなく、上品な味付けだった。苺は酸味がほとんど無く、香りが強い。これが近所の店で売られていたら、行列に並んでも買うだろう。
ミサキのレモンパイも美味かったようだ、あっという間に無くなった。
おやつの後も英語の勉強が続く。
ミサキは何度か集中力が無くなりそうになっていたが、その度に僕が「オマール海老」「カルパッチョ」と、今晩の特別メニューをささやくと、やる気を持ち直す。
そして運命の時間を迎える。
ロボットが晩ご飯のオーダーを取りに来た。
選べるメニューは、和食中心のメニュー、洋食中心のメニュー、そして一部の頑張った人が選べる『特別メニュー』だ。はたしてミサキは特別メニューを選べるのだろうか?
ロボットはミサキのそばに近寄ると、質問をする。
「ミサキ様は『和食』になさいますか?『洋食』になさいますか?」
「……じゃあ、『和食』で」
あれだけ頑張ったのにダメだったらしい。ガックリと肩を落とすミサキ。
そんなミサキにロボットは声をかける。
「一品だけグレードアップできマス。『オマール海老と火星刑務所の野菜のグリル』『サーモンとホタテと白タマネギのカルパッチョ』『林檎とスイートポテトのパイ』どれにしますか?」
暗かった顔が、一気に明るくなる。
「えっ本当?! ちょっとまって、どれにしようかな? ……デザートや前菜も捨てがたいけど、やっぱりメインよね。『オマール海老と火星刑務所の野菜のグリル』にしてちょうだい」
「了解しまシタ」
特別メニューを頼むと、ミサキはドヤ顔でこちらにウインクを飛ばしてきた。
ロボットは次に僕にオーダーと取りに来た。
「ツカサ様は、『和食』になさいますか? 『洋食』になさいますか? 『特別メニュー』になさいますか?」
「えっと、じゃあ『特別メニュー』で」
「了解しまシタ」
僕も意外と学力が向上したようだ。
ミサキがちょっと悔しそうな目で、こちらを睨んで来た。




