勉強合宿 1
厳格な労働基準法が適用され、世間が混乱している中、授業の合間の休み時間に、ミサキがのんきに言う。
「もうそろそろ、夏休みか~。夏休みに入ったら、何をしようかな」
「ミサキさん、何かお忘れになってないかしら?」
ジミ子がわざと丁寧な言葉を使い、ミサキをからかいながら言った。
「何? 特になにも忘れてないけれど?」
何も思い当たらないミサキに、キングはスマフォのカレンダーを見せた。
そこには来週行なわれる、1学期の期末試験の予定表が記されている。
「……そうだった。忘れてた」
浮かれていたミサキの表情が、一気に曇る。
「本当にわすれていたの?」
僕が念の為確認すると、黙って深くうなずく。
どうやら本当に忘れていたようだ。
ミサキは勉強に関しては集中力が全くない。
部屋でみんなで勉強している時も、ちょっと目を離すとマンガを手にして読んでいる。
そこで僕は秘策を講じてきた。とある施設を姉ちゃんに頼み込んで、使わせてもらえる約束をしている。
「ミサキ、今週末、ちょっと出掛けない?」
「いいわよ、どこ行くの? あっ、ちょっとトイレに行ってくる」
そう言ってミサキは席を立つ。
ミサキが居なくなると、ヤン太があきれながら僕に言ってきた。
「来週は試験だぜ、どこへ遊びに行く気なんだ?」
キングも心配そうな顔で言う。
「ミサキは勉強しないと、また追試をくらうんじゃないか?」
その疑問に僕は答える。
「以前、火星に作った学習収容所って覚えてる?」
学習収容所に関して、ジミ子が覚えていたようだ。
「ええ、覚えているわ。確か『AHG共生団体』だったっけ?
学習に障害があるとか言って、援助や補助が必要だと訴えた人達を、送り込んだ施設よね?」
ジミ子が軽く説明をしたので、ヤン太も思い出したようだ。
「ああ、思い出した。この施設で勉強をさせられて、合格点を取らない限り、出てこられない収容所だったよな」
覚えていたようなので、僕は話しを続ける。
「そう。それで、その収容所に今週末の土曜の午後から一泊の予定で行こうと思う。
あそこは何もないらしいから、気が散りやすいミサキにはちょうど良いと思うんだ」
「そうね。それが良いかもね」
ジミ子を始め、みんなは僕の提案に納得をした。
「俺たちは行かなくていいのか?」
キングがそう言うと、ヤン太が学習収容所に興味をもったようだ。
「ちょっと行ってみたい気もするな」
みんなで行っても良いが、この収容所は、かなり問題点を抱えている。僕がその理由を説明をする。
「行きたいなら連れて行くけど、この収容所で出される食事は、かなりマズイらしいんだ。
健康面に配慮されて、頭がよくなる成分も多く入ってるらしいんだけど、病院食みたいに味が薄いらしい。
みんなはそれでも行きたい?」
「やめておく」「遠慮しておくわ」「No Thank You」
全員が参加を否定した。
わざわざマズイ食事を食べに、何もない刑務所のような場所に行く人はいないだろう。
次に、具体的な話をしようとすると、ちょうどミサキが帰ってきた。僕がミサキに話を振る。
「今週末、泊まりで出掛けようと思うんだけど、大丈夫?」
「えっ泊まり? まあ、大丈夫だと思うけど。みんなはどうなの?」
するとヤン太がこう言う。
「俺たちは行かないから、二人だけで行ってこいよ」
「えっ、二人だけで泊まり…… あっ、でも来週、試験があるし」
ミサキがなぜか頬を赤く染めて答える。
なんだろう? 僕は構わず話を進める。
「大丈夫だよ、勉強する為に泊まるんだから」
「べ、勉強って、二人だけで泊まりで勉強って…… 私達にはちょっと早くない?」
「なんで? 早めに勉強しておいた方が良いでしょ? とりあえず持ち物は教科書とノートを持って……」
「きょ、教科書? なんで教科書が必要なの? あっ、保健体育の教科書かぁ……」
「何をふざけているの? 少なくても英語と数学と理科と社会は勉強しなきゃ、赤点でしょ」
「えっ、そういう意味の勉強?」
「当たり前でしょ。他にどういう意味の勉強があるの?」
「あっ、うん、そうだよね。来週試験だしね」
耳まで真っ赤にしながら早口で喋るミサキ。
変な事は言うし、もしかして体調が悪いのかもしれない。
急用が出来てしまいました、今週の前半は更新ができません。




