労働基準法の厳守とその影響 1
第23回目の改善政策が終わり、労働基準法の厳守がなされた。
今日より、一日の労働時間は6時間、残業をいれても8時間以内に収めなければならない。
僕ら高校生は、全ての授業をこなすと6時間を超える日がある。部活も入れれば8時間を超える人のいるだろう。しかし、これらは違法にはあたらない。なぜなら勉強は労働に当らないからだ。
僕は、労働も勉強も似たようなものだと思うのだが、どうやら違うらしい。
その証拠に、児童の労働は法律で規制されている。もし勉強が労働に当るのなら、中学生や小学生が学校で勉強できなくなってしまう。
ミサキは『勉強は頭脳労働にあたる』と、先生に主張したものの、全く受け入れてもらえず、ふてくされていた。
ちなみに、高校の勉強で覚える事は決まって居るらしい。授業時間が少なくなっても、やる内容は変わらない。何度か赤点を取っているミサキは、時間が少なくなったら、今以上について行けなくなるだろう。
僕らは午後の授業を終えて、ホームルームに入った。
担任の墨田先生から、変更事項が連絡される。
「明日の朝のホームルームは副担任の上里先生が、あさっての朝のホームルームはロボットが行なう予定だ。みんなちゃんと言う事を聞けよ」
「「「はーい」」」
「他にも時間割が変わったから気をつけるように。今日はこれで終わりだ」
「「「さようなら」」」
僕たちは先生と挨拶をすると、いつものハンバーガーチェーンのメェクドナルドゥに向う。
メェクドナルドゥに向う途中、ジミ子が話しかけてきた。
「ねえ、知ってる? 墨田先生、明日とあさっては3時間目から出勤だって」
それに答えるミサキ。
「知ってるわよ。10時30分に学校にくればいいらしいね。うらやましいわ」
「うちのオヤジは勤務時間は10時から17時になったな。みんなの親はどうなんだ?」
ヤン太が話しを振ってきた。
その質問に、まずはジミ子が応える。
「うちは勤務時間はほとんど変わらなくて、週休三日になったらしいわ。毎週3連休ですって」
「それ、すごいね」
僕は驚きの声を上げてしまった。
高校生は基本的に日曜しか休みがない。
もし週休三日になったら、何が出来るだろう?
泊まりの旅行とかも、余裕で出来そうだ。もしかすると観光業界などは潤うかもしれない。
続いて僕が親から聞いた話をする。
「うちの父さんは朝の出勤時間は変わらないみたい。8時30から15時30だって」
「うちらより帰宅時間が早そうだな」
ヤン太がちょっとうらやましがる。
「まあ、実際は残業が1時間程度はあるから、もうちょっと遅いかも。それに会社での付き合いが増えるらしいよ」
「飲み会とかするのかな」
ミサキが顎に指を当てて、考えながらつぶやいた。
「うん。飲み会もするらしいけど、あまりに早く会社が終わるんで、店が限られるって文句を言っていたよ。あと、会社の人でジョギングとか、公園の散歩とか、健康によさそうな部活みたいな事をするみたい」
「まあ、それやっても、帰宅時間は変わらなそうだな」
ヤン太が時間を計算しながら答えた。
確かに、ジョギングとか1時間で充分だろう。帰り時間をいつもと同じにするなら2時間もしなければならないが、2時間も走ってられるハズがない。
「キングの所はどうなんだ」
ヤン太が話しを振ると、キングは答える。
「うちの父親は、管理職だから関係無いって嘆いてたよ」
「それは大変ね。勤務時間が減ってやりくりも大変だけど、部下が下手に残業をやって、一日あたり8時間を超えると、刑務所行きでしょ」
ジミ子が指摘すると、キングはこう答えた。
「宇宙人の派遣会社…… まあ、ツカサのお姉さんの会社なんだが、そこが勤務時間のサポートのサービスを開始したんだ。聞いた話だと、規定時間を超えて働こうとすると、仕事の途中でも、ロボットが会社から追い出すサービスらしい。
うちの父親の会社は、それを使うらしいから、平気らしいぜ」
「へえ、便利なサービスがあるのね」
ジミ子が感心する。
確かにこういったタイムキーパーの仕事は、時間に正確なロボットに任せれば大丈夫だろう。
最後はミサキの番だ、僕が話しを聞き出す。
「ミサキの父さんはどうなるの?」
「うち? うちのお父さん、どうだったっけな?」
「聞いてないのか?」
ヤン太があきれながら言う。
「うん。だって関係ないじゃない」
ミサキはきっぱりと言い放つ。まあ、確かに関係ないかもしれないが、ちょっとは気にしても良いだろう。ミサキの父さんは、少しかわいそうだ。
話しながら歩いて居ると、あっという間にメェクドナルドゥにたどり着いた。
世間では、結構な働き方改革を強いられたらしいが、高校生の僕らにはあまり関係がなかった。




